はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

認知症ケア

2019-01-29 15:44:30 | はがき随筆
 認知症医療の第一人者、長谷川和夫先生の話を聴き感銘を受けた。中でも、認知症患者は「一人の人」として尊重し、その人の視点や立場に立って支えていかなければならないという「パーソン・センタード・ケア」という考え方。長谷川先生は「認知症になっても、人としては発症前と何ら変わらない。ただ暮らしに支障が出るようになったのである」とも言われていた。
 翻って、私は認知症になった友人を「発症前とは違う人」として見ている。長谷川先生の話を肝に銘ずる必要があるようだ。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/1/24 毎日新聞

それから

2019-01-29 15:37:11 | はがき随筆
 それからすでに4カ月がたった。4.5日も過ぎたら、すっかり我が家の愛猫になった。手のひらで包み込むぐらいだった子猫はだんだん大人びてきた。名前は孫娘が「まりん」と付けた。初めは部屋で飼うか外で飼うか迷ったが、結局、縁側に「まりんハウス」を準備して、中に毛布を敷き詰め、夜はハウスで寝てもらうことにした。
 飼い始めてからの2.3カ月は好奇心旺盛で、部屋中のいたる所を探検し、時にはゴミだらけになって出てくる。
 年老いてからの猫との同居だが、話題が増えて「まりん」中心の生活になってしまった。
 鹿児島県志布志市 一木法明(83) 2019/1924 毎日新聞

くじゅうの山で

2019-01-29 15:29:30 | はがき随筆
 昨秋、ゆく年の締めくくりに夫とくじゅう連山を歩いた。結婚50年の日々を振り返り、祝しながらの小さな山旅だった
 途中、稜線上の小高いピークを越えた先に下りの鉄バシゴがあった。何度か歩いた道なので容易に通過のはずだった。だがその日は、霜柱で濡れた靴底が滑り、ふいに不安になり動けない。するとハシゴの下の方から若い女性の声が届いた。
 「ストックを持ちましょう」と私に手を差しのべている。
 見知らぬ人のきっぱりとした助けの言葉に思わずストックを預けた。優しい人と握手を交わし別れたが今でも胸が温かい。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(74) 2019/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

Tさんと蠟梅

2019-01-29 15:22:18 | はがき随筆
 気が付いたら庭の蠟梅が満開になっていた。いつも黄色く色づいた大きな葉の陰に隠れるように咲いている。でも、どんなに控えめに咲いていても、その甘くかぐわしい香りに誘われて黄色い花を見つけることになる。ここ数日、その上品な香りさえも哀しく思えて、涙ぐんでしまう。この正月突然旅立ってしまったお隣のTさんは、わたくしにとって友人であり、優しい姉のような存在の人でもあった。狼狽の花ことばは慈愛。真っ白な百合の花のような、たおやかな女性だったけれど、慈愛に満ちた生き方は蠟梅そのものにも感じられて、寂しさが募る。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(71) 2019/1/24 毎日新聞籠浜版掲載

英語入力で遊ぶ

2019-01-23 20:08:54 | はがき随筆
 カメラ店でプリントを頼む。数年前のこと、発注する際の名前入力がアルファベットで可能と気づいた。たまたま新聞見出しにあったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)をヒントに「Trans Pacific Pertnership」とやってみた。店員に「ちょっと遊ばせてもらうよ」とうそぶく。逆に中村さんという変な老人とマークされた。
 先日は市電内で見た「KOMAMOTO MuniciPai Hospital(市民病院)」で頭の体操。遊びを容認してくれるカメラ店に感謝しつつ、次回を思案中だ。
 熊本市東区 中村弘之(82) 2019/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

校閲記者

2019-01-23 19:59:09 | はがき随筆
 毎日ペンクラブ鹿児島の秋の研修会は、毎日新聞大阪本社の林田英明校閲記者の講演だった。校正と校閲の違いについて「こぼれる笑顔」と書かれた記事を間違いなく「こぼれる笑顔」と紙面化するのが校正で、「こぼれる」のは「笑顔」ではなく「笑み」と訂正するのが校閲などと、実際に発行された「校閲ミス」を示しながら話した。
 校閲記者の守備範囲は広い。新聞まんがの登場人物の服の柄、読書感想文の書籍名から食材の調理法まで、紙面のゴールには、様々な記事にシュートが飛んでくる。彼らは毎回違った方法の赤ペンで阻止している。
 鹿児島市 高橋誠(67) 2019/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

目標

2019-01-23 19:49:11 | はがき随筆
 今朝、広々とした野原を駆け回っている夢を見た。鮮やかな緑の山々も見える。いくら走っても腰も足も痛くならない。うれしい! あれだけ痛かった体の節々が良くなったに違いない。そう思ったとたん、パッと目が覚めた。
 じわじわと腰、肩、膝が痛くなってくる、朝5時だが、寝返りしながら、少しずつ体を起こそう。あちこち痛いのは病気と、年のせいもある。
 今年の目標を考えた。①絶対に転ばないこと②リハビリを続けること③明るく生活すること。簡単にみえるが、なかなか難しい努力目標だ。
 宮崎市 藤田綾子(73) 2019/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

福よこい

2019-01-23 19:38:56 | はがき随筆
 平成30年を表す漢字は「災」だった。確かに、天災は容赦なく各地を襲い、日々進歩する科学知識でも止めることが出来ず、無念でいっぱいだ。だが「災い転じて福となす」ならば、今年は福で表せる年になればと祈りたい。我が家では、春にめでたく6人目の曾孫が誕生予定。また、長女の長男(孫)がトマト農家2年半の研修を終え、独立するという。自然災害は避けられない農業だ。厳しい試練が待ち構えているかもしれない。強い気力で頑張って「福」をつかまえよう。応援するよ。今年の漢字は「福」ならいいね。
 熊本市中央区 原田初枝(88) 2019/1/20 2019/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載

街頭募金

2019-01-23 19:32:02 | はがき随筆
 歳末は募金活動に参加している。小学生と一緒に「赤い羽根の共同募金にご協力くださーい」と呼びかける。ボランティアだが、もう10年になる。担当者から「5万円以上の募金があった場合は連絡を」と言われた。以前、高額の募金があり、寄付金控除ができるので領収書を発行するそうだ。2人の小学生には募金も多いので、赤い羽根がすぐなくなる。私の募金箱はコトリともしない。突然、老紳士が私の前に立った。「この寒空におつかれさまです」と、5000円札を入れてくださった。慌ててお礼を述べたが、募金箱が急に重くなった。
 鹿児島市 田中健一郎(80) 2019/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ワッハッハ

2019-01-23 19:24:15 | はがき随筆
 「あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ……」と10人程でオジャミを回す。70歳以上の高齢者である。毎週金曜日は通学児童のトイレを掃除して百歳体操をする。その後の余興だが、オジャミの中にペットボトルの栓のようなのも入っている。
 我が家の近くにジュズダマがなっているが1個作る程しかない。20個作るには20年生きねばいけない? これは大変。
 今日はオジャミではなくアメ玉3個ずつ握って「あんたがたどこさ……」とテンポを早めるとアメがポンポン床に落ち、両手いっぱいの者や1個も無い者も居て、みんなでワッハッハ。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷どん

2019-01-17 17:39:32 | はがき随筆
 NHK大河ドラマ「西郷どん」が終わりました。世界を見てきた大久保さん、留守政府を守った西郷どん。意見の相違は仕方ないことだったと思います。
 士族の若手たちを教育しようと私学校を創設、努力されたのに、血気盛んな士族たちに担がれ、では行くかと立ち上がりましたが、田原坂での凄惨な戦い。どうしようもなかったでしょう。やっと城山に帰り着いた西郷どん。戦はこれが最後、日本もこれで新しい口国造りができるだろうとつぶやくように言ったのが身にしみます。「勝てば官軍、負ければ賊軍」
 鹿児島市 津田康子(87) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

シャインマスカット

2019-01-17 17:32:04 | はがき随筆
 暑さの残る、ある日のこと。知り合いから宅急便が届いた。
 箱のテープをはがすと、甘い香りがただよう。説明書に新品種のシャインマスカットとあった。他にピオーネ、梨がある。しばらく、見入った。
 手にとると、どれも宝石のようだ。自然が創りだす美しさをしばし感ずる。産地直送とあり、みずみずしい。育てた人が、赤子を包むようにやさしく詰めたのが伝わる。
 早速、娘にお裾分けをする。「心にしみる初めてのあじ」といった。私も、子どもの頃に、おいしい食べ物は、少しずつ口にした、あの日を思い出した。
 宮崎市 田原雅子(85) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

帰省の目的が

2019-01-17 17:24:39 | はがき随筆
 昨年11月に義父が満92歳で亡くなった。我々は、ここ数年盆正月のみならず、年4.5回は熊本に帰省していた。当初は、老人ホームに入所していた義父を自宅に連れて帰りしばしの自宅生活を楽しんでもらうため。近年は、施設や入院先での世話や支払のためへと帰省の目的も変化していった。そしてついに、その目的がなくなった。今年からは、墓参や旧自宅の管理が主目的となる。義父が残ししてくれた家を拠点に、肥後狂句の会や高校・大学の同窓会の仲間との交流、そして肩の荷の下りた妻との県内探訪を楽しみに帰省したい。
 名古屋市昭和区 佐々木信生(71) 2019/1/117 毎日新聞鹿児島版掲載

11月22日

2019-01-17 17:15:14 | はがき随筆
 「平成」の30年間の最後の11月22日、「いい夫婦の日」を迎える事ができた。夫婦円満の秘訣をアンケートで見ると「一緒に運動する」が約62%を示していた。この結果に私は共感している。運動とは言えないかもしれないが、私の健康を気遣う妻が散歩を勧め、ともに歩いている。散歩しながら雲の流れを見、空飛ぶ野バトの群れに目を凝らし、路傍の花々をめでながら田園の道をつつがなく歩いている。並んで歩く妻に来世も頼むと言うと、ちょうど通る電車の音で妻の返事は聞こえず、横顔の汗が朝日に光っていた。「夫婦は二世」を信じて歩く。
 鹿児島県出水市 宮路量温(72) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

挨拶の力

2019-01-17 17:06:31 | はがき随筆
 私と妹は毎日決まった時刻にスーパーに行く。時々80過ぎと思える男の人と女の人に会う。擦れ違い様に「おはようございます」と挨拶をする。
 女の人は、すぐに笑顔で返事をくれる。男の人は小さい声の返事が返ってくる。ところが、こちらを見た顔が私にかまってくれるな、声をかけてくれるなといった感が伝わったくる。それでも何回も挨拶をしていた。
 ある時、歩調をゆるめ穏やかな顔で挨拶が帰って来た。とてもうれしかった。妹と「やっと受け入れてもらった感がするね。継続は力。挨拶の力ってすごいね」と声も弾んだ。
 宮崎県日向市 黒木節子(71) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載