はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

たのしい音読

2018-09-15 16:52:17 | はがき随筆
 毎週日曜日を楽しみに待っています。日曜日の別刷り「日曜くらぶ」の時代読み物、逢坂剛さんの「道連れ彦輔居直り同中」です。楽しいし深井国さんの挿絵は大好きです。
 読んでいるうちに絵の中から主人公の彦輔や藤八やりくの旅姿が飛び出して声が聞こえるようです。松林の海辺の音が聞こえ、波打ち際の舟がゆれてるように見えます。絵に吸い込まれる感じです。素晴らしい絵を鑑賞できるのがとてもうれしい。
 岩田専太郎さんの絵に夢中になった青春時代を思い出しました。絵は不思議な力があるように思います。
 熊本県八代市 相場和子(91) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


2人の78歳

2018-09-15 16:44:25 | はがき随筆
 「人生七十古来稀」と言われた時代はいつのことであったのだろう。自分もそれに近い年齢になり、さて、どう生き続けていくか問う日々が続く……。2人の78歳の生きざまを最近ニュースで知る。一人はあるスポーツの組織の会長である。まさしく昭和時代の悪しき習慣、そんたくを引きずり権力を保持した人である。もう一人は平成の時代に根付いたボランティア精神の塊みたいな人で、3歳の幼児を救出した男性である。
 この2人が同年齢とは皮肉なことであるが、この二つの事件が、社会貢献への道しるべを教えてくださったと思慮する。
 鹿児島市 下内幸一(69) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


停留所の光景

2018-09-15 16:37:21 | はがき随筆
 家の近くのバス停は総合病院内にあり、さまざまな光景を見る。特に高齢者のご夫婦をよくお見かけする。
 パスを降りるや、やっと歩かれるご主人を尻目にさっさと車椅子を取りに行かれる奥様、2人で車椅子置き場に行かれ座布団を敷いて座り心地を確かめながら奥様を車椅子に案内されるご主人らさまざまである。
 どのカップルも素敵なことが分かる。さっさと行かれた奥様はご主人を早く車椅子に乗せて楽にしてあげたいことが一番の気配り。乗せた笑顔で分かる。
 長い思いやりの積み重ねの上に成り立っている阿吽の夫婦。
 宮崎市 杉田茂延(66) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


猛暑の老年太り 

2018-09-15 16:31:13 | はがき随筆
 左手親指と中指で右手首を軽く握れていたのが、難しくなった。体重計に乗ったら、なんと2㌔増。猛暑、酷暑続きのこの夏、老年太りとは……。
 太平洋戦争時を腹ペコで過ごした世代。今でも食べ物を残すなど罪悪感さえある体質が染みついている。そのおかげで暑さの中でも食欲は落ちず、むしろ筋肉が増えたらしい。
 内臓脂肪、高血糖などの言葉がちらつくものの、特に不調も感じないし、まあ放っとくか。何かにつけて目減りするばかりの年金暮らし。人はぜい肉と笑うかも知れないが、悪くない、と開き直る。
 熊本市東区 中村弘之(82) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


挑戦する心

2018-09-15 15:57:30 | はがき随筆
 「高齢になったら新しい事に挑戦しよう」との標語がある。
 この言葉に少々触発され絵筆を握る。はがき大の用紙に絵を描き言葉を添える。絵てがみとは画法が異なるので、私自身は「はがき絵」と呼ぶ。
 このはがき絵をみんなの広場欄へ時々送る。掲載されると創作意欲は更に増す。不採用だとどこが不備だったのか自己診断をする。これが難しいのだが自分なりの結論に至らないと、次へとつながらない。
 はがき絵を送り始めて2年弱。まだまだ初心者だ。壁は高いが楽しい気分に挑戦する心を混ぜながら、絵筆を動かす。
 宮崎県延岡市 源島啓子(75) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


やれやれ

2018-09-15 15:51:03 | はがき随筆
 夏休みである。孫娘は18歳、長身でやや美形。一緒にデパートに出かけた。
 まずは化粧品売り場へ。「今が一番きれいな時なのよね」とつい一言。ピカピカの素顔はみるみるうちにどこへやら。大きめの口は流行のピンク色でより鮮やかに。
 グリーンのタイトスカートは裾にスリットがある。即座に「座るときはお膝に注意よ!」と口に出る。
 昼になった。さながらスマホ行列だ。やっと好きな中華を食べ、コップにべったりと口紅の跡を残して家にたどり着いた。
 熊本市中央区 木村恵子(87) 2018/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


月と西郷星と

2018-09-15 15:42:22 | はがき随筆
 真夜中の心地よい冷気をまとい空を見上げる。明るいのは、あんなに近い距離でレモン色の火星がおしゃべりしているからだろう。おおらかでのどかで心が安らぐ。
 それにひきかえ、わたしたちの星は騒々しい。弱い人をいじめたり、核を盾におどし合ったり殺し合ったりしている。自然が憤りをあらわにしはじめたようで、この星ぶっこわれてしまう。かぐや姫さん、西郷どん、どうにかならない? 困ってるの。
 ブツブツ愚痴ったら、西郷星と月がカラカラと笑った。温かい響きがテレパシーで届いた。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(81) 2018/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

彼のとんだ災難の日?

2018-09-15 15:27:18 | はがき随筆
 施設にいる母にふんわりしたのを着せたいと、コインランドリーを使っている。その日もホカホカの洗濯物を取りこんで帰ろうとすると「奥さん使い方がわからんので、教えてください」。初老の男性から声かけられた。1人で不安だったらしい。
 「あら~大変でしたね。まず布団の重さを洗濯します。ドアレバーでロックしたら100円を10枚入れてスタートボタンを押します」。知ったかぶりで実演した。「まだ何も入っていないのに……」と彼の声。「あっ」既にドラムの中は泡だけが勢いよく回っていた。同時に何度も何度も頭を下げる自分がいた。
  宮崎市 津曲久美(60) 2018/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載

山頭火

2018-09-13 12:13:12 | はがき随筆


 地方版が地域総合に変わって5カ月、宮崎、鹿児島のことにも関心が高くなってきた。そんな折、8月17日付「山頭火の句碑建立へ」の見出しの宮崎県都城市野の俳人といわれ各地で催しが開かれていると聞く。親しみがわきしっかり読んだ。
 「温泉はよい ほんたうによい ここは山もよし海もよし」と山頭火が詠んでくれた八代でも、第19回「九月は日奈久で山頭火」が始まる。日奈久には山頭火が宿泊した旅館が残っている。山頭火、俳句、地域の活性化を都城、日奈久共に盛り上げていけるといいなと思う。
  熊本県八代市 今福和歌子(68) 2018/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

金魚

2018-09-13 11:43:57 | はがき随筆


 妻はせっせと水替えをしている。金魚の水槽が五つ。数日間バケツに放置した水でないといけないらしい。休日には、家族さながら声をかけつつ水槽内のこけをとり、酸素ポンプなど丁寧に手入れしている。終わるとうれしそうに泳ぐ姿をうっとりと、時を忘れて眺めている。
 おかげで「また卵を産んだ!」と繰り返し聞く。また水槽が増えるのだろうか。知り合いがたずねてきてその玄関先で褒めてくださる。「この辺の水がいいのでしょうね」「いや腕がいいのだと思ってますよ、きっと」と私が答えておいた。台所からくしゃみが聞こえそう。
  鹿児島県出水市 山下秀雄(49) 2018/9/7 毎日新聞鹿児島版掲載

動き出す

2018-09-09 22:42:04 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月 8日 (土)
岩国市  会 員   樽本 久美

 親子書道展が無事終わった。85歳の母と56歳の私の書道展である。会期前に母は腕を骨折し入院。幸いにも近くの病院だったので、外出許可をもらい会場に。「こんな古い作品がよく見つかったね」と母のうれしそうな言葉。たまたま家の掃除をしていたら、母の作品がたくさん見つかり、今回の書道展を思いついた。生きている間に少し親を喜ばせることができたかな?

 母はもうすぐ退院し、老人ホームでの新しい生活となる。そのホームで私も、お年寄りと一緒に遊書を楽しむ。小学生の時に書いた私の将来の仕事は、書道の先生。 

   (2018.09.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

異常だった夏

2018-09-08 07:56:26 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月 7日 (金)
   岩国市   会 員   片山清勝

 今年の暑さは「殺人的」という恐ろしい表現があった。そのためか熱中症で救急搬送された人は記録的な人数になった。
 暑さは人だけではない。路上に、あおむけで息絶えているセミを何匹も見かけた。カブト虫が暑さと水不足から、全滅に近い放し飼い施設は閑散としている。
 一方で、うれしい異変もある。暑くなって一度も蚊に刺されなかった。こんなことは初めてだ。連日の猛暑が蚊の活動を止めた、こんな珍説をたて出番のなかった蚊取り線香をしまう。
 エアコンをこれほど使う夏は今年で終わりになってほしい。   

    (2018.09.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

見直したよ

2018-09-08 07:55:06 | 岩国エッセイサロンより
2018年9月 7日 (金)
岩国市  会 員   横山 恵子

 「すごい! まだ担いで歩いているよ」とテニス仲間の声。

 「何事かな?」と思ったら「人に踏まれたのかね。砂に半分埋まって動かなくなったアリを仲間が担いでいる」と言う。

 やがて巣らしき中に入った。「人間社会では見て見ぬふりをする人が増えたけど、見習わんといけんね」と、ひとしきり。

 それにしても同じくらいの重さの仲間を担ぐなんて。そのうえ外で餌を探す働きアリの多くは年をとっていると聞き、ビックリ。

 この酷暑の中でも老体にムチ打って働いているアリたちに活を入れられた。

   (2018.09.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

酒よさらば

2018-09-08 07:54:25 | 岩国エッセイサロンより
2018年8月26日 (日)
岩国市  会 員   山本 一



 「酒を飲まない人生」を歩む決意をした。仕事も私生活も、酒が仲立ちした生活よさらばだ。酒を飲むと不整脈を感じるようになった。医師の診察の結果は「飲まなければ問題なし」。医師や家族の推奨は「酒は止める」だ。酒のない人生なんてこれまで想像すらしなかった。無理、ムリ、無理。が、酒を飲まない生活だと「これまでと違う生活がある」と思い至った。
 76歳を機に、新たな人生の出発。想像すると少し楽しくなってきた。車を運転して飲み会にも行ける。これまで迷惑をかけた他人や妻を、今度は笑顔でボクが送ろう。実に愉快だ。

(2018.08.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

教訓の満艦飾

2018-09-08 07:53:42 | 岩国エッセイサロンより
2018年8月19日 (日)
岩国市  会 員   吉岡 賢一

 西日本を襲った集中豪雨は、多くの人を泣かせる大災害となった。私たちは直接的被害を免れたが、呉市に住む息子家族は断水と食糧難に襲われた。3日後、広島市に通じる県道が唯一復旧したと聞いて遠回りと大渋滞を乗り越え、親子4人と2匹が我が家へ避難してきたのは真夜中。嫁は眠りこける5歳と1歳の姉妹にまずシャワーを。「何よりのごちそう」と笑った。
 翌朝の物干し竿は、人々の不安と心配をよそに、愛らしい花柄の数々が風に揺れる。親子共々初体験の大災害は「普通の暮らしのありがたさ」と計り知れない教訓をもたらした。

(2018.08.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)