ペンス副大統領の演説がアメリカの中国の見方の歴史的な転回点とされていますが、実はオバマ政権末期から中国警戒論は高まってきていた。
最も具体的かつ効果的な動きはほとんどなかったのですが、トランプ政権になってあきらかに潮目が変わってきた。親中国ではないかと警戒されていたバイデン大統領になってもその流れは変わっていない。
オバマ政権末期の早くから中国警戒論を訴えていたのが、ピーター・ナヴァロ。
この本は着々と勢力圏を拡大してアジアの覇権を手に入れようとしている中国に対してアメリカはどう対処していくべきかを述べたもの。
400ページ余りの本ですが、45の問題とそれに対する回答と解説と言う形式で思いのほかズンズン読むことができました。経済学の教科書にあった記憶ですがアメリカの教科書としてはよくある様な形みたいですが分かりやすい。設問は短く、回答も選択肢から選ぶもの。おのずと回答は察せれるのですが、対立する考え方もちゃんと述べられていて冷静に理詰めで結論に導いています。
因みに英語の表題は「crouching tiger what china's militarism means for the world」直訳すれば「蹲る虎 中国の軍国主義は世界にとって何を意味するのか」ぐらいでしょうか。
軍事面での分析もあるのですが、いかに戦争をしないでアジアにおけるアメリカのヘゲモニーを保ち中国を封じ込めるかということを論じています。
表題からは、米中が戦うとした場合のどういう戦況になるのかという本かと思っていたのですが、むしろ戦わないようにするためにはアメリカはどうすればいいかというもの。対中国と軍事的に一戦交えて決着をつけるのではなく、戦わずして中国の拡張主義をどう抑え込んで行くかその道筋を説いています。
米ソ冷戦時代のソ連と違って今の中国は世界経済の中に組み込まれ、世界の工場として大きな役割を果たしています。その中で着々と国力を蓄え、今やGNPで世界一になる日も遠からずと言うまでになっています。もちろん世界の工場として確固たる地位を占めるまでには、アメリカをはじめとする先進各国は共産党一党独裁化の安い労働力を使うことができ膨大な利益を得ていたのですが、中国は経済成長とともに民主化が進むという今となっては幻想を抱いていたのですが、経済成長によっても共産党独裁は揺るがず、アメリカのアジアにおける覇権に挑戦するようになってきたのです。自由貿易体制の利益だけは取り込み、民間利用の名の下で都合のいい転用、サイバースパイなどを通じ最先端軍事技術を盗み剽窃し、軍事費を伸ばしていく中で国際条約を無視し、徐々に既成事実を積み上げて領土を膨張させています。さらに言えば中国との貿易で巨大な利益を得てきたのはIT巨大企業なのですが、それによって製造業の空洞化を招き二極化が進み中産階級が没落し、それがトランプを登場させた原動力になっています。
その中国の軍事思想にはいまだ毛沢東の「数で敵を圧倒する」「数が質となる」やスターリンの「量も質のうち」という考えが影響しています。実際今のアメリカの覇権を支えているのは機動的な空母艦隊であり、日本、韓国、グアムに展開する米軍基地なのですが、膨大な量の非対称兵器(それらが破壊しようとしている対象に比べて非常に安価な兵器)によってそれらを牽制し、自由な展開を妨げ、無力化できるところ迄来ています。
ただ、その中国の経済力は原油をはじめとした食料・原材料輸入のため海上交通に大きく依存している。マラッカ海峡がアキレス腱になるように海上封鎖をされると経済は大混乱に陥る。もっともそれは世界の工場たる中国に大きく依存している欧米経済にも大きな打撃を与えるのですけど。もしかすると民主国家の欧米の方が経済危機への耐性は低いかもしれないので、ダメージから言うと中国に分があるのか。
もともと中国は陸の帝国で内田樹に言わせれば歴史的に海へ進出する意欲はなかったというのだが、大きく貿易に依存する現在の経済構造は歴史的正当性はともかく第一列島線を固有の領土として死守しそこを突破して第二列島線まで影響下に置こうと言う意欲をもたらしている。尖閣列島はまさに風前の灯火…もともと「明」とか「清」の中華帝国の領土こそが中国の固有の領土で、その復権を目論むなら沖縄でも当時の琉球は清の属国だったのでうちのものだと言い出しかねない。
ではアメリカは太平洋の覇権を中国に譲り渡すことができるのか。今やっとその異形の独裁国家の危うさに気づき何とか封じ込めようとしている。その場合アメリカ単独ではもはや封じ込めることはできないので、日本の立ち位置が問われる。政治はアメリカ・経済は中国と言ういいとこ取りは許されない以上、日本は実質的な属国であるがゆえにアメリカについて行くしかないのでしょうが厳しい局面に立たされるのは必至。
力と経済が錯綜する国際社会の複雑さとその中での日本の行く末を考えさせられる本です。私個人としては中国の急速に進む高齢化が結構制約条件になるのではと思うのですが、それが目に見える形で制約条件として顕在するのは20年後くらいか。今の中国の高齢化率は15%くらい。日本の高齢化率が15%を超えたのは1995年ごろ。そこから失われた20年が始まったことを思うとこれから経済的には減退していく…
一緒に写っている1冊は椎名誠の「おなかがすいた ハラペコだ。」です。椎名誠の愛読者としてはほとんどが知っているようなことばかりを書いてあるのですが、椎名誠さんも齢70過ぎ。若かりし時のように熱帯雨林からシベリヤへサンゴ礁の海から広大な砂漠へと東奔西走することは無理でしょう。小樽の別荘も手放したようですし、今はもっぱら近場で焚火を囲んだ男ばかりの釣りとキャンプ三昧。
過去の経験をうまくまとめたエッセイにしてありますが、実はこの本、日本共産党中央委員会発行の「女性の広場」の連載を加除修正したものです。なんとなく椎名誠と日本共産党は結び付きにくいのですが、物書きとしてはオファーがあればどこでも喜んで書くのが性なのでしょうか。まあ、両者あまり敵対的でもなかったのでしょうけど、椎名誠が日本共産党系文化人とは思えませんね。
最も具体的かつ効果的な動きはほとんどなかったのですが、トランプ政権になってあきらかに潮目が変わってきた。親中国ではないかと警戒されていたバイデン大統領になってもその流れは変わっていない。
オバマ政権末期の早くから中国警戒論を訴えていたのが、ピーター・ナヴァロ。
この本は着々と勢力圏を拡大してアジアの覇権を手に入れようとしている中国に対してアメリカはどう対処していくべきかを述べたもの。
400ページ余りの本ですが、45の問題とそれに対する回答と解説と言う形式で思いのほかズンズン読むことができました。経済学の教科書にあった記憶ですがアメリカの教科書としてはよくある様な形みたいですが分かりやすい。設問は短く、回答も選択肢から選ぶもの。おのずと回答は察せれるのですが、対立する考え方もちゃんと述べられていて冷静に理詰めで結論に導いています。
因みに英語の表題は「crouching tiger what china's militarism means for the world」直訳すれば「蹲る虎 中国の軍国主義は世界にとって何を意味するのか」ぐらいでしょうか。
軍事面での分析もあるのですが、いかに戦争をしないでアジアにおけるアメリカのヘゲモニーを保ち中国を封じ込めるかということを論じています。
表題からは、米中が戦うとした場合のどういう戦況になるのかという本かと思っていたのですが、むしろ戦わないようにするためにはアメリカはどうすればいいかというもの。対中国と軍事的に一戦交えて決着をつけるのではなく、戦わずして中国の拡張主義をどう抑え込んで行くかその道筋を説いています。
米ソ冷戦時代のソ連と違って今の中国は世界経済の中に組み込まれ、世界の工場として大きな役割を果たしています。その中で着々と国力を蓄え、今やGNPで世界一になる日も遠からずと言うまでになっています。もちろん世界の工場として確固たる地位を占めるまでには、アメリカをはじめとする先進各国は共産党一党独裁化の安い労働力を使うことができ膨大な利益を得ていたのですが、中国は経済成長とともに民主化が進むという今となっては幻想を抱いていたのですが、経済成長によっても共産党独裁は揺るがず、アメリカのアジアにおける覇権に挑戦するようになってきたのです。自由貿易体制の利益だけは取り込み、民間利用の名の下で都合のいい転用、サイバースパイなどを通じ最先端軍事技術を盗み剽窃し、軍事費を伸ばしていく中で国際条約を無視し、徐々に既成事実を積み上げて領土を膨張させています。さらに言えば中国との貿易で巨大な利益を得てきたのはIT巨大企業なのですが、それによって製造業の空洞化を招き二極化が進み中産階級が没落し、それがトランプを登場させた原動力になっています。
その中国の軍事思想にはいまだ毛沢東の「数で敵を圧倒する」「数が質となる」やスターリンの「量も質のうち」という考えが影響しています。実際今のアメリカの覇権を支えているのは機動的な空母艦隊であり、日本、韓国、グアムに展開する米軍基地なのですが、膨大な量の非対称兵器(それらが破壊しようとしている対象に比べて非常に安価な兵器)によってそれらを牽制し、自由な展開を妨げ、無力化できるところ迄来ています。
ただ、その中国の経済力は原油をはじめとした食料・原材料輸入のため海上交通に大きく依存している。マラッカ海峡がアキレス腱になるように海上封鎖をされると経済は大混乱に陥る。もっともそれは世界の工場たる中国に大きく依存している欧米経済にも大きな打撃を与えるのですけど。もしかすると民主国家の欧米の方が経済危機への耐性は低いかもしれないので、ダメージから言うと中国に分があるのか。
もともと中国は陸の帝国で内田樹に言わせれば歴史的に海へ進出する意欲はなかったというのだが、大きく貿易に依存する現在の経済構造は歴史的正当性はともかく第一列島線を固有の領土として死守しそこを突破して第二列島線まで影響下に置こうと言う意欲をもたらしている。尖閣列島はまさに風前の灯火…もともと「明」とか「清」の中華帝国の領土こそが中国の固有の領土で、その復権を目論むなら沖縄でも当時の琉球は清の属国だったのでうちのものだと言い出しかねない。
ではアメリカは太平洋の覇権を中国に譲り渡すことができるのか。今やっとその異形の独裁国家の危うさに気づき何とか封じ込めようとしている。その場合アメリカ単独ではもはや封じ込めることはできないので、日本の立ち位置が問われる。政治はアメリカ・経済は中国と言ういいとこ取りは許されない以上、日本は実質的な属国であるがゆえにアメリカについて行くしかないのでしょうが厳しい局面に立たされるのは必至。
力と経済が錯綜する国際社会の複雑さとその中での日本の行く末を考えさせられる本です。私個人としては中国の急速に進む高齢化が結構制約条件になるのではと思うのですが、それが目に見える形で制約条件として顕在するのは20年後くらいか。今の中国の高齢化率は15%くらい。日本の高齢化率が15%を超えたのは1995年ごろ。そこから失われた20年が始まったことを思うとこれから経済的には減退していく…
一緒に写っている1冊は椎名誠の「おなかがすいた ハラペコだ。」です。椎名誠の愛読者としてはほとんどが知っているようなことばかりを書いてあるのですが、椎名誠さんも齢70過ぎ。若かりし時のように熱帯雨林からシベリヤへサンゴ礁の海から広大な砂漠へと東奔西走することは無理でしょう。小樽の別荘も手放したようですし、今はもっぱら近場で焚火を囲んだ男ばかりの釣りとキャンプ三昧。
過去の経験をうまくまとめたエッセイにしてありますが、実はこの本、日本共産党中央委員会発行の「女性の広場」の連載を加除修正したものです。なんとなく椎名誠と日本共産党は結び付きにくいのですが、物書きとしてはオファーがあればどこでも喜んで書くのが性なのでしょうか。まあ、両者あまり敵対的でもなかったのでしょうけど、椎名誠が日本共産党系文化人とは思えませんね。