この秋、ウィーン・フィルが指揮者のエッシェンバッハ、バリトンのマティアス・ゲル
ネとともにオーストラリア、香港、日本へ演奏旅行を行った。
今回のツアー・プログラムは、マーラーの"Des Knaben Wunderhorn"(「少年
の魔法の角笛」)、ブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」など数種類。場所に
よってはリストのピアノ協奏曲第1番(ピアノ;ラン・ラン)が演じられた。
演奏スケジュールは ( )内は当日の最終ステージ
9/29(木) パース ブルックナー4番「ロマンチック」
9/30(金) パース ベートーヴェン8番
10/2(日) ブリスベン 〃
10/3(月) ブリスベン ブルックナー4番「ロマンチック」
10/5(水) シドニー ベートーヴェン8番
10/6(木) シドニー ブルックナー4番「ロマンチック」
10/7(金) シドニー ベートーヴェン8番
10/9(日) 香港 マーラー「少年の~」
10/10(月) 香港 ブルックナー4番
10/12(水) 横浜 〃
10/13(木) サントリーH J.シュトラウス「皇帝円舞曲」
10/15(土) 広島 ブルックナー4番
10/16(日) 名古屋 シューベルト7番「未完成」
10/17(月) サントリーH ブルックナー4番
10/18(火) サントリーH シューベルト7番「未完成」
10/19(水) サントリーH マーラー「少年の~」
私は10月19日(水)、日本公演の最終日を聴いた。ウィーン・フィルのライヴは初
めての経験だ。
いつもはカジュアルな服装で過ごしているが、この日はスーツにネクタイスタイル
ででかけた。前日はゴルフの前の日のように興奮して寝付けなかった。「子供の
遠足」のようだ。
当日のプログラムは、指揮;エッシェンバッハ、バリトン;M.ゲルネ
コンサート・マスター;R.キュッヘル
1.ブラームス 悲劇的序曲
2.シューベルト 交響曲第7番「未完成」
3.マーラー 「少年の魔法の角笛」から
いずれもウィーンゆかりの作曲家にしてロマン派の曲。何が目玉というよりもこの
3曲のプログラムとウィーン・フィルの組み合わせが目玉なのではないかしらん。
(エッシェンバッハに失礼かな。)しかし、聴いた印象ではエッシェンバッハとウィー
ン・フィルの相性はいいようだった。
エッシェンバッハは、私にはフィッシャー=ディースカウ「詩人の恋」のピアノ伴奏
者として記憶されている。ジョージ・セル、カラヤンの薫陶を受け1970年代より
指揮活動を始めた。今年71歳になるはずだ。
昨年は、伝統の舞踏会、ザルツブルクのモーツァルト音楽祭と夏の音楽祭でウィ
ーン・フィルと共演、楽団では「遅れてきた恋人」と呼ばれているようだ。
M.ゲルネは、この8月にも来日し、サイトウ・キネンでバルトーク「青ひげ公の城」
を歌っている。
少し余談になるが、私は今から34年前の昭和52(1977)年、フィッシャー=ディ
ースカウ(バリトン)で5月3日(火・祝)「マーラーの夕べ」(ピアノ;W.サヴァリッ
シュ。東京文化会館)、5月7日(土)「青ひげ公の城」(ソプラノ;ユリア・ヴァラディ、
指揮;W.サヴァリッシュ、N響。NHKホール)を聴いている。あの時のフィッシャー
=ディースカウの歌う声と姿は今でもはっきりと私の心に焼付いている。
開場10分前から並ぶ。午後6時20分、予定どおりに開場。10分ほどロビーをウ
ロウロ。ウィーン・フィル記念にペンケースを購入する。
6時30分にプログラムをいただき、ホールへ入場となった。座席はC席の2F-P4
-16。運よく通路側の席が取れた。(--申し込みは5月27日、D席を狙ったが、
ものの5分で売り切れた。)ステージ後ろ側のP席は初めてだ。3mほど先は金管
楽器、10m先には指揮台が見える。ステージは意外と狭く感じる。
6時45分には下手コントラバスの二人がズンズンと練習。5分ほどで戻っていった。
コントラバスは6台用意されている。弦は14型のようだ。ステージ下手から1stヴァ
イオリン(14)、チェロ(8)、ビオラ(10)、2ndヴァイオリン(12)という対向配置だ。
開演5分前には9割以上の席が埋まった。(むろん当日券発売はない。小澤征爾
はいないかな~?)私の席の列も全員スタンバイ完了。私の隣は女子大生とお
ぼしき「オケガール」だった。
7時ちょうどに「まもなく開演でございます・・・・・・」というアナウンスがあった。英語
のアナウンスもあるのは珍しい。
1.ブラームス 悲劇的序曲
7時5分、コンサートマスター(第1ヴァイオリン)R.キュッヘルを先頭にオーケストラ
が入場してきた。ほぼ同時に大きな拍手が起きる。キュッヘルはウィーン国立音楽
大学の教授であり、夫人は日本人である。頭は禿げ上がり、いかにも大家の風貌
だが、私と同い年(五黄の寅年)である。ウィーン・フィルの定年は何歳かしらん。
演奏旅行は強行軍、お疲れになるでしょうに。
キュッヘルが立って、全員がさっと5秒ほどチューニング。こんなに短くていいのか
しらんというほどあっさりしたチューニングに驚いた。普通はオーボエの音とりから
始まって20秒以上かかるはずだ。
ややあってスキンヘッドのエッシェンバッハが本当に大きな拍手に迎えられて登
場した。身長177cm?黒の上下、隠しボタンのおしゃれな詰襟だ。
エッシェンバッハとウィーン・フィルは大きな緊張感を持つでもなく、エッシェンバッ
ハがさっと構えるや、縦振りを2回、最初の大きな和音を鳴らした。指揮はむろん
暗譜。文字どおり
①2/2快速に(しかし)はなはだしくなく
②4/4きわめて今までより中くらいの速さで
③2/2最初の速さで 穏やかに
という音楽をオーソドックスに演奏した。P席は指揮ぶりが手に取るように分かる
のでおもしろい。管楽器等のパート譜も生まれて初めて見た。パート譜では多少
長い曲でもほとんど1ページに収まってしまうようだ。途中でお隣の「オケガール」
は気持ちよさそうに寝てしまった。
2.シューベルト 交響曲第7番 D759 「未完成」
少しメンバーの入れ替えがあって、エッシェンバッハが登場。ここでも当然かのよ
うに暗譜である。
出だしの pp がすばらしい。テンポはAllegro moderatoの指定だが、遅からず
速からずちょうどよかった。('75年のベーム来日公演[CD]はかなり遅いテンポだ
った。一世代前の話だ。)主題のオーボエ、クラリネットは意外と大きく音量を感じ
た。エッシェンバッハはチェロ(主題)には向いても、振らない。各パートにも、細か
いこといわなくても分かっているでしょというがごとく、ほとんどサインを出さずに
振っていく。(むろんポイントは練習で押さえているのだろうが。)テンポの指示主
体の指揮だ。
何分もたたないうちに音楽に引き込まれ、背中が離れた。<幸福な一瞬>が時
間とともに流れていく。管の個人技はむろんすばらしいが、それとてアンサンブル
(--音のブレンドといえばいいのかしらん。)の中の話で、大きく目立つわけで
はない。音楽が pp で余韻をもって終わるとエッシェンバッハは棒を止めてから
ゆっくりと両手をおろした。
これもエッシェンバッハを聴くよりもウィーン・フィルのオーソドックスな演奏(--そ
れは過度にロマン的でもなければ即物的でもない。)を楽しんだといえるだろう。
むろんそこにはエッシェンバッハの棒が目立たない形で寄与しているはずである。
ただひたすら音楽に浸って酔いしれた20分間だった。ウ(ィ)~ンと唸った。
--20分間の休憩--
休憩も終わろうと、集中して座席に座っていたら、後ろの席のご婦人が階段につ
まづいて、いきなり私の背中に思いっきりド~ンとぶつかってきた。私も下りの階
段には気をつけている。その方には思わず「あらあら、大丈夫ですか」と笑ってし
まった。(--せっかくのすてきな演奏会で怒って興奮してはソンだ。)
3.マーラー 「少年の魔法の角笛」から
8時16分やはりキュッヘルを先頭にオケが入場した後、キュッヘル以下がさっと
チューニング。1分以上静まり返る中、ゲルネとエッシェンバッハが入ってきた。
ゲルネは180cm、95kg(?)の大男。エッシェンバッハはメガネ(老眼鏡?)を
かける。譜面台が用意されていた。この曲は、男女で歌うことが多いが、今回は
すべてゲルネが歌った。
ゲルネの第一声は、大きな柔らかな声、しかしP席のせいか子音が聴こえにくい。
声楽曲はP席に向かないだろう。当日は歌詞対訳が配布されていたが、それで
も周りでは対訳を追えず、ページをめくれない人が散見された。
フィッシャー=ディースカウのライヴはサヴァリッシュのピアノ伴奏で聴いたが、
ウィーン・フィルで聴くとおもしろみがまた一段と増す。
エッシェンバッハもこのステージでは譜面を見ながら各パートに指示を出し、か
なり表情を付けている。曲によってはアソビを楽しんでいた。残念ながらゲルネ
の声は聴きにくかったが、オケの伴奏を十分楽しんだ。マーラーの伴奏も一つ
の音楽だ。
(1)番兵の夜の歌 ⑥
(2)ラインの伝説 ④
(3)麗しきトランペットが鳴り響くのは ⑫ ホルンの pp がすばらしかった。
(4)この世の生活 ②
パンをねだる子が、パンが焼きあがったら、棺桶の中だったというこわいお話。
(5)原光
アタッカで始まった曲。これにはひきつけられた。エッシェンバッハの棒も明ら
かに集中。ゲルネはゆっくりと身体をゆする。上手のハープは男性が弾いて
いた。ウィーン・フィルに女性は3、4人というところかしらん。
なお、この曲は交響曲第2番「復活」の第4楽章に使われている。
(6)塔の囚われびとの歌 ⑩
(7)無駄な骨折り ③ このあたりで隣の女子学生はコックリ。
(8)魚に説教するパドヴァのアントニウス ⑨
お魚に説教する変わったお話。深い意味があるのかな~?これは「復活」の第
3楽章に使われている。
(9)高い知性への賛歌 ⑧
(10)死せる鼓手 ①
エッシェンバッハはここぞと思い入れたっぷりの指揮。オケの f と p のめりはり
がすばらしい。歌の部分は subito p 、歌のない部分は思い切り鳴らした。ゲ
ルネもウィーン・フィルの見事な伴奏に絶好調だった。やはりエッシェンバッハも
ウィーン・フィルも声(歌)の伴奏がうまい。
(11)少年鼓手 ⑤ 「ぼくはみじめな鼓笛兵」という静かな曲を最後に持ってきた。
演奏が静かに終わると、5秒、10秒と間があり。エッシェンバッハはゆっくりと両
手をおろした。ブラボと第一声、大きな拍手がわきおこるとともに、ゲルネとエッ
シェンバッハはひしと抱き合った。
(注)曲名の○番号はシュワルツコップ/フィッシャー=ディースカウ盤における順番。
好きな順番で歌っていいらしい。
客席の拍手が続く中、2回目のカーテンコールで、ゲルネのアンコールがあった。
マーラーらしい。どの曲かをもう一回かと思ったが、あとで調べたらマーラー「不幸
なときのなぐさめ」という歌曲だった。
それからも何回かカーテンコールがあって、オーケストラのメンバーが何人か増え
る、チェロの先頭にはベテラン氏が入り、順に後ろへ下がるとともに、エッシェンバ
ッハが登場。ゲルネも最後列のパーカッション席へ。
指揮を構えると一瞬にして静寂に包まれる。ホルンの pp が始まると客席からは
一斉に拍手が起きた。本場の「美しき青きドナウ」だ。エッシェンバッハは三つ振
りと一つ振りを使い分けた、緩急あふれる指揮ぶり。オーケストラも揺れ、恣意的
な点がない、自然に心に沁みこんでくる音楽であり、それはすばらしかった!
次のカーテンコールでは、エッシェンバッハがコンマスに「さあ立ちましょう」と指示
してもだれも立たず笑うばかり、エッシェンバッハは胸に手を当て、オーケストラに
「ダンケシェーン」。
時間は既に9時半を回っていたが、またも指揮台に立った。今度はポルカ--こ
れも本場の「雷鳴と稲妻」(J.シュトラウスⅡ)、これがすごかった。エッシェンバッ
ハも振りに振り、オーケストラも熱が入った。終わると同時に、私も大きなブラボー
を叫んだ。
その後のカーテンコールではスタンディングオーベーションも起き、オケの退場
後もエッシェンバッハが呼ばれ、10回目のカーテンコールとなり、9時40分お開
きとなった。
エッシェンバッハとゲルネ、ウィーン・フィルは10月23日(日)もウィーンで、凱
旋公演か、マーラー「少年の魔法の角笛」を演奏したはずだ。
当日の写真集
開演前のカラヤン広場
PM6:10 お客さまが集まってきた
6:20 サントリーホール名物
R席からのステージ
P席への入口
休憩中のロビー風景
私の席はステージの向う側
左ラン・ラン 中央エッシェンバッハ 右ゲルネ
当日のプログラムと歌詞対訳
ウィーン・フィル ペンケース
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ロビーに飾ってあった 今年9月28日のケント・ナガノ(バイエルン国立管弦楽団)
今年7月25日 「やってみなはれ」プロジェクト
お坊さんの声明にあわせて踊る
* * * *
10月22日(土) 錦糸町の新日本フィルトリフォニー定期へ。インゴ・メッツマッハ
ーのブラ1に期待して。
午前中は雨だったので長い傘を持って出かけた。東京スカイツリーの上が、珍し
く見えなかった。
この演奏会レポートはまた来週。
上がかすんだ東京スカイツリー H23(2011)/10/22
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