はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

言葉と風習

2018-09-21 17:37:40 | はがき随筆
 5月上旬の「はがき随筆」に八代市の方が、上棟式の話を書いていた。読み始めて「しとぎ餅」の言葉に目が止まった。北九州生れの私は「餅まき」しか知らない。「しとぎ」についてインターネットで調べてみた。上棟式でまく紅白の餅を熊本・大分では「しとぎ」と呼ぶ。東北地方では、今も「しとぎ餅」が売られている。「しとぎ」とは餅が「もち」という言葉になる以前の言葉らしい。
 自宅付近にも新しい家が建っているが、最近は上棟式をほとんど見ない。「しとぎ」どころか「餅まき」という言葉も消えていくのだろうか。
  鹿児島市 高橋誠(67) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

地籍調査

2018-09-21 17:27:51 | はがき随筆
 梅雨の晴れ間、実家の山の地籍調査に立ち会った。家、田畑、他の山は以前に済んでいた。
 集合場所で調査係の2台の車に分乗した。変わり果てた道を揺られて向かった。行き止まりで降り、虫よけ帽をかぶり完全装備で目的地へ進んだ。辛うじて通れる道は係員が前日までに草や木を払い準備をしたのだ。
 見覚えもない道を奥へと、橋が崩れた川を渡り、谷を上り、急傾斜地に着いた。昔の人たちは、こんな遠くまで通い、山を守り育てたのかと感慨深かった。
 墓に寄り、残りは一カ所だけと父に報告。うれしそうに山の事を語る顔が浮かぶ。
  宮崎県串間市 武田ゆきえ(64) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

蝉の一泊

2018-09-21 17:18:27 | はがき随筆


 なかなか涼しくならなかったこの夏のある夜、網戸をちょっと開けてみた。突然、アブラゼミが「ミーン、ミーン」と大声をあげて飛び込んできた。びっくりして眠気も吹き飛んだ。
 カーテンにとまったので手で捕まえようとしたが、ビクビク逃げ腰の私の手から飛び去り、姿は見えない。しばらく探したがどこに隠れたのか。「1泊させてください」かも知れない。翌朝早起きしてみると、台所にいた。戸を開けてやると「ありがとう」とも言わないで飛んでいった。今日も「暑い、暑い」と鳴いているのだろうか。夢のような熱帯夜の出来事だった。
 熊本市中央 川口紋子(90) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

なんにも

2018-09-21 17:11:49 | はがき随筆
 朝、水で洗顔、外出から帰宅すると洗顔、と一日4、5回洗顔。それも水道水だけで汗と脂肪をよく洗って流す。この夏は特に汗だらだらだった。以前、日焼け止めを塗ったが、それと汗が混ざって目に入り大変だったので、以後は全然。それにしても化粧品の数多いこと。みんなそれなりの効能があるのだろうが。
 半袖を着て通勤していたころ、覆われていない部分にしみができて久しく残っていたが、老いの年々、薄れているのに気づく(ないよりは存在感あるが)。だんだん皮膚も生れたときに戻るのかな。
  鹿児島市 東郷久子(84) 2018/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鶴が折れた

2018-09-21 16:57:45 | はがき随筆


 友人から折り紙の鶴をもらったことがある。それもまね出来そうにない見事な作品だった。先日チョコレートの奇麗な包装紙に促されるように鶴の事を思い出したので、記憶をたどりながら挑戦してみたが、どうしても鶴の形にはならない。目も疲れて集中できなくなり諦めた。
 が、腑に落ちずにいた私は、改めて挑戦した。去るをイメージして折るがやはりうまくいかず、半ばやけくそに繰り返したらいつの間にか鶴の羽の形が出来ていた。「出来た」とひと声が飛び出す。記憶がよみがえった喜びと安堵が。今回の格闘で脳もかなり活性化したに違いない。
 宮崎市 日高達男(76) 2018/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

お歯黒カゲロウ

2018-09-21 16:39:19 | はがき随筆


 我が家の近くでハグロトンボを見た。どこから来たのか気になり探索開始。まず健軍川を長嶺中学校側から下流2㌔を捜したが見つからない。熊本水遺産に登録されている「鐙田湧水地」へ。今日湧水地は埋め立てられ公園化されているが、その一画の藻器堀川の源流は今でも湧水し小川となっている。その川面の雑草の間を黒いものが飛び交っている。ハグロトンボです。熊本市内にもこんな自然が残っているのに感動すると共に環境保全の大切さを痛感しました。
 熊本市東区 岩屋悦二郎(71) 2018/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載

待合室

2018-09-21 16:27:37 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月20日 (木)
岩国市  会 員   林 治子



理容室のドアを押した。先客が座っていた。散髪の真っ最中。迷いに迷って染めることをやめる決断をした時「カットだけならここ」と決めた。

どうやら終わったらしい。「いくらかの~」という。「○○よ」と返事。一生懸命お金を数えている。「うちの嫁さん、きっちりしか金くれんな~。1枚くらい余分に入れたろうとは思わんのかいな。帰りに遊ぶこともできんわ」とボヤきながら支払っている。「でもの~帰ると、やっぱり散髪しんさると、またほれ直したわと言いよる」とノロけた。居合わせたお客が思わずごちそうさまの大合唱。

 (2018.09.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


直したけれど

2018-09-21 16:26:34 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月19日 (水)
 山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 娘婿は大工さん。困ったときにすぐ駆けつけてくれる我が家の救世主。今回は劣化による流し台の水漏れSOS。思い切って台所のリフォーム工事を依頼。キッチンセットを新設し土壁を耐火ボードに変えたら、明るくきれいなキッチンに大変身。
 これを機会にルンルン気分でメジャー片手に家具を移動させ、いろいろ部屋の模様替え。これで当分大丈夫と思っていたら孫が「僕はパパにどうしても言っておきたいことがある」と婿さんをどこかへ連れて行った。「壁紙にひびが入ってるじゃない。僕は早く直してあげた方がいいと思うよ」だって。
  (2018.09.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

旧姓の人

2018-09-17 14:27:58 | はがき随筆
 今の姓は母方のものである。私が高校のころ一家全員、姓も本籍も母方のものに移した。母方には男がおらず、両親が結婚するときの約束だったのだろう。家族は以前からそう思っていたので違和感もなかった。
 ある日新聞のコラムを見てハッとした。そこにはわたしの旧姓と同じで、しかも住所も父の出生地と同じ人が紹介されている。これはきっと同じルーツの人に違いない。
 私はかねて父母の親戚とは全く付き合っていない。しかしまだ見ぬこの人に懐かしさがこみ上げてきた。無性に会いたくなった。
  鹿児島市 野崎正昭(86) 2018/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

母と団子

2018-09-16 07:41:01 | はがき随筆
 食べて体力を蓄え生きる。
 いとも簡単な理であるが戦時中は簡単とは言えなかった。そして終戦後も当分食べる満足は得られなかった。
 そんな時代、唯一心にへばりつき離れない事がある。
 それは、おふくろが捻りだす実にうまい団子でした。あの頃はダゴと言っていたが随分空腹を満たしてくれた。
 平籠に入れ高くさげてり、猫のタマと小学1年生の私は狙っていた。椅子に登り団子に届く、慌てて2回も落ちた。ついに父に行った。「籠を少し下げて」とね。少し固めの葉っぱに包んだ団子の顔が見たい。
 宮崎県延岡市 前田隆男(80) 2018/9/16 毎日新聞鹿児島版掲載

白鳥のうた

2018-09-15 17:59:19 | はがき随筆


 白鳥は哀しからずや空の青
海のあをにも染まずただよふ
 中学の音楽の授業で若山牧水のこの歌を知り、とりこになりました。
 歳月は流れ、60代で趣味の大正琴の演奏に出会い、課題曲の一つが白鳥の歌でした。私は思いを込めて一生懸命取り組みました。
 中学以来六十余年、毎日新聞の地域面が宮崎、鹿児島と合同になり、宮崎生まれの若山牧水への思いが強くなりました。
 幾山河越え去り行かば寂しさの 果てなむ国ぞ今日もたびゆく
 9月17日は牧水の90回忌ですね。
 熊本県玉名市 大村土美子(79) 2018/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載

神のお導き

2018-09-15 17:51:23 | はがき随筆
 夫が「体のどこそこが痛い、お陀仏が近い」とこぼす。「それは皆一緒」。気合いを入れて励ます私。生き方上手は、目前の課題を先送りせず、解決を急ぐこと。昨今のニュース、事件や事故の多さに驚愕する人々。「この世に神様は?」と疑問を持ち、哀願して祈る。神は人様優先にて、善意を施す人の心に宿る。やがて自然と悩み事も消え、幸運に恵まれる。これぞ神の助けと考える。人から嫌味を言われて立腹する事もあるが、報復は逆効果。いずれ相手が反省する時はくる。神の導きだろう。思いのままの発言は控えた方が大事とわが胸に刻む。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(78) 2018/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度

2018-09-15 17:41:11 | はがき随筆
月間賞に窪田さん(宮崎)
佳作は柏木さん(宮崎)
久野さん(鹿児島)
増永さん(熊本)


はがき随筆の8月度月間賞受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】16日「特攻飛行機の思い出」窪田恵子=宮崎県延岡市
【佳作】6日「肥薩線真幸駅」柏木正樹=宮崎市
▽29日「幸福感」久野茂樹=鹿児島県霧島市
▽21日=「翁長知事を悼んで」=増永陽=熊本市中央区

 「特攻飛行機の思い出」は、一編の小説を読むような、象徴的な余韻とを感じさせます。特別攻撃隊に編入された子息の出撃を畑から見送りたいと、一人暮らしのご婦人が言ってこられた。やがて出撃のとき筆者の家族と共に旗を振って見送られた情景、その後の空襲、そして連絡のとれないその方、どの一こまをとっても戦争の悲劇以外の何物でもありません。私たちを襲う人生の不条理さについて考えさせられる文章です。
 「肥薩線真幸駅」は、日常生活の中のちょっとした出来事にも、幸福感をもてる楽しみが書かれています。知人に誘われて、JR肥薩線28駅の中で唯一宮崎県にある「真幸駅」に行ってみた。驚いたことに、その駅名は自分の名の「正樹」と音読みが一緒だった。それに「幸せの鐘」まで備えてあったので、少しの幸せを願って、鐘を二つ鳴らして帰ってきた。人々の喜怒哀楽のこもった「古い駅舎」が無くならないといいですね。
 「幸福感」は、病院で見かけた心温まる光景が描かれています。介護施設のヘルパーさんに車椅子で連れてこられた老女が、ヘルパーさんのエプロンに、「幼女が、母親に甘えるように」頭を預け、それを許す「清楚な女性」との穏やかな光景。昨今、被介護者の介護者へのハラスメントが報道されていますが、「心に満ちてくる幸福感」に包まれた筆者の気持ちに同感できます。
 「翁長知事を悼んで」は、翁長前沖縄県知事への追悼の文章であるとともに、沖縄の状況へのどうしようもない怒りが籠められています。沖縄の抱えている不条理と不平等に対して、前知事は、その解決に向けて命を賭して戦った政治家として、歴史に名を残すだろうとう評価です。たしかに閉塞化している今の社会に、ある種の風穴を開けるのではないかという期待をもたせる存在でした。
 この他、日高達男さん「健気に振り子時計」、竹之内美知子さん「花束との出会い」が、記憶に残りました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

思い出

2018-09-15 17:09:21 | はがき随筆


 春に植えたトマトが熟れ、調理しながら遠い日を思い出す。終戦の翌年、小学5年生でまだ疎開してきた同級生が数人いた。食糧難で学級園にはトマト、キュウリを植え、成長を観察しながら収穫を心待ちにした。当時肥料は町道に荷馬車が通った後、あちこちに馬糞が落ちていたのを、2人1組になって、掃除用のざるやちり取りを持って拾い集め、トマトの畝に入れた。赤く熟れたとまとがたまると、先生はくし形に切ったトマトにソースをかけ、それを皆で食した。そのおいしかったことは今も忘れない。このシンプルな食べ方は今も私は好き。
 鹿児島県出水市 年神貞子(82) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

スマホ

2018-09-15 16:58:08 | はがき随筆


 「変えなきゃよかったね」
 「おまえが欲しがるからだ」
と言われるかと思ったが「うん、わからん」とだけ。あとは黙ってスマホとにらめっこの夫。2年前、金婚式を迎えて何かに挑戦とスマホに変えてみた。
 わからないまま操作しながら、わかったことは教えあおうとお互いの成果を期待するも、なかなか進歩はなかった。
 そして2年が過ぎた。そろそろ内蔵電池も寿命みたいだ。
 夫も私も現状は電話とメール中心である。高額の利用料も考えると、また元の機種に戻そうか迷う日々である。が、戻るのは後退みたいで癪である。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(74) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載