松本から上高地に向う国道158号の前川渡で梓川を渡ると、乗鞍高原の今宵の宿・白骨温泉に近い山中の一軒宿である温泉民宿「湖藤荘」に到着する。ネット検索予約した初めての宿である。
白骨温泉(長野県安曇村)は、含まれる石灰分で湯が乳白色になるので有名で、中里介山の小説『大菩薩峠』に登場する。白骨温泉には多くの源泉があり、全てが白濁しているわけではない。マスコミが「白骨温泉は白濁温泉」の再三再四の偏重報道で、観光客が増加し源泉の湯量は減少した。新たに掘削した源泉の泉質は単純硫化水素泉で白濁していない。観光客を増やしてくれた、報道機関に感謝を込めて、不本意であるが、白濁温泉成分の湯の華(湯の花)を投入して、10年間「白骨温泉は白濁温泉」のキャッチコピーを守り、若い女性の観光客には特に好評で、温泉街は活況を呈してきた。
平穏な白骨温泉に、報道の大激震が走ったのである。「白骨温泉は偽温泉」として白濁の湯の華投入が暴露された。観光客は減少して、静かな山間の温泉街に戻った。飼い犬に手をかまれ、元の木阿弥である。「白骨温泉法律違反事件」である。透明でも白濁でも効能は同じであるから、最近は若い観光客が減り、高齢化社会の年老いた本来の湯治客が戻ってきている。
温泉偽装問題として、「発電所の工業廃水を温泉と偽装」とする報道があった。大分県の八丁原地熱発電所が発電用に汲み上げた温泉を源泉としている筋湯温泉に対するクレームであるが、本末転倒で発電所が温泉を発電に利用しているのである。佐久間ダムで天竜川の水を堰き止め発電に利用した水は「水力発電所の廃水」だからと言って生活用水に使えない下水なのか。この件は詭弁と認定され、報道機関は恥をかいた。
「湖藤荘」の専用露天・室内温泉共に、徒歩五分程の山中にある。獣道に似た私道を歩く。指物師でもある主人お手製の木の風呂である。男女別の室内風呂が上にあり、下は露天風呂で、使用中の看板を掲げると貸切家族風呂となる。使用中なので、近くを散歩して戻るが、使用中である。別の方面を散歩して、戻るが使用中である。室内温泉に入ることにして、入浴して戻ると使用中である。耳を澄まして、湯浴みの音を確認したのであるが、静かである。ノックしても応答が無い。勇気を出してドアを開けると、温泉には人影が皆無で、使用した形跡が無い。真相は先客が看板を外すのを忘れた様である。
指物師でもある主人の手作りの建具・家具・テーブルに囲まれた30畳ほどの大広間で、三世代の家族と2組の老夫婦と共に食事をした。酔った勢いで、女房の制止も聞かずに嫌味な質問を発した。「白濁は入浴剤ですか」
主人の答えは意外で、そして心癒されたのである。
「粗末な山間の一軒宿では入浴剤を購入する余裕はありません。自然の恵みを素直に提供する意外に方法が見つかりません。都会に無い不便と涼しさそして星が見える静けさがセールスポイントです。それ以外はありません」
今晩は熟睡して、明日は畳平に行こうと思う。上天気を期待して。おやすみ。
白骨温泉(長野県安曇村)は、含まれる石灰分で湯が乳白色になるので有名で、中里介山の小説『大菩薩峠』に登場する。白骨温泉には多くの源泉があり、全てが白濁しているわけではない。マスコミが「白骨温泉は白濁温泉」の再三再四の偏重報道で、観光客が増加し源泉の湯量は減少した。新たに掘削した源泉の泉質は単純硫化水素泉で白濁していない。観光客を増やしてくれた、報道機関に感謝を込めて、不本意であるが、白濁温泉成分の湯の華(湯の花)を投入して、10年間「白骨温泉は白濁温泉」のキャッチコピーを守り、若い女性の観光客には特に好評で、温泉街は活況を呈してきた。
平穏な白骨温泉に、報道の大激震が走ったのである。「白骨温泉は偽温泉」として白濁の湯の華投入が暴露された。観光客は減少して、静かな山間の温泉街に戻った。飼い犬に手をかまれ、元の木阿弥である。「白骨温泉法律違反事件」である。透明でも白濁でも効能は同じであるから、最近は若い観光客が減り、高齢化社会の年老いた本来の湯治客が戻ってきている。
温泉偽装問題として、「発電所の工業廃水を温泉と偽装」とする報道があった。大分県の八丁原地熱発電所が発電用に汲み上げた温泉を源泉としている筋湯温泉に対するクレームであるが、本末転倒で発電所が温泉を発電に利用しているのである。佐久間ダムで天竜川の水を堰き止め発電に利用した水は「水力発電所の廃水」だからと言って生活用水に使えない下水なのか。この件は詭弁と認定され、報道機関は恥をかいた。
「湖藤荘」の専用露天・室内温泉共に、徒歩五分程の山中にある。獣道に似た私道を歩く。指物師でもある主人お手製の木の風呂である。男女別の室内風呂が上にあり、下は露天風呂で、使用中の看板を掲げると貸切家族風呂となる。使用中なので、近くを散歩して戻るが、使用中である。別の方面を散歩して、戻るが使用中である。室内温泉に入ることにして、入浴して戻ると使用中である。耳を澄まして、湯浴みの音を確認したのであるが、静かである。ノックしても応答が無い。勇気を出してドアを開けると、温泉には人影が皆無で、使用した形跡が無い。真相は先客が看板を外すのを忘れた様である。
指物師でもある主人の手作りの建具・家具・テーブルに囲まれた30畳ほどの大広間で、三世代の家族と2組の老夫婦と共に食事をした。酔った勢いで、女房の制止も聞かずに嫌味な質問を発した。「白濁は入浴剤ですか」
主人の答えは意外で、そして心癒されたのである。
「粗末な山間の一軒宿では入浴剤を購入する余裕はありません。自然の恵みを素直に提供する意外に方法が見つかりません。都会に無い不便と涼しさそして星が見える静けさがセールスポイントです。それ以外はありません」
今晩は熟睡して、明日は畳平に行こうと思う。上天気を期待して。おやすみ。