《動物園の食糧事情》 首都のピョンヤンだけでなく、地方都市にも動物園がある。そして北朝鮮の動
物園はどこでも、必ずライオンやトラなどの猛獣が飼われているそうだ。その猛
獣たちのために、動物園には牛や豚や鶏が支給される。人々が食うにことを欠い
ているような状況下でも、動物園のトラやライオンたちには変わりなく生肉が送
られてくる。人間様にはめったに口にすることができないご馳走だから、園の職
員たちがピンハネする。食糧事情が悪くなるにつれ、ピンハネの度がひどくなる
ので、当然のことながら、トラやライオンたちは次第にやせていった。監査役人
などが時々視察に来るが、見てみぬ振りで、職員たちがとがめられることはない
のだそうだ。なぜなら、そういうときこそ、動物たちのご馳走が人間様のご馳走
に化けて、視察の役人たちも饗応に預かれるから。動物たちがどんなにやせ衰え
ていても、生きている限り帳尻は合わせられるから、政府からたっぷりとお肉が
送られてくる。それを人間様が脇からいただく。
「でも、あのトラやライオンたち、もう生きていないでしょうね」と、夢子さ
んが語ってくれた。