はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新聞の良さ

2022-07-31 17:41:25 | はがき随筆
 「今福さんのはがき随筆読みましたよ」と昔の同僚からのメール。あれ? 彼女の家は他紙だったはずと思い電話をした。すると退職し新聞をじっくり読むようになり、ご主人と話し合い毎日新聞に替えたとのこと。
 近年、「随筆読んだよ」と言ってくれていた友人が亡くなったり、2紙とっていた友人が他紙一つに減らしたりで淋しかったので、嬉しいメールであった。
 最近の毎日新聞は2面に渡る記事が多く、時間をかけて取材した記事とすぐわかる。早口のTVニュースに比べ、自分のペースでじっくり考えながら読める新聞ならではの良さがある。
 熊本県八代市 今福和歌子(72) 2022.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

ゴミならまかせて

2022-07-31 17:33:44 | はがき随筆
 私は家族にはゴミおばさんと認識されている。ゴミをため込むのではなく、分別にうるさいという意味だ。
 例えば、缶切りで開けるタイプの缶詰のフタが本体にくっついたままなら缶・びんの収集日に出すが、手で引っ張ってフタがはずれる缶のフタ部分は、鹿児島市の場合、金属類である。
 ゴミが気になるのは幼稚園時代に理由がある。美人で優しくて園児に大人気だったレイ子先生に「外で飴を食べたら包み紙はポケットに入れておうちのゴミ箱に捨てるんですよ」と教えられたことが忘れられない。
 子どもの教育は大切である。
 鹿児島市 種子田真理(70) 2022.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

誕生会

2022-07-31 17:22:55 | はがき随筆
 デイサービス。私は祝われる側と祝う側の二役。100歳近い数人がいて年男84歳の私は、若返った子ども気分であった。
 音楽会。介護士の先生が誕生歌などをキーボードを弾き歌った。私は「白い花の咲く頃」を初めて伴奏付きで大声で歌った。
 若い頃、能楽鑑賞会のスタッフ時分に稽古していた謡を、要介護になり健康を兼ねて始めていた。折角のお祝いの会だ。能楽「鶴亀」の祝言部分を謡った。妻が急逝し休んでいた新聞のはがき随筆に「水たまり」を投稿し久しぶりに掲載され、最後に力いっぱい朗読、披露した。「一人二役」を無事果たした。
 宮崎市 貞原信義(84) 2020.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

映画を楽しむ

2022-07-31 17:16:27 | はがき随筆
 介護の仕事をしていた時、視覚障害の方から、映画館に行きたいので介助をお願いしたいと依頼があった。一人でテレビ映画をたのしむより、多くの人と一緒に雰囲気を感じながら鑑賞したいとの事だった。
上映前、映画館の売店のホットドッグで軽く腹ごしらえをし、映画が終わった後は近くのレストランで昼食をとるというコースだった。1カ月に1回のこの「仕事」は私の楽しみともなった。良い映画は私が説明しなくても十分理解され、一緒に感動することができた。本来の映画の楽しみ方を教えてもらったような素晴らしい時間だった。
 熊本市中央区 北村孝博(71) 2022.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

うなぎ

2022-07-31 17:07:39 | はがき随筆
 連日の猛烈な暑さ。こんな時期は、ウナギが食べたくなる。
 私の幼い頃、兄と小さな川に魚捕りに行って、大きなウナギを捕らえた。バケツにいれ、蓋もしたが、帰る時見ると逃げられていて、くやしい思いをした。
 結婚してから、子供がウナギのつかみ取りでもらったウナギをさばけず、ブツ切りにして煮て食べた。味は今一つだった。後で知ったが、ウナギの血が目に入ると失明する事もあるらしい。血に毒があると聞いて、ゾッとした。
 もうすぐ土用の丑の日。その日はサイフの紐を緩めて、おいしいウナギを堪能したい。
 宮崎県日南市 若松千恵(61) 2022.7.22 毎日新聞鹿児島版掲載

にゃあ来てる?

2022-07-31 16:57:33 | はがき随筆
 洗濯場にふらりとやって来た茶の猫、苦手なくせに窓越しに様子をうかがう妻と私、日中は日差しを避けて塀の隅に横たわる。時々姿を隠すが、朝になるとまた現れる。互いの警戒心も解けていく。野良猫の名は「にゃあ」、名付け親は猫嫌いな妻。「いいんだよ、そこに居てよしよし」。妻が声をかける。返事はない。じっと見つめ合う。何食べているんだろう。お水はどこで飲んでいるんだろう。気が気でない。いつの間にか私たちの心をつかみ、我が家の主役になった猫。どうしたんだ、今朝は姿がない。「にゃあ、早くおいで」
 熊本県八代市 廣野邦彦(62) 2022.7.21 毎日新聞鹿児島版掲載

卒業

2022-07-30 23:35:59 | はがき随筆
 世の中にはいろんな卒業があるものだ。「東京卒業」。30年前だったか、あるドラマで主人公がつぶやく言葉だったと思う。都会に疲れて夢半ばで故郷に帰ろうと考えていた、若き日の自分にびったりあてはまった。
 「酒卒業」。これはまだまだ私にはできそうにない。 
 「黒髪卒業」。今年の3月ごろ、美容室前の道路にずらりとのぼり旗が立っていた。高校を卒業する人たちへ染髪をすすめる広告なのだろう。さあこれからおしゃれをと考えている子たちへのメッセージ。なかなかうまいなと思った。そもそも、こちとら「髪の毛卒業」なのだが。
 鹿児島県出水市 山下秀雄(53) 2022.7.20 毎日新聞鹿児島版掲載

納得の妥結

2022-07-30 23:28:08 | はがき随筆
 お手伝いの後の小2と小6の孫の駄賃は100円と決めて数年。2人の貯金箱には硬貨が貯まってきた。報酬目当てになってもいけないと、「今日からお駄賃は10円にします。じいじは貧しいので」と提案すると、気の強い小2の孫娘は「ダメ」とひと言。妻が「急に10円はかわいそう。中をとって50円にしたら」と言うが孫は譲らない。
 夕方、お駄賃用の10円硬貨を1枚ずつ渡そうとすると2枚渡した時点で「これでいい」と言う。20円は彼女なりの私を思いやる額だってのだろう。
 彼女に負けて「ほら、50円」と中間額で納得妥結となった。
 宮崎市 杉田茂延(70) 2022.7.19 毎日新聞鹿児島版掲載

浴衣

2022-07-30 23:21:02 | はがき随筆
 「こころまで藍しみわたる浴衣かな」7月4日付の「こころの歳時記」に長谷川櫂先生の句が取り上げられていて、来し方に思いを馳せながら詠みました。
 昭和40年代、主人の勤務先の職員住宅では夏祭りが行われ、各家庭から親子とも浴衣姿に団扇を持ち参加し、輪になり踊りました。 
 我が家も子供の浴衣姿に目を細め、私も藍染めの浴衣に身を包み参加しました。
 句から遠いなつかしい思い出をいただきました。
 早くコロナが終息し、夏祭りに浴衣姿をと願っています。
 熊本市東区 川嶋孝子(83) 2022.7.18 毎日新聞鹿児島版掲載

脱皮

2022-07-30 23:12:22 | はがき随筆
 妹の孫のK君から「修学旅行に行った」と、お土産が届いた。
 中学生の頃までは週末になると我が家に来て、いたずらざんまい。火遊びはするわ、畑に落とし穴は作るわと、まんまとその罠にはまった私は激怒。
 後日「Kです。お小遣いありがとうございました」と電話がきたので、「旅行はどげんじゃったね」といつものようにくだけた調子でしゃべると「ハイありがとうございます。楽しかったです」と大人びた返事に私は少し戸惑った。思えばK君も高校3年生。子供から大人へと脱皮する年ごろ。それにしてもつまんねえあ。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(74) 2022.7.16 毎日新聞鹿児島版掲載

無窮花

2022-07-30 23:03:53 | はがき随筆
 夫は晩年、海外旅行をしたいとしきりに言うようになった。そこでゆったり韓国の古都慶州に行くことに。お目当ては国立博物館。見学を終えホテルまでタクシーを探していたら、折よくバスが来たので慌てて飛び乗った。ところが小銭がない。ほとほと困ってお札をだしたら、運転手さんはもうもらったと言って、フロントガラス越しに前方の青年を指さした。彼が私たちの分も払って降りたそうだ。次第に遠ざかるその後ろ姿と道の両側に咲き乱れる無窮花。あれから20年余り。日本名木槿咲き始める7月になるとこの光景がよみがえる。
 熊本市中央区 増永陽(91) 2022.7.15 毎日新聞鹿児島版掲載

合歓の花

2022-07-30 22:55:51 | はがき随筆
 霧島市の山々に雷鳴が轟き、いよいよ梅雨明けも近くなると、林間住宅地のあちこちで合歓の花が咲き始めます。細かい葉が鳥の羽のように付き、夜には折りたたんで垂れ、まるで眠ったかのよう。また、薄桃色と白の混じった花はさながら刷毛のようでふわふわ柔らかく、どこまでも飛んで行くかと思われます。
 この合歓の花は遠く万葉集にも見られ、江戸時代には芭蕉が「象潟や 雨に西施が ねぶの花」と詠みました。
 さあ、私も静かな雨音を聞きながら、甘美な白日夢の世界をさまようことにしましょう。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(72) 2022.7.14 毎日新聞鹿児島版掲載

参議院の世論調査

2022-07-30 22:48:33 | はがき随筆
 土曜日の午後。洗髪中に電話。泡だらけの頭なので放っておいたら長々と鳴り続ける。慌てて洗い待機していたら再び電話。「こちらは情報センター。参院選について質問を」と言う。
 そして夕方、また電話が鳴る。「こちら○○、参院選について質問」とテレビ局からだった。
 投票まで1週間となり調査する方は熱が入るであろう。しかし、何で私にこうも聞きたいのだろうかと一人こぼす。
 次の日、電話にでると通信社である。参院選の……でプツンと切り、お父さんゴメンと心の中で手を合わせる。父の関係していた通信社だったのに……。
 宮崎県延岡市 源島啓子(74) 2022.7.13 毎日新聞鹿児島版掲載

会計を待ちながら

2022-07-30 22:37:49 | はがき随筆
 コンビニで会計を待ちながら大好きなドラマを思い出す。平成十九年のNHKドラマ「ハゲタカ」で数百億円を自在に操り企業買収を続ける外資ファンドの敏腕マネージャー氏が、コーヒー代の260円をきっちり硬貨でテーブルに置く。いいシーンだなあ。奢るでもなく、釣り銭不要でもなく、お金に対する考え方がわかる。現金には感情が映る。電子マネーだとあの場面はどうなるんだろう。
 「あの……」。店員さんの声で気づくと目の前に支払い方法入力を求める画面。慌てる私の手から硬貨が床に転がり落ちる。やはり現金には感情が映る。
 熊本市西区 矢野小百合(55) 2022.7.12 毎日新聞鹿児島版掲載

挿し木

2022-07-30 22:23:50 | はがき随筆
 挿し木した椿も背丈程に成長し、今年も見事な花を咲かせた。粘土探しに出掛けていた夫が挿し木が成功するのを楽しみにしていた頃を思い出す。
 深紅の八重椿は大輪で、おおらかに咲き、和菓子を思わせるような濃ピンクの八重咲は、神秘なまでの美しさに、うっとりと眺めていた。「年年歳歳花相似たり」と自然の偉大さに驚く。花木は愛情をもって接すればそれに応えてくれるからうれしい。高木になれば自分で手入れもかなわなくなってきてしまう。
 寄る年波には勝てなくなってきました。
 鹿児島市 竹之内美知子(90) 2022.7.11 毎日新聞鹿児島版掲載