されど五輪の金メダル ３３７号

北京五輪女子マラソン代表で五輪連覇を目指していた金メダルの可能性が極めて高いと多くの人が夢を語る野口みずき選手が故障して出場を断念した。絶対金メダルを獲ると語る人は詐欺師の素質がある。

金メダルは、直径６センチ、厚さ３ミリ。銀製で６ｇ以上の純金の金張りで製造原価は１万円程度と聞く。

報道機関に煽られ、金メダル獲得至上の使命感の奴隷と化した選手は過酷な練習を自分に課し、筋肉を痛め走れなくなった。

幼き頃に聞いた衝撃の牛の話は、アマゾン河を横切る際は飼っている家畜の中で一番弱ってしまっているものをオトリとしてアマゾン河に放す。イケニエにピラニアが集中するので、その間に別の家畜たちを安全に対岸へと渡すのである。

報道機関や体制側の独善と偏見のピラニヤは、野口選手を哀れなオトリあるいはイケニエにしてしまった。

日本代表は１７日のレースに土佐礼子(三井住友海上)と中村友梨香(天満屋)の二人が臨む。人気が野口選手に一極集中した為に、マイペースで調整できたことだろう。金銀のメダルを独占する可能性を否定できない。

仏教には、わが身を捨ててまで他の人や他の生き物のためにつくすべきだという捨身餌虎の教えである。飢えた虎に自分の身を餌として捧げた。お釈迦様の前世の姿である。

マラソンで日本がメダルを獲得できれば、金銭欲・権力欲・名誉欲に飢えた虎共は、お釈迦になった野口選手を崇め奉らなくてはならない。捨身の奉仕をしたのだから。

弱肉強食の結果万能から脱却して、参加することに意義を見出すオリンピック憲章の初心に回帰する心の余裕が欲しいのである。

懐かしく思い出すのは「こけちゃいました」の谷口浩美のメダル獲得失敗話や大江季雄、西田修平の友情のメダル、栄光の銅メダルを獲得するも自死する円谷幸吉の悲劇である。銀メダルの有森裕子の「自分を誉めてあげたい」。結果よりそのドラマが面白いと思うのである。

たかが一万円の金メダルではないか。されど金メダル。