
選択肢がなかった。
しかし、刃物にした場合、極上の切れ
味を誇る炭素鋼も欠点があった。
それは、鋼が自分で大気と結合して
元の姿に戻ろうとすることだ。
そのため、酸化し、錆びて行く。
そこで近代工業が産業革命により登場
して以降、人類は錆びにくい鋼の研究
を重ねた。
クロムを含有させれば不動態を形成し
やすく、自然コーティングにより赤錆
が発生しにくくなることを発見して
以降はクロムを成分に含ませる合金が
実用化された。不銹鋼だ。
しかし、クロムにより鋼の硬度が下がっ
てしまう弊害が起きたので、様々な元素
を含ませることでそれをカバーしようと
した。それらがいわゆる特殊鋼と呼ばれ
る合金だ。
現在では、刃物鋼として利用した場合、
炭素鋼に近い切れ味を持つ合金も多く
存在するようになった。
アウトドアナイフは炭素鋼よりもSUS鋼
のほうが絶対に良い。
理由は一つ。錆というものに対してステン
鋼は強いからだ。炭素鋼とはまるで異なる。
炭素鋼は素晴らしい。それは事実だ。
鋼の中の鋼が炭素鋼だ。
しかし、野外活動を長期間やってみると
出錆についていかに対応が大変かが判る
ことだろう。
炭素鋼唯一脳内ファンタジー神話などは
一発で吹っ飛ぶ。
炭素鋼のナイフを腰に海に入ればすぐに
錆びるし、陸地でも、雨の中炭素鋼の
ナイフを腰にしたまま数日活動したら
炭素鋼のナイフは赤イワシになる。
頭抱えるくらいに嫌になりますよ。
真っ赤に錆びるから。
よしゃいいのに、平地よりも刃先が最も
錆びやすかったりする。
炭素鋼への思いがいくら強くとも、背に
腹は代えられない。脳内お花畑では野外の
実践活動では生きていけないのです。
やってみれば即解ります。これはあかん、
と。
命がかかるようなシチュエーションで、
使い物にならなくなったナイフ持ってて
も、もうどうしようもなくなるんだよね。
装弾不良ばかり起こす自動小銃持たされた
ように。
ランドールもモーラもオピネルでさえも
ステンレスモデルを出している。
理由は野外使用における錆対策のためだ。
炭素鋼とステンレス鋼で切れ味がさほど
変わらないのであるならば、野外活動では
絶対的にステンレス鋼を鋼材としたナイフ
がダントツで優れている。
炭素鋼は錆びますよ。錆びさせないのが
心構えだ、なんてファンタジーは実践野外
では通用しません。炭素鋼しかなかった
時代の常識は現代では通用しない。
(二代目小林康宏作 戦闘鎌)
