はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

冬到来

2019-01-17 16:27:32 | はがき随筆
 九州に在る私は北国の豪雪を知らない。雪かき、雪下ろしの大変さを知らない。しかし前年は阿蘇も大雪に見舞われた。屋根を落ちる積雪のものすごい音に首がすくみ、雪崩音は家中にとどろく不穏な日。だが、軒しずくに春の気配を感じるとすぐにそれも忘れる。
 だがニュースで見る東北、北海道地方の冬の厳しさは、いかに慣れようと慣れ切れまい。そこに住む人たちの労苦をいかばからかと思う。北海道地震後の冬に、時間、人手、物資、足りないものは多く、日本列島寒々しい。お祭り騒ぎに浮かれるは一握りの方々ではないか?
 熊本県阿蘇市 北窓和代(63) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

さあ立ち上がれ

2019-01-17 16:19:49 | はがき随筆
 地震の頃から体調を崩してずっと街に出ることがなかった。着々と復興が進んでいるお城の姿を見たいし、熊本の繁華街、上通りや下通りの人々の活況も懐かしい。気候のいい11月にバスで街に出掛けようと張り切っていたのに、腰を痛めてまたお預けになった。
 年を重ねるごとに月日の流れが早くなり、年齢の重さに今更のように驚く。
 当たり前に踏まれるあぜ道の草のような人生を忘れて、ラストは視線を投げてくれる人もいるのかもしれない。小道のタンポポになりたい。明るく、チャーミングな。
 熊本市北区 黒田あや子(86) 2019/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

念頭に際して

2019-01-16 21:33:46 | はがき随筆
 光陰矢のごとし、ということわざ通りに歳月の経過が早くて、また新年が回帰してきた。
 今年のえとは亥だが、亥とはイノシシのことである。イノシシと言えば、猪突猛進という語句が思い浮かぶ。イノシシのように向う見ずに突き進むという意味で、そのような行動は慎むべきである。
 私は後期高齢者になってから体力の衰えや動作の鈍さを痛感するが、こればかりはどうしようもない。繰り返しがきかない人生だからせめて精神的な若さを保持し脳を駆使しながら趣味を楽しみ、この年も健康を目標にして過ごそうと思っている。
 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載

お遍路さん

2019-01-16 21:21:49 | はがき随筆
 いつか行ってみたいと、四国八十八カ所を巡るお遍路さんに憧れがあった。そこへ、期間限定の催事で体験できるとのこと。大勢の人の中、一番の霊山寺から八十八番の大窪寺までのお砂とご本尊の掛け軸があり、納め札をお供えした。実際、歩くと一カ月ほどかかるらしい。短時間な上、まね事にも見えるが、膝に自信のない私には打って付けだった。ご朱印と終了証まで頂いた。にわか仕込みの巡礼者ではあったが、心身ともに清められ、元気をもらった。帰りのすがすがしい青空、明るい日ざしが身に染みた。迷ったが、やっぱり行ってよかった。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

見つけ出した楽しみ

2019-01-16 21:06:12 | はがき随筆
 地区の福祉推進チームを立ち上げて7年が過ぎた。1人暮らしの高齢者の見守りと、月1回の「推進チーム便り」を配布しながら、話しかけを始める。夫は「毎月楽しみに見ているよ」と聞くと顔をほころばせた。
 2年前に他界した夫の推進チーム便りの配布を絶やしたくないと、パソコン教室へ通う。70の手習いである。過去の便りの中から記事を拝借し移す。覚えたてのパソコン操作で10月には柿のイラストを。餅つきとサンタクロースは、12月号に挿入した。次回は、どんな「便り」を書こうか想像が膨らみ、マウスを握る手が弾む。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

カマウ選手に拍手

2019-01-16 20:59:05 | はがき随筆
 昨年末の全国高校駅伝大会女子での神村学園の優勝に心からの祝意を表する。最終走者カマウ選手がテープを切った後、選手たちは抱き合って喜びを表した。肌の色の違いなど全く関係なく、寝食を共にする信愛の情があふれていた。感想を聞かれたカマウ選手はきれいな日本語で喜びを語っていた。
 彼女は遠いケニアからやって来た。言葉や生活習慣の違いなどたいへんな苦労もあったことだろう。天性の走力もあるだろうが、苦労を乗り越え、厳しい練習に耐えて栄冠を勝ち取った。その努力、人となりに心からの拍手を送る。
 鹿児島市 野崎正昭(87) 2019/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

綿の布団でいい

2019-01-12 10:58:32 | はがき随筆
 ネットニュースやLINEに目を通し一日が終わる。それから布団を頭からすっぽりかぶって眠りにつく。昔からなぜか? 綿の重さが心地良い。
 睡魔に負けて、朝起きて試験勉強するつもりが、布団の重さを感じて、はっと目覚めた時は既に遅かった失敗がある。
 多感だったその昔、布団をすっぽりとかぶって、枕をぬらした事もあった。あの頃、この重さが妙に慰めてくれたものだ。
 晴れた日には、そのまま引きずって広縁に持って行く。差し込んだ光が、綿を柔らかくしてほっかりする。重くないか? 不思議がられるが、これでいい。
 宮崎市 津曲久美(60) 2019/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載

花と母

2019-01-11 20:21:04 | はがき随筆
 


リビングルームに冬の陽が差し込んでいる。真っ赤なカニサボテン花が6.7輪咲いている。母からもらったものだ。
 母は園芸の得意な人だった。春にはポピー、夏にかけてルピナス、しょうぶ、秋には聞く、冬には葉ボタン、スイセンと花の絶えない庭をつくっていた。そして花を人にやるのが好きだった。喜んでもらえるのがうれしい。花は道路沿いにあって、ある時、たくさんの花を盗まれた。「言ってくれればやるのに。花泥棒も泥棒」と言って残念がっていた。花を愛した人だった。その母の一周忌をもうすぐ迎える。
 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度

2019-01-11 19:42:56 | 受賞作品
 月間賞に今福さん(熊本)
佳作は貞原さん(宮崎)、田尻さん(熊本)、秋峯さん(鹿児島)

はがき随筆の12月度受賞者は次の皆さんでした。


 【月間賞】6日「安田さんと情報」今福和歌子=熊本県八代市
 【佳作】5日「ポチからタマに」貞原信義=宮崎市
 ▽11日「今年の漢字」田尻五助=熊本市中央区
 ▽13日「ツワブキの花」=鹿児島県霧島市


 あけましておめでとうございます。亥年にちなんでこんな言葉を見つけました。「亥(猪)を抱いてその臭気を忘る」。自分の欠点や醜さは自分ではなかなか気付かない。という意味。気をつけねば。皆さんの新年のモットーにはいかがですか?
 今福和歌子さんはシリアで捕えられたジャーナリストの安田純平さんを取り上げ「自己責任」について考えています。保身のため他人をおとしめるという情けない風潮が蔓延する今の日本。これでいいのだろうか、と疑問を投げかけます。偽情報を与えられていた大戦中を思います。正しい判断は真の情報から。安田さんの行動、そして無事に帰国は本当に良かったですね。
 貞原信義さんのユーモアあふれるお話。ご主人の健康を案じて歩け歩けと急き立てる奥様。これから歩きますよ。ポチも一緒よ、と言われつい「ワン」と返事。ホントに? でもそこが貞原さんの真骨頂。2㌔を歩き切ると、知らぬ間に猫背になってしまって「ニャーン」なんて。思いつきませんね。ご夫婦の日ごろの愉快で明るい会話や駆け引きがほうふつとしてきます。
 田尻五助さんは恒例の今年(平成30年)の漢字に興味津々。自分では改竄の「竄」が一番ふさわしい、いかに今の政治が国民を欺いているか、と。実際は「災」でした。しかし「災」も味方によっては国民に災いが降りかかったと考えれば納得できなくもないですよね。
 秋峯いくよさん。庭いっぱいに咲き乱れるツワブキの花から母に思いを馳せるという内容です。この花が好きだった母は戦争未亡人になっても強く働き抜いた。いつも他人を立てて控えめだった。実はこの花の花言葉は「謙譲」「困難に負けない」だとか。まさに母親そのものであると心を振るわせます。温かい随筆です。
 ほかに宮崎の品矢洋子さん、金丸洋子さんが印象的でした。
 熊本文化協会理事 和田正隆

レオタード

2019-01-11 18:56:02 | はがき随筆
 人生最後まで自分の足で歩きたいと思い、ある体操教室を見学に行った。そこは全員はつらつとしたレオタード姿で、とても驚いた。レオタードには違和感があったがすぐに入会した。嫌だったレオタードも自分の体を正しく知り、また一番動きやすいことからすぐに着用した。ぽっこりおなかのレオタード姿は恥ずかしいが、不思議な解放感がある。子供は自立し親をみとり、肩の荷は下ろしたが、人生苦悩は尽きない。髪も眉も白くなった体に花柄のレオタードをまとい、少女のように心解き放ち、深みゆく老いへの道を歩いてゆきたい。
 鹿児島県出水市 塩田きぬ子(68) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

友達になりたい

2019-01-11 18:48:35 | はがき随筆
 カアカア。烏の鳴く声に上空を見上げた。屋根の間に伸びた電線に烏が一羽とまっている。
 「カアカアカア」と間髪をいれずに鳴いてみるが、烏は頭を右に左に向けるだけ。おかしいなあ。私を見ているはずなのに、応えてくれない。
 そこへ、近所のNさんが新聞を届けに来た。声を聞かれたかも、ちょっと恥ずかしい。「烏に声をかけたけど、こっちを見てくれないわ」――Nさんは微笑んでいるだけだった。
 家の前の大きなモチの木にかかる巣で、あの烏は生れたはずと、勝手に決め付けている。
 友達にしてよお。

 宮崎県延岡市 佐藤桂子(70) 2019/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

西郷さあ

2019-01-11 18:39:15 | はがき随筆
 70年ほど前になろうか、小学校5年生、本棚をあさり心ひかれた「肚の人」。誰のこと? 「西郷さあ」のことらしい。おおらかで、ふところの深い人間西郷のことを母が話してくれた。成人して、まさに肚の人と西郷への敬愛の情は深まった。
 巨人に見えて人間的弱さをのぞかせる旧約聖書中のモーセとエリヤが大好き。この2人に西郷はどこか似ている気がする。
 いま西南の役前後の2人、幼少期からの腹心の友同士西郷と大久保のことを思うと切ない。
 共に日本の将来を思い、私情を捨てての決別だったであろうことを思えはなお更に……。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(82) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

胸騒ぎ

2019-01-11 18:10:59 | はがき随筆
 私は、71歳の誕生日を元気に迎えたが、ここ数カ月の間に友や知人が次々と病に伏した。
 日課のように会っていた友もその一人。見舞いに行くと笑顔で「病気になっても幸せ」と何度も言う。私は「すごいね!」と相づちを打ちながら、前向きな友の姿勢が心底うれしかった。
 元気な時には、見えなかった人の優しさや、思いやりにたくさんふれたのかな。
 数日後、抗ガン剤で、免疫が落ちたと言う友へ「根菜のスープ」を届けると、少し色白で細くなった気がした。
 帰り道、急に寒くなった冬の風に身震いし、胸騒ぎがした。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(71) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ほっこり

2019-01-11 18:03:17 | はがき随筆
 雨も2日続けば少々うんざりする。用事を見つけての帰りのこと。しばらく小降りだった雨がまた降り出した。先にバスを降りられた年輩の女性が「どうぞ」と笑顔で開いた傘を差しかけて下さった。「まぁ、すみません」と傘の中へ。「有難うございます」。改めて自分の傘を開いての帰り道、何ともうれしい気持ちになった。
 あの時、自分なら多分さっさと歩き出していたはずだ。ほんの数秒間のできごとに、人に親切にすることを教えられた。近所にこんな優しい方がおられる。心がほっこりして頬がゆるんだ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

時の流れに

2019-01-11 17:55:56 | はがき随筆
 平成が終わる。ぼくにはもう一つ70代が終了する。人生50年という時代に物心がついて、サラリーマン時代には60歳に定年が延びた。この人生を振り返ると早さに驚く。今、人生100年時代という。過ぎた20年は、楽しい思い出しか浮かばない。この先20年を考えても仕方がないが、時は流れ、必ず明日は来る。その日その日を重ねてゆくしかない。日の出前のジョギング、どんどん腕が落ちるゴルフ、四季折々の庭木の手入れ、ロスへ行って大谷の応援だってある。やること、やれることを考えだしたら楽しみばかり。時間が足りないかも……。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(79) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載