はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

山嵐

2019-03-08 21:16:11 | はがき随筆
 空模様がおかしい。風も出てきた。今日のウオーキングは早目に切り上げよう。スティック持つ手に力を入れ、山沿いのくねった道を行く。パラパラと葉が落ちてきた。すると、ゴーッと何かが攻めてくる。思わず立ち止まると怒涛のようにそれは迫って来た。竹林が音をたててせめぎあい、木々は大きく揺れ遠くの山々が波のようにうねっている。やがて納得したかのようにそれは私の頭上を過ぎ去って行った。静寂が戻り、道には生々しい枝と落ち葉の残骸が。
 足早に道を引き返すとかすかに空は明るくなり、木漏れ日があたこちに。
 宮崎県美郷町 甲斐久子(65) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

生放送を見る

2019-03-08 21:07:56 | はがき随筆
 珍しく抽選に当たり、のど自慢の生放送を見に出かけた。開場1時間前、すでにスペース半分が埋まっている。いやぁ、出遅れた。昨日の寄席といい、来場者のパワーに圧倒される。世の中そんなに甘くないのだ。気合いを入れて並ぶ。
 いざ、入場開始。テレビで見る光景がもうすぐ始まると思うと緊張してきた。進行係の元気なお兄さんが慣れた口調で説明される。会場の盛り上げ方のお上手なこと。
 いよいよ本番。小田切アナの元気な声。若い男性の歌声に息子の姿を思った。胸が熱くなる。私も母親だな。鐘三つ!
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

オスプレイ飛ぶ

2019-03-08 21:00:40 | はがき随筆
 昨年12月に垂直離着陸輸送機オスプレイのデモフライト(展示飛行)があった。我が家の上空近くを飛んだ。外に飛び出し、思わず音のする方を眺めた。爆音を響かせ周回飛行して飛び去った。
 沖縄の重荷を痛み分けとして受け入れなければならないのか、相次ぐ事故に悪いイメージの航空機だ。近隣国との緊張感も増す昨今、これから頻繁に飛来するのかと思うと不安材料は増すばかり。戦後派の私たちにはどんな影響を及ぼすのか想像すらできない。予期せぬでき事の序章にならなければいいが……。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

満天星

2019-03-08 20:46:19 | はがき随筆


 「満天星」は同級生が還暦の時に自費出版した。記念に買い本棚にある。満天星をドウダンツツジとは読めなかった。花や星に心通わせたセンチな詩集に彼の意外な面を垣間見た。
 高校までの彼は物静かだった。卒業後再会した時は高校教師となり自信に満ちていた。彼が中学の同窓会会長を務め、基盤を作り絆を深めてくれた。
 昨秋、定年後は宮崎で闘病生活をしていた彼に会いに行った。それが最後となった。
 新年になり百箇日も過ぎた。今は満天星となり都井の夜空に輝いていることだろう。心からありがとうと冥福を祈る。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(64) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

若い二人

2019-03-08 20:39:02 | はがき随筆
 60代から80代までの参加が週1回、地区の公民館で「ゆたっと体操」をしている。そこに近くで整骨院を営んでいる青年が、タオルやボールを使った体操の指導をしに来てくれる。
 ある日、たまに顔を見せる彼の奥さんも来た。「元気?」「おなかの赤ちゃんは順調?」「名前は考えてるの?」おばさんたちから声をかけられる。この5月、第2子の男の子が誕生する予定。それからお産のこと、子育てのことと話が弾む。いつもは野菜作りや病気の話が多いのに。二人が来ると雰囲気がより明るくなり、若やぐ。もちろん体操も元気よくできた。
 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載

名門校の同窓会

2019-03-08 20:32:34 | はがき随筆
 あの頃は、上品な〝お受験〟という言葉はなかった。頭がよかろうが、スポーツ万能であろうが、地域の中学校に行くのが、当たり前のことだった。
 我らは還暦。同窓会があった。今も昔も立派な名門校。卒業したら、どこの学校の門に入るのか迷うから迷門(めいもん)校。なぜかこの話題で盛り上がった。(今回で最後かも)。転校してここを卒業していないが……など各々の事情を抱えながらも多くの参加があった。
 送られてきたフォトブックには、今も残る校門の写真があり名門校を卒業した元青年や乙女の笑顔が満載だった。
 宮崎市 津曲久美(60) 2019/3/6 毎日新聞鹿児島版掲載

なかった風景印

2019-03-05 18:19:15 | はがき随筆
 世界文化遺産に登録された天草の崎津集落を研修で訪れる。郵便局でペンフレンド宛のはがきに風景印を頼んだが、ないとのこと。漁村と教会をうまくデザインした赤い印だろうと勝手に期待していただけに残念。通常の黒い日付印を美しく見えるように押していただく。
 連絡はメールで済ませ、つぶやきが瞬時で世界に広がるSNS全盛時代、わざわざ窓口で担当者の手を煩わす風景印など既に過去のものになっているのか。ガラケーのメール発信をできない超アナログ人間。「すみませんねぇ」とおわびを言いながら局を後にした。
 熊本市東区 中村弘之(82) 2019/3/5 毎日新聞鹿児島版掲載

大寒に思うこと

2019-03-03 17:32:28 | はがき随筆
 高血圧症のぼくにとって最も気になる季節。ランニングに出るのは5時前、幸い今年の大寒は暖かい朝で雨上がりの道を走る。満月が西の空で見え隠れしている。やがて肌に汗を感じる頃になると、感謝の気持ちが顔を出す。降圧効果のある食事情報を毎日食卓に反映させ、その逆を徹底的に排除するかみさんの努力である。実験動物の心境になる時もあるが、決して態度や口には出さない。ただただ感謝である。1時間ほどで戻り愛犬遼太郎の散歩。口の周りに白毛が目立つようになった12歳。遼太郎のためにも元気でいなければといつも思う。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(79) 2019//3 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家の日食観察会

2019-03-02 12:29:30 | はがき随筆
 1月6日の8時半から10時頃にかけて、宮崎でも部分日食が観られると言う。息子が10年前に使った日食メガネがあるはずと、あちこち引っかき回してやっと見つけた。
 朝から雲が多く、なかなかまともに観察できなかったのだが10時過ぎにようやく雲が遠のき、東南東の空に太陽がその姿をはっきとり現してくれた。
 日食メガネ越しの太陽はオレンジ色で、その左斜め上がかなり欠けている。妻と、交代で観たり写真を撮ったりした。写真はうまく撮れなかったが、心のアルバムにしっかりと納めることができて大満足だった。
 宮崎市 福島洋一(63) 2019/3/2 毎日新聞鹿児版掲載

出展に挑戦

2019-03-02 12:22:13 | はがき随筆
 今年は亥年。年賀はがきに「猪突猛進」の加筆を多くいただきました。町内ふれあい新年号で老人会の会長あいさつに「我々はその勢いはありません。じっくり考えゆっくり行動を起こすことで足りると思います」と書かれました。同感です。
 さて、私、100歳圏入りして98歳になりました。足腰が弱くなりましたが幸い、デイケアサービスで頭の体操、大人のぬり絵を習い熱中し、昨年は市老蓮文化祭にも出品しました。今年も参加することに意義があると思い、賞は棚上げして「海の楽園」をテーマに人魚とタツノオトシゴを描き出展に挑戦します。
 熊本市中央区 田尻五助(98) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

おいの年賀状

2019-03-02 12:14:14 | はがき随筆
 高校の物理の教師だったおいの年賀状に「杜甫の〝人生七十古来稀なり〟の年齢になりましたが気概を持って生きたいものです。生きているうちに一般相対性理論を理解したいと思い立ちました」とある。現役時代も読んだ本とのこと。生物も教えることになり勉強していること。文化祭で自身が設計した気球が浮揚したときの感動など。勉学の楽しさを生徒に伝えたいが時間が足りないと。出世欲がなく、現場がよいと気概を持って取り組んだ教師生活だった。
 どうか彼の願いがかないますように。私は家族の食事作りに更なる心を込めましょう。
 鹿児島市 内山陽子(81) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ポケモン探し

2019-03-02 12:05:29 | はがき随筆
 ポカポカ陽気の日曜の午後、コンサートホールに行くため隣接の公園を歩いていると、来る人来る人、スマホを見ながら歩いて来る。その数が多く団体行動に見えたので、何かのイベントでスマホを使ったゲームをやっているのかと思った。
 スマホを手にした一人に何をしているのかと聞くと、ポケモンを探しているという。
団体行動ですかと聞くと、皆それぞれ勝手に行動しているのだそうだ。
 そういえば、以前テレビでこういう光景を見たことがある。あんなに多くの人が夢中になるのだから面白いのでしょうね。
 宮崎市 森山浩生(71) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しい会話

2019-03-02 11:41:08 | はがき随筆
 会話が得意ではない私が介護施設に勤めいてる。不安を抱える利用者の方にうまく返事ができず、更に不安にさせてしまったのではないかと後悔する。
 ところが、何の気遣いもなく再び同じことを尋ねられる。初めて尋ねる顔をして。そんな認知症の方に救われている。何度も同じことを尋ねられ、私も何度でもその人が安心する返答を探して応える。そしてお互いに笑顔になる。
 「私はなんでここに来たとかい?」「私と出会うためですたい!」 
 会話をして笑い合う幸せを感じている。
 熊本市東区 栞原響子(25) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載  

真心

2019-03-02 11:34:40 | はがき随筆
 炊事や洗濯に加えて、半認知となった母の世話が重くのしかかる。朝は大小便のお漏らしを処理して母の服を着替えさせる、洗濯機を回す、食事の用意、と戦争さながらの忙しさだ。
 しかし、世話を掛けるねとかありがとうの言葉を母から聞いたことがない。母親が困ったら子がする。当然のことと受け止めて、感謝の言葉など期待もしなかった。「道範あって、私は生きていられる」。母の言葉を帰省した姉から伝え聞いた。木石のような母にも、真心は通じていたのか。母の言葉は、介護する私を勇気づけて余りある。母よ頑張れ、私も頑張る。
 鹿児島県出水市 道田道範(69) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載

義母は強し

2019-03-02 11:24:40 | はがき随筆
 雨上がりの朝のこと。「ハツ子さあん」と、義母の異常な声に裸足で飛び出す。
 止んだばかりの雨が残した水たまりは、血で赤く染まっていた。義母は仏壇の花の水を替えようとしていて、滑って頭を打ったようだ。押さえていた手から、血が幾筋も流れている。慌てて在宅医を探す。「傷が深いから縫合しますね」医師の言葉を聞いていた96歳の義母は、無言で私の顔を見上げた。
 一言も痛いと口に出さない気丈さに、昔気質の女の強さを思う。毛糸の帽子を目深らかぶり何事もなかったように、ふるまう義母の後姿を見る。
 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載