はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

9歳の青春

2018-07-15 20:47:02 | 岩国エッセイサロンより
2018年7月10日 (火)
   岩国市   会 員   吉岡賢一

 小学3年生の孫は野球大好き少年。地元のソフトボールチームの一員として練習、試合に頑張っている。大汗をかいた真っ赤な顔が何ともたくましい。
 チームは3月まで、鍛え抜かれたパワーとスピードを持った6年生が4人もいる強豪だった。しかし、4月から6年生は1人だけになった。他は5年生以下の慣れないメンバーで編成している。強豪から一気に弱小へと様変わりしたといっていい。
 それと同時に、2年の初めからセカンドのレギュラーとして使ってもらっている孫はショートを守ることになった。
 ある日の試合で、5年生の先発投手が崩れて大差をつけられた。監督は将来を見据えてか、投手の練習を始めて間もない3年生女子をマウンドに送った。だがストライクが入らない。うつむき加減で涙がこぼれそう。そこヘショートから駆け寄った孫が、小声で何かを話し掛けた。プレー卜周辺の土を足で盛んにならし、最後にポンと肩をたたいてポジションに戻った。
 投手は勇気を得たのか、ピッチングが変わった。ストライクが入りだし、なんとか試合になった。
 結果は大敗だった。しかし、当たり前のようにチームメートを励ます行為には培った友情、心の交流がある。孫本人にはまだ分からないだろう。グラウンドには9歳なりの美しい青春が展開されていた。見る者の心が熱くなった。 
 勝ち負けではない。精いっぱいの君がいとしい。

     (2018.07.10 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

蛍狩り

2018-07-06 14:28:18 | はがき随筆


 「お母さんが歩ける内に」と最近娘たちが仕事の合間にあれこれ計画をたててくれる。今回は蛍狩り。行き先は古里、田野町の八重という集落。案内して下さるのは何と都会から移住されたというSさん。私より古里のことに詳しくて恐れ入った。
 辺りが暗闇に包まれ、かじかの合唱が響き渡る頃小川の岸辺でピカッと光った。「来た!」と大声を挙げた私。それを合図に黄色の光の乱舞である。古来人の魂にもなぞらえられる蛍の光。古里にこんな蛍狩りのスポットがあったとは……。日常を忘れ幻想の世界を愉しんだ。
 娘たちに感謝の蛍狩りの夜。
 宮崎市 松尾順子(86) 2018/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

雷様

2018-07-06 14:21:07 | はがき随筆


 「ピカッ、ごろごろごろ、ドッカーン」
 けたたましい雷音で目が覚めた。雷様が、ごろごろごろと音をたてておられる。昔から「地震、雷、火事、おやじ」とはよく言ったものだ。
 おいやめいがまだ小さい頃、雷様をとてもこわがっていた。
 「ぴカッ、ごろごろごろ」と音がすると、耳をふさいで走り寄って来て、こわいこわいと言うので、周りの大人たちはにこにこしながら「大丈夫、くわばらくわばら」とおまじないを唱えながら、おさまるのを待った。なつかしく思い出し、その幸せを祈った。
 鹿児島県出水市 山岡淳子(60)2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

夏の自家菜園

2018-07-06 14:08:49 | はがき随筆


 夫の退職後、甘藷の小さな専業農家となった我が家。5月で植え終わり、収穫までの約2ヵ月間はしばしの農閑期となる。その間、菜園作りに精を出す。
 まずは、甘藷畑の隅の空き地には落花生や里芋を植え今年はこんにゃく芋まで植えた。
 夫が小さな畑を菜園用に耕してくれた。西瓜、ナス、オクラ、百日草等々、毎日の成長を見るのが何よりの楽しみだ。
 大好物の西瓜の太る様は、目を見張る。朝晩見ていても飽きない。カラスが狙っている。雑草が次々に出て来る。困難も多いが、収穫や喜びの大きい夏の菜園におのずと足がむく。
 宮崎県串間市 島田さつき(64) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載



じきたくり

2018-07-06 13:55:38 | はがき随筆
 肥後狂句の8月の笠に「じきたくり」が出た。意味がわからないので、体操教室のSさんに尋ねた。「じ・き・た・く・り」とはっきり、ゆっくり言った。Sさんはわからなかった。
 次にAさんにも聞いてみた。Aさんはしばらく考えて「じかにということだろう」と。泥付きのイモを人にやる時「じきたくりばってん」と言ったりするとか。それを聞いていた先ほどのSさんが「立石さんが言うとわからんかったけど、Aさんが言ったらわかった」とひとり大笑いしていた。
 方言は、その言い方が大事らしい。
 熊本県玉名市 立石史子(64) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

きれいですね

2018-07-06 13:48:55 | はがき随筆
 めいのKちゃんとランチの席で「おばちゃんの肌きれいですね」「あら! うれしいわ」店内の照明は怪しげに光っている。もしかしてライトのせい?
 つかの間の喜びもあわと消え、ここは笑うしかなかった。
 潤いのない肌がきれいなわけはない。心優しいK子ちゃんの気遣いに感謝する。ミセスの彼女は美意識が高くていつも輝いている。「きれいですね」の言葉にぴったり。「私のはお金がかかっているのよ、ウフフ……」。ありがたいことに彼女愛用の美肌パックを頂いた。若い人に刺激を貰い心も弾む。さて効果のほどは。
  鹿児島市 竹之内美知子(84) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

雨の日の一杯

2018-07-06 11:40:16 | はがき随筆


 ギュイーン、トントン、シャポシャポ。待つこと数分。「お待たせしました。ブラジルです」。カップを手に目を閉じ、まずは香りを。豊かな芳しさに脳細胞がふわりと ゆるむ。次にひと口。一瞬鳥肌がたち、雑味のない軽やかな苦みが広がる。そして舌に残るのはほのかなフルーツの味。日常から離れるため、時折、珈琲店に身を置く。一杯だけのために豆を挽き、丁寧にドリップされる珈琲。プロが淹れるとこんなにも味わい深くなるものなのだ。飲み終える頃には背筋がスッと伸びる。
 外に出ると雨も上がり、薄日がさしてきた。
 宮崎市 四位久美子  2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな背中

2018-07-06 11:32:35 | はがき随筆
 久しぶりに恩師宅を訪ねる。デイサービスやリハビリなどスケジュール一杯だからおられるとうれしいがとおもいながら。
 案の定玄関も窓も施錠してある。「あぁ今日も会えなかった」と言いながら奥の仏間をのぞくと背中が見えた。お昼寝なら声をかけられない。師の小さな背中が寂しいなと胸がせつない。
 1人暮らしをされて何年のなるのか。気ままだろうがきっと寂しいはず。女の子でもそばにいたらと思わずにはいられない。
 いずれ誰でも一人になるが、その時自分はどうしているか。ケセラセラ? むずかしい。
 熊本県八代市 鍬本恵子(72)2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

熊本大空襲

2018-07-06 11:25:08 | はがき随筆
 けたたましいサイレンの音。空襲警報だ。数分とおかずに「ドドン」「ドドン」と爆発音。西の空が真っ赤に染まる。突然、間近でボーンと激しい火炎が上がり、隣家が一瞬の間に炎上し、燃え崩れる。私の家も飛散した油脂が屋根や壁に付着して青白い炎を発する。火たたきで消火し、延焼は免れる。
 火災のせいか明るくなった夜空にB29の大編隊。さほど高くない高度で次々と通過していく。そして、ひらひらと青白い布をひいた小型焼夷弾が無数に落下するありさまが望見される。翌朝、市街地の広域、近くの歩兵連隊兵舎大半の焼失を知る。
 熊本市中央区木村壽昭(85) 2018/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

老いの人生

2018-07-06 11:16:16 | はがき随筆
 ピンピンコロリ。この言葉、一時老人たちの間でよく言われておりました。まあ私も何となく聞いてはいましたが、自身が86という年になり、身体のあちこちにガタがきて、ほんとにころりとこの世におさらばできたらよいだろうと時々思うようになりました。介護保険は適用がむずかしく、自分の事は自身でと考えてはいますが、なかなかです。
 実際、AI、第4次産業革命とかいわれますから、少子化も進み、若いころ抱いた生活設計も考え直すところにきており、世間に迷惑かけず、残り少ない人生をどうするか考えます。
  鹿児島市 津田康子 2018/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

消えない花火

2018-07-05 12:41:56 | 岩国エッセイサロンより


2018年6月28日 (木)

岩国市  会 員   森重 和枝

 20年前になるが、友人から珍しいアジサイをもらった。
 挿し芽をしたのが今では大株になって、梅雨の庭を彩る。
 隅田の花火という八重咲のガクアジサイで隅田川花火大会が名前の由来らしいが納得だ。
 緑の花心に垂れ下がる白い装飾花の咲く枝を、5輪も生けるとリビングに花火が開いたようで楽しくなる。庭の方の花色は青に変わっても、10日以上白いままきれいに咲き続けている。
銅貨を入れておくと花持ちがよいと聞く。花瓶が銅製だからか長持ちだ。パッと開いてすぐ消えるのが花火の醍醐味。そろそろ幕引きしてあげようかな。
  (2018.06.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

屋号とラジオネーム

2018-07-03 17:00:09 | はがき随筆
 僕の実家は商店街の中にあり洋装店を営んでいました。商店街の面々は名字で呼び合うのではなく、各お店の屋号で呼び合っていて、うちの場合は「ひまわりさん」、3軒隣の酒屋は「宝来屋さん」、はす向かいの食堂は「松ケ野さん」と言う具合です。お互いの名前よりも店の屋号で呼び合うことが商店街の一員としての一体感を増す、よりよい呼び方なのかもしれません。
 それは僕が見て育った中での情景だから懐かしく、今、ラジオを聴きながら思うのはリスナーをラジオネームで呼ぶことも素性が同じつながりを覚えます。
  宮崎市 元山沢(58)2018/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

世迷い言です

2018-07-03 16:51:41 | はがき随筆
 此ノ頃オ上ニハヤル物 文書改ザン廃棄ナド 疑イノ闇閉ザスママ 後世史家ノ言如何ニ 忖度シキリノオ役人 御用済ミナラ尻尾切リ 任命責任シラヌ顔 スマジキモノハ宮仕エ
 御飯論法ハグラカシ 記憶ノ限リゴザイマセン 国会質疑カミアワズ 野党空振リ力無シ
 大バーゲンの国有地 検察立件困難ト 不起訴決定メス入レズ 司法ニ期待裏切ラレ
 オ友達トノ食事会 李下ニ冠正ス人 庶民納得出来カネズ゛
 トランプ頼ミノ外交モ 気付イテ見レバ蚊帳ノ外 是非モナキ世ノ嘆キカナ
 年寄りの愚痴ご容赦下さい。
 熊本市中央区 増永陽(87) 2018/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載

見たかった

2018-07-03 16:25:57 | はがき随筆


 朝のラジオ体操を済ませて家に入り、お出かけ準備にかかった。7時20分、家を出て通りへ。桜島の右手一帯が真っ黒い。台風の雨がもう来たのと行く手の空を見上げながら坂を下った。しかし雨の気配はない。外を見上げると黒雲が頭上まで来て、上空の風に舞っている。噴煙だ! 誰かが「4700㍍まで上がった」という。全くその様子を見ないで残念。6時40分にはまだあがっていなかったもの。白煙をまとっただけの桜島。どんなふうに4700㍍も。見たかったと思いながら黒煙を恐れ、娘に車をお願いしてリハビリへ行った。
  鹿児島市 東郷久子 2018/7/1 毎日新聞鹿児島版掲載