前回テキストが終わったので、この日は『日本語のレトリック:文章表現の技法』(瀬戸賢一/岩波ジュニア文庫) の続きから、
「くびき法…ひとり二役をこなす」「換喩…指示をずらす」「提喩…カテゴリーをあやつる」の箇所を見ていきました。
・「くびき(頸木)」とは、牛や馬に人や荷物を引かせるために首の左右に渡す平行の木材のことで、
転じて複数の意味を持つことばを、一つの表現に使う方法です。二語の意味の距離が遠いほど “上手い表現” といえるでしょう。
・換喩は、共通の理解があることばの意味をずらして表現する方法です。例えば「今夜は鍋にしようか」というと、夕食のメニューを鍋物にするという意味で
「モーツァルトを聴く」は、モーツァルトが作曲した作品を鑑賞するという意味になります。漫才や落語では、この “ズレ” を利用して笑いに結びつけることがあります。
・提喩も、共通理解があるうえで成立する表現です。同じカテゴリーのことばを、意味の違う別のことばに置き換える方法です。「花見」=「桜を観に行く」「ご飯」=「食事全般」「焼き鳥」=「鶏肉を串に刺して焼いたもの」となるように、属 > 類 > 種 という関係で言い換えるのです。
ただ、一般的な共通理解といっても住んでいる地域や環境、時代によって違ってくるので、気をつけて使わなければなりません。
換喩や提喩は、比喩と気づかず使っていることも多い表現です。文学だけでなく、人の生活に自然に根づいた表現方法なのですね。
日本では、昔から「しりとり」「数えうた」「折り句(文章の行頭の文字をつなげると意味をなす=縦読み)」「アナグラム」のように言葉遊びがあり、“洒落た言い回し” を好むようですが、これらはすべて表現の幅を拡げるためにあるもので、表現に名称を付けたり説明するのはすべて “後付け” ということなのでしょう。
休憩をはさんで後半は、高科先生のご友人・岡田淳さんの新著『いいわけはつづくよ どこまでも』(絵 田中六大/偕成社)をご紹介。
神戸新聞に連載していたお話をまとめた本の中から、おじいちゃんが孫に関西弁で “ほら話” を語って聞かせる『ほんまはわからん』と『こんなところに王さまが』の2編を読み聞かせていただきました。
ちょうど、前々回の課題が「うそをつく・謀る」だったので、参考になるおもしろい作品でした。
続いて先生は、講談社のおはなし童話館7『ほらふき男爵・こうのとりになった王さま』(訳 斉藤洋/絵 長新太・和歌山静子/1992年出版)から
『ほらふき男爵のぼうけん』を読み聞かせ。次から次へと繰り出すほら話が、本当におもしろかった!
ほらふきの話はよくありますが、うまくできていないとおもしろくありません。
先生が好きな作家・アメリカのエリナー・ファージョン(『ムギと王さま』訳 石井桃子/絵エドワード・アーディゾニー/岩波少年文庫が有名)の作品にも『町かどのジム』(訳 松岡享子/絵 エドワード・アーディゾーニ/童話館出版) という、老人が少年に語って聞かせるスタイルのお話があることを紹介してくださいました。
彼女の作品にはエドワード・アーディゾニーが挿絵を付けているのですが、あっさりしているのに雰囲気のある絵がすばらしいと、先生が絶賛しておられました。
この後、皆が提出した「うそをつく・謀る」をテーマにした作品から2作品ほど紹介していただきましたが、アイデアや構成が素晴らしく、オチを聞いて「あ〜〜〜っ、騙された〜!」となったのでした。
そして、朝日新聞に掲載された 東海林さだおの『まだまだ!あれも食いたいこれも食いたい』の「おにぎり法成立」の回を読んでいきました。
エッセイと言うのか…おにぎりのあるべき姿について、おもしろおかしく繰り広げています。“わかったような わからんような” 話を、上品に笑えれば良いですね。
文章たっぷりコース第5期の授業もあと2回。課題も残り少なくなっていきました。
今回のテーマは「語る」です。
今日読んでいったほら話のように、「むかしむかし〜あったとさ」とか「あるところに〜がおりました」と、語り口調で書いてください。
いろいろ学んでいったラストスパートで、お話を作る練習をしてくださいね!
提出は、7月13日(土)です。よろしくお願いいたします。