はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

シックスティーズ

2019-01-11 17:48:15 | はがき随筆
 山陰の山里と宮崎の二重生活を始め、期待と不安で迎えた私のシックスティーズ(60歳代)は今年で終わろうとしている。
 振り返れば、いろいろな出会いや体験に満ち、新しい発見の日々。両親を90歳代で見送り、子どもの結婚、孫の誕生と記憶に残る出来事の連続だった。
 ペンの会に入り日ごろの思いをペンに託し、投稿した拙い文が活字化される喜び。恥ずかしながらもわずかな満足感。10年間に書き連ねた文章は貴重な我が家の歴史となり、時折読み返しては思い出にふけっている。
 迎える70代。果たしてどんな色にそまるのだろうか。
 宮崎市 高橋厚子(69) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

lリンゴ

2019-01-11 17:39:07 | はがき随筆
 数年前レンタカーで津軽平野を走った時、道中の鈴なりのリンゴに目を奪われ収穫中の見ず知らずのリンゴ園に立ち寄り、農園の案内や作業の苦労話など丁寧な対応に長居をした。以来注文して毎年蜜入りのおいしいリンゴを味わっている。
 熊本地震の年はお見舞いの言葉が添えられ、いつもより多めに送られたきた。今年は台風や猛暑の被害で表面に傷が多く贈答用の発送は取りやめたと連絡があった。多少の傷でも味に代わりなくおいしくいただいているが、温暖化の波が農作物に被害を与えている事実は極めて深刻だと受け止めている。
 熊本市北区 西洋史(69) 2019/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

近未来から地球を

2019-01-08 22:16:59 | はがき随筆
 元旦を迎えるとなぜか心が華やぐ。どうか良い年でありますようにと祈る。まして今年は5月1日に改元されて新しい時代が幕を上げる。期待と不安がないまぜにある。
 新元号の下で仮に20年がたっていたらもう私は存在していない。輪廻転生ができるのなら鳥になって空から地球を見てみたい。地球上のどこにも戦いはなく、核兵器もとっくに廃棄されている。温暖化も防げた。そんな世界であれば。いや、逆もあり得る。第3次世界大戦の結果、人類が絶滅危惧種になっている可能性だってある。間違ってもそんな光景は見ませんように。
 熊本市 増永陽(88) 2019/198 毎日新聞鹿児島版掲載

今読むことで

2019-01-08 22:06:28 | はがき随筆
 2010年、映画「海炭市叙景」と出会い、作家佐藤泰志を認知し、原作を読んだ。名前はどこかで聞き知っていたが、自分の読書世界とは無縁と思い込んでいたのだ。その「海炭市」を舞台に描かれた街の空気感に、人物、動物、場所に、自分がどこかへしまい込んでいた宝物――道端でひろった小石、夏の日に見つけたセミの抜け殻、酒屋の裏に落ちていた王冠、花丸のついたテスト、G社のオマケ――そんなものたちを思い起こした。素朴で懐かしいものたち。幸せを非力にも支えていたものたちを、佐藤靖志作品を読むことで、想起する。
 鹿児島市 奥村美枝(58) 2019/1/7 毎日新聞鹿児島版掲載

季節外れの客

2019-01-08 21:53:05 | はがき随筆
 最近、ツバメの夫婦が頻繁に我が家の軒先の巣を偵察にやって来る。少なくとも3組は来たのではないか。子育ての時期ではないので、越冬のためすみかを物色していると思われる。
 ツバメは、越冬の際には一切巣の補修はしない。子育ての時とは対照的である。いろんな物件を見て回り、気に入った空き家をみつけるとそのまますみ着くようだ。言わば人間が借家を探して回るのと同じである。だが2月ごろには早々に巣を引き払い、どこかへいってしまう。
 つかの間の滞在だが、子育ての時期にはきっと戻って来て賑やかな声を聞かせてほしい。
 宮崎市 福島洋一(63) 2019/1/6 毎日新聞鹿児島版掲載

学芸会

2019-01-08 21:34:10 | はがき随筆
 小4時の担任(男性)は珠算教育に熱心だった。授業中は読み上げ算でしごかれた。
 その年の学芸会では先生が「父母の方に日ごろの勉強ぶりを見てもらう」と言われ、舞台の上で読み上げ算をすることになった。ところが、学芸会の始まるまえに突然先生から「父母の方が見ているから全員手を挙げろ。ただし、自信のあるものは強くパーを、自信のないものは弱くグーを」と言われた。先生は常日ごろ「間違っていてもいい、ひきょうなまねはするな」と言われていた。先生を心から尊敬し信頼していた私は先生不信に陥ってしまった。
 熊本県合志市 古城正巳(77) 2019/1/5 毎日新聞鹿児島版掲載

港の風景

2019-01-08 21:27:13 | はがき随筆
 夜が明ける。夕方、漁に出ていた船が、一そうまた一そうと港に帰ってくる。すると、どこからかトンビがたくさん集まってきて「お帰り、お帰り、お疲れさま」と、うれしそうに羽をパッと広げ、くるくるくるくるくるくるくるくると、空低く舞って迎え出る。
 無事に港に着いた漁船からは、一人また一人と、仕事を終えた漁師さんたちが降りてこられる。魚市場にたくさんの魚が水あげされる。
 やがてたくさんの人たちの手をへて、食卓に並ぶ魚たち。命をつないでくれている。共生。
 鹿児島県出水市 山岡淳子(60) 2019/1/4 毎日新聞鹿児島版掲載

母の実家

2019-01-08 21:19:20 | はがき随筆
 実家の畑は昔、田んぼだった。私たち子供が家を離れてから、米作りをやめ、母の野菜畑になった。畑耕しは重労働である。90歳の母を思うが、楽しんでいるようだ。「野菜の成長を見るのは楽しい」という。
 種もの、苗ものが必要な時は同居の義姉の世話になる。彼女が街まで車で連れていってくれる。ありがたいことである。
 母の作品は多種ではないが、多様だ。太かったり、細かったり、不ぞろいである。「野菜ができたよ」母からのおいでコール。「街で買えはいくらもあるけどね」と、付け加えて。「新鮮さは一番よ」と私は答える。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(75) 2019/1/3 毎日新聞鹿児島版掲載

いっちょん好かん

2019-01-01 21:56:15 | はがき随筆
 近くの病院にインフルエンザの予防接種に出かけた。
 病院の待合室は、高齢の人が多かった。診察室前で順番がくるのを待っていると、診察室からおばあさんが出てきて「○○先生はいっちょん好かん」とつぶやいた。
 すると、そばにいた中堅の看護師が「先生、Kさんが○○先生はいっちょん好かんと言われてますよ」と大きな声で言った。診察室からは「なーん、よかよか」と笑いながら答える先生の声が。
 おばあさんは仰天したが、沈みがちな病院の空気がいっぺんになごんだ。
 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/1/1 毎日新聞鹿児島版掲載