怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「アメリカに潰された政治家たち」孫崎 亨

2015-10-07 21:05:41 | 
世にCIA謀略史観というのは溢れているというか、何かあると裏にはCIAが密かに動いているとまことしやかに囁かれる。
現実に世界中でいろいろな工作が行われ、それが明らかになっている例も多い。ただし、CIAが万能の神というわけでもなく工作がみじめに失敗している例とかも多いみたいだ。
では、この日本はどうだろう。
占領下はもちろんのこと、今でもアメリカは日本を思いのままに動かすために数々の工作をしている。そこには、一情報機関の意志ではなくて国家としてのアメリカの意志が動いていて、影響下にある政界、財界、マスコミを動かして日本を操っている。歴代総理大臣もアメリカの意に添わなければ遠慮なく首を挿げ替えられてきた。
こう書くといかにも…となるのですが、著者は外務省の情報部門である国際情報部長を勤め、駐ウズベキスタン大使、駐イラン大使も歴任しているとなると信憑性も高くなる。

著者に言わせると、歴代総理大臣は、対米追従路線を取るものと自主路線を取るものがいて自主路線を取る(取ろうとした)者はアメリカの裏工作によってパージされてきた。
吉田茂は世評ではアメリカにものを申したようにとられているが、徹底した追従路線だったが、岸信介は意外にも自主路線で、安保条約の改定と併せて行政協定(現在の地位協定であり、ここに基地問題などの不平等性が出ている)の改定を行うことによってアメリカの影響力をそごうとしていた。しかし、安保闘争が岸内閣倒閣闘争に変質する中で地位協定を改定することなく退陣。そこには自民党内部の調整や闘争へのアメリカの意を受けた財界の資金援助などもあり、後任には対米追従の池田隼人がなることによって地位協定は実質手を触れられなかった。こう書かれると60年安保闘争とはなんだったのかとなるのですが、そういう一面はあったにしろ、アメリカの意向だけで切り取れない面はあると思うのですけどね。全学連の闘争資金だって財界からも出ていたかもしれませんが、ひょっとするとソ連や中国からも出ていたかも知れませんし、大部分は運動の高揚に伴うカンパでしょう。岸信介が自主独立派というのは、その経歴からもむべなるかなと思うのですが、60年安保の政治状況はそうは単純に割り切れるものではないと思います。
続いての自主路線の総理大臣はというと田中角栄。石油危機の時に原油を確保しようと独自外交を展開してメジャーの逆鱗に触れて追い落とされたという説がありますが、どうも本当に踏んだ虎の尾はアメリカに先んじた「中国」との国交回復とか。前任の佐藤栄作が繊維の密約を無視したのでニクソンの逆鱗に触れアメリカにいろいろと嫌がらせをされ、中国にも日本に事前連絡もなくニクソンが行くという仕打ちを受けています。そういう中での日本としての独自な外交努力が国交回復と実るのですが、それはアメリカの中国利権への挑戦ととらえられたのです。ロッキード事件はまさにアメリカ発であり、未だに謀略説があるのですが、首相退陣後も隠然たる力を持ち政治を牛耳っていたということについてはアメリカとしてはどうなんでしょうか。嘱託尋問も不当なものと言われていますが当時の特捜部のメンバーの履歴からアメリカの意を受けていたものととらえるのは穿ちすぎでは?アメリカの影響下のマスコミが田中角栄追い落としを後押ししたとなっていますが、田中金脈を一貫して追求してきた立花隆に意見を聞いてみたいものです。
田中角栄の跡を継ぐ自主路線派の政治家は小沢一郎。彼は政権交代が見えてきて総理大臣になれる位置まで来たのに、秘書が逮捕され検察審査会から強制起訴されるということで、民主党代表を退かざるを得なかった。これもアメリカの意向を受けた陰謀?小沢一郎についても賛否いろいろ議論はあるのだが、アメリカの意向とだけで割り切れないでしょう。アメリカが牛耳っているマスコミを通じて日本の世論はなんとでもなるということでしょうか。
鳩山由紀夫も沖縄普天間基地を県外移転と言い、東アジア共同体を提唱して虎の尾を踏んだということでしょう。それにしても鳩山の政権運営はあまりにも稚拙、基地移転の問題ももっとやりようがあったと思うのですが、官僚のサボタージュにあったというのなら民主党政権の致命的欠陥でした。アメリカに云々というよりも早晩自壊していたのでしょう。
アメリカの力を見せつけられて、その後の菅、野田政権がアメリカにひたすら追従していたの言うのは、何となく納得してしまいますけどね。
では今の安倍政権はどうなんでしょう。心情としては自主独立で、普通に戦える軍隊を持って、日本の国際的地位を向上させたいということでしょうか。でもそのために集団的自衛権を法制化してアメリカの求めるままに海外展開できるようにするというと対米追従の極みでは…アメリカの傘の下からは決して出てはいけないけど、アメリカの肩代わりはお願い、と言われて、その意のままに安保法制を整備しました。どうも心情と行為が相反しているような気がしてなりません。
敗戦国であり世界の辺境に生きている日本の複雑な政治状況をアメリカの国家としての利益という一面で割り切っているような感がありますが、それもあるけどねぇというのが率直な感想です。
コメント
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