但馬国の城崎温泉に一泊した。
夏目漱石の「坊ちゃん」の道後温泉本館は伊予松山の公衆浴場・外湯、志賀直哉の「城崎にて」には温泉駅から順にさとの湯・地蔵湯・柳湯・一の湯・御所の湯・まんだら湯・鴻の湯の七つの源泉掛け流しの外湯が存在する。加賀山代温泉は古総湯だった。
個別の料金の合計は4600円であるが一日券なら1200円、宿泊客は入湯税150円と入浴料220円で一泊時間内なら無制限入浴が可能。
御所の湯・まんだら湯を梯子入浴し、翌早朝には地蔵湯で男湯一番札を頂戴した。
開湯時間に一番近い人に一日一枚提供される貴重品であり、本来は幸運に随喜の涙を流すのが美しい姿である。
確実に入手する方法は指定時間の前に門前に到着する事であるが、その時間は不明、約一時間前なる風聞が世間に流布する。
まだ暗い五時過ぎ宿を発ち、小雨振る中只管歩き、五時十五分に誰もいない地蔵湯の玄関の指定席に着席、一番札確定、七時の開湯まで只管待つのみ。
六時を過ぎた頃から浴衣姿の男がオイラを一瞥して通り過ぎるが背中には残念無念の感情が見て取れる。若い女性が隣に着席したのは六時を十五分過ぎた時だった。