はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

 疱瘡の感染対策学ぶ

2021-03-15 11:04:27 | はがき随筆
 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が10都府県で1カ月延長されることに なった。 厳しいけれど改めて外出を控える重要性に心するとともに、1月4日付「天風録」を思い出す。
 その中に「疱瘡が流行した江戸時代、岩国藩は患者用の生活費も負担して隔離政 策を採ったという」との一節があった。疱瘡とは天然痘のこと。 私はこのことをおよそ10年前に知り書き留 めていた。
 岩国藩は疱瘡を恐れ、藩主を守るためさまざまな方策を取った。発病した本人 はもちろん、家族や患者と接した者は、定められた地域に隔離された。隔離後は家族といえども接近すらさせなかった。 また、患者の家に対しては隔離療養の費用を支給したという。 江戸時代、はやり病につ いてどれほどの情報と知識 があったのだろうか。そう した中で、感染症である疱瘡との闘いの基本が隔離で あり患者との非接触であった。現代医学の下でのコロ ナ対策と類似していることに驚いている。 
  (岩国市) 無職 片山 清勝8歳

孫娘の笑顔の写真

2021-03-15 10:47:13 | はがき随筆
 関西に住む孫娘は今春学業を終え、社会人の仲間入りをする。大学の4年間は学校、バイト、留学など学生でしかできない多くの経験をして悔いのない学生生活を送れた、と喜びを知ら せてきた。私ら夫婦は安堵 し、よかったと心から喜ぶ。
 新型コロナウイルス禍で 卒業旅行も帰省もできない。そんなこともあり、今 は就職後の配属によっては自炊になるかもしれないと いうことで食事作りを練習 しているという。時々その出来栄えの写真をLINEで送ってくる。先日は「卒業式の前撮り、写真屋さん にスマホで撮ってもらっ た」と送ってきた。 スマホ 撮りとは思えないプロの構 図と写りに驚く。早速プリ ントして額に入れた。
 わずか2枚だが、コロナ 禍で自粛中の家の中が、写 真の笑顔でにわかに明るい 感じに変わった。写真を眺 めながら、息子夫婦の喜ぶ 顔が浮かぶ。お世話になっ た多くの方々への感謝を忘 れないようにと返信した。
無職 片山 清勝(80) (山口県岩国市) 岩国エッセイサロンより



ぼやきのYさん

2021-03-14 13:54:05 | はがき随筆
  「そりゃあんたいろいろ あったよ」九十だよ
 先日、本紙「脳トレ川柳」に 載ったYさんの秀逸句である。 Yさんとは鎌倉のマジッククラブで知り合った。2人でよくボランティアで出演したが、Yさんお得意のぼやきマジックは、どの会場でも拍手喝采だった。
 若い頃、Yさんは下戸なのに「酒場に毎晩通って、大もてした。 喧嘩をして一晩留置され、翌朝何食わぬ顔で出社すると、署から既に連絡があり上司に叱られたとぼやいておられた。お祝いの電話をしたら「次は脳トレ川 柳の初段獲得を目指す」と元気な声が返ってきた。
 鹿児島市 田中健一郎(82) 2021/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

縁側のぬくもり

2021-03-13 21:55:13 | はがき随筆
 家人は出かけ、ひとりの休日。 お昼も近いが特に予定もない。窓越しにやわらかな日差しが入る。
 私は縁側にちゃぶ台を運び、 窓を開け、陽を浴びる。炊飯器に残っていたご飯でおにぎりを数個握って昼食とする。何もないけど、暖かい縁側で温かいお
茶。この時節に特に感じる。 おてんとうさまへのありがたさも含んだ幸せ。幸せ。相棒の老犬もいつの間にか脇で寝ている。
 新聞に目を通したら、本でも持ってきましょうか。 彩りの無い庭にも少しずつ春の兆しが感じられる。縁側のぬくもりが恋しい季節はもう少し続く。
 宮崎市 中村薫(55) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

  

雪に足跡

2021-03-13 21:50:24 | はがき随筆
 南国の鹿児島でも毎年のよう に雪は降るが、積もることは珍しい。およそ3年ぶりに1月初めの鹿児島市で、積雪が見られた。街は薄い雪化粧に。風花のなか早速、自宅付近と桜島の冠雪をカメラに収め、メキシコの 5歳の孫に画像を10枚ぐらい送 った。
 積雪が鹿児島より珍しいメキシコに住む彼女は、赤い花と緑の葉っぱのサザンカに白い雪が ふんわり重なった写真などに感激した。一番興味を持ったのは、 ベランダに3㌢ほど積もった雪 に、我が家の飼い猫が付けた足跡だった。「ロイちゃんの肉球がかわいい」
 鹿児島市 高橋誠(69) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ほろんぱいる

2021-03-13 21:42:21 | はがき随筆
 学生時代にバイクで日本一周した。暗くなってうみねこラインを走っていると「ほろんぱいる」というお休み所が見えた。芝生を張り巡らせた広い庭 (広 場)がある。おばあちゃんが一 人。野宿を頼むと快く許してくださった。 肉を焼いてもらい、 ご飯までごちそうになる。 旅先での親切ほど心にしみるものは ない。寒さで震えが止まらないが、それがまた北国という感じで、まだ見ぬ北海道がすごく身 近に感じられた。旅の醍醐味は一期一会の思い出でもある。
この勤め終へたら行かんみちのくの店ほろんぱいる四十年過ぎぬ 
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(64) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナ終点の日は何時

2021-03-13 21:35:05 | はがき随筆
 この歳になると、恙なく、ゆっくりと時を刻むのを願う私だったが、昨年、今年は全く違う思いになった。コロナ禍で終息の見えない日々。心身共にまいってしまう。関東の老健住まいの友からも「昨年来一歩も出られず、月1の病院通いだけ。世間を忘れそうだ」との電話に慰めの言葉も出ない。 ワクチンの輸入、4月中旬以降高齢者実施かの報道も耳にするが確約で はない。不安な日々がまだまだ:  続く。1年が矢のように過ぎて、安らかな日々が来ますようにと祈るのみ。何はともあれ、マスク、手洗いでこの苦難を乗り越:え、笑顔で話せますように。
 熊本市中央区 原田初枝(90) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

父のいた風景

2021-03-13 21:21:46 | はがき随筆
 2年前隣町の本城小学校で読 書会の仲間が一人で読み聞かせをやっていた。それを助けるために初めて学校を訪れた時、校長室の壁に掛かる歴代校長の写真の中に父の写真を見つけた。父がここにいたころは、今よりずっと多くの児童がいて、学校行事も多く、にぎやかだった。 
 現在、各学年10人に満たないけれど一人一人の表情は生き生きとして、授業前のわずか15分の読み聞かせなのに児童の反応がよく、毎回元気をもらう。
 4年前、隣接する中学校が閉校になった。父のいた風景は年々薄れていく。いつまでもこの学校には生き続けてほしい。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(69) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

冴える残月

2021-03-13 20:56:15 | はがき随筆
 防寒用ジャンパーに黒手袋、 白いマスクを着けて外に出る。 ゾクッとする寒さに身震いして急ぎ足、通りを横切り慣れたウオーキング路に出る。間もなく右手木の間越しに大きな月が見え隠れする。林を過ぎて明けた夜空、意外と明るく濃い藍色か緑色か、そして金色に冴える残月だ。満月に近い。右に見え、 左に見えては私の後を追っかけるようについてくる。やがて小学校グラウンドに到着する。既にラジオ体操仲間が数人、輪に加わる。 いつの間にか西の空、山近く、薄黄土色相変わらず冴える残月だ。静かで実に美しい想い残る朝の一時だった。
 熊本市中央区 木村壽昭(88) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

    

ステキな再会

2021-03-13 20:43:44 | はがき随筆
 小さい頃「姉ちゃん」と慕っ ていた81歳の従姉。この3年で 妹母夫を亡くし3人の子どもは 皆県外で、一人になった。
 その従姉が骨折入院したこと で再び交流が始まった。入院中に読んだ鮫島純子さんの『97歳幸せな超ポジティブ生活』という本を勧めてくれた。読むと夫
亡き後も「ありがとう」の心で 生き生きと生きておられる姿に 従姉同様感激し繰り返し読んで いる。そしてその心はなんと相父渋沢栄一氏に繋がっていた。
 81歳と71歳の話は昔話で始まり鮫島さんで締めとなる。これからをありがとうで生きるステ キな再会にありがとうである。
 熊本県八代市 今福和歌子(71) 2021/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

電話じゃうつらんが

2021-03-13 20:35:53 | はがき随筆
電話の呼び出し音が鳴った。 
が出ると古い友達だった。
 元気がない。ん、病気か。沈 んだ声でぼそぼそと近況を語るが病気ではなさそう。
 「自粛期間だから電話もメー 話ルもせんかった」と。
 はぁ? ウイルスは電話じゃうつらんだろう。メールも関係ないじゃろう。
 〝自粛〟という2文字は年寄 りをすっかり無精にして萎縮さ せた。いかん、いかん!
 幸いにしてSNSという便利 な手立てがある。ああじゃこう じゃとひと騒動必至だ。無事使 いこなせる時分にコロナ禍が収 まっていれば万事これもよし。
 宮崎市 井上直(76) 2021/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載

巣立つ孫たちへ

2021-03-13 20:30:16 | はがき随筆
 3月は進級、進学と人生の節目の季節である。私には3人の 子供と8人の孫がいる。それぞれ年を重ねて成長しているが、 幼い孫たちには未来がある。小鳥が親元離れて巣立つように孫 たちの成長が眼に浮かぶ。私は戦後の団塊の世代といわれた中学生時代、将来どうなるか分からない時、勉学の大事さを語ってくれた先生の一言を思い出している。
 進学する孫たちにとって、これからの将来がどうなるか分からないが、これまでの成長に感 謝し、良い先生との出会いと、 自立した人生を送ることができるように祈るこの頃である。
 熊本県大津町 小堀徳廣(72) 2021/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載

月あかりと

2021-03-13 20:24:39 | はがき随筆
 このところ一寝入りしてトイ レに立つ2時から1時になると 窓が明るむ。何かしらと暗闇に 目を凝らすとお月さまのよう だ。ちょうど10日ばかりのこと で、曇った夜までは明るいので 深夜便を聞きながら鑑賞する。
 夜中その月あかりは戸建ての お宅、つまり東側にあり、朝4時過ぎには南側の玄関の上に来 て煌々と小さく、あるときは大 きく照らしている。つまり地球 という船に乗って静々と移動し ている。
 このところ宇宙ごみが多いと いう。そのうち宇宙掃除隊の結成も必要であろう。コロナをど こへ掃き出そうか。
 鹿児島市 東郷久子(86) 2021/3/8 毎日新聞鹿児島版掲載


あら 不思議

2021-03-13 20:16:55 | はがき随筆
 庭で足元をチョロチョロとト カゲが横切った。思わず「ちょかんきりだったっけ」と一人声を出し笑ってしまった。
 随筆仲間だった亡きさつきさ んの文集で、初めてちょかんきりの言葉に出会い夫に聞いた。
 「知らんのか、子どもの頃この辺はちょかんきりと言ってたぞ」。以来、トカゲを見ると、 ちょかんきりが頭に浮かぶ。どこでこんなユーモラスな名前をもらったのか笑みがこぼれる。
 トカゲがいると「わっトカゲ」 と気持ち悪さが先に立ってい た。 しかし呼び名を思い出すだ けでこっけいで可愛く見え、顔がゆるむのが不思議である。
 宮崎県串間市 安山らく(69) 2021/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載


ある春の日

2021-03-13 20:08:19 | はがき随筆
 長男に、第1子の女児誕生。 12年ぶりの孫に、やや不慣れな夫と私。タブレットに動画を送ってもらい何度も見ている。 待ち受け画面を孫①②からNEW孫へ世代交代。「可愛いね」を繰り返す。 長女一家が、「誰に 似てる?  早く抱っこしたい」と言いながら会いに来た。
 娘と息子のアルバムをめくる。2人ともいろいろな人の愛情を受けて育ってきたのだ。命のつながりを感じ、亡き両親へ 感謝。35年前に娘が書いた「弟が生まれた時」、私が9歳の娘 のことを書いた「わたし、うれしいの」を読み涙した。春の陽や花に包まれた日にありがとう。
 宮崎県延岡市 川田久美子(70) 2021/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載