く~にゃん雑記帳

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<BOOK> 「自然災害と民俗」(野本寛一著、森話社発行)

2013年08月13日 | BOOK

【地震・津波、台風、山地崩落……「民俗的伝承の活用を」!】

 著者の野本氏は1937年静岡県生まれで近畿大学名誉教授。フィールドワークを重視した民俗学者として知られる。著書に「海岸環境民俗論」「熊野山海民俗考」「神と自然の景観論―信仰環境を読む」など。2011年の東日本大震災や紀伊半島大水害が本書執筆を後押しした。「この際、民俗学の視覚から聞き取りを重ねてきた自然災害にかかわる伝承や民俗的対応について、瑕疵を怖れずにまとめておくべきだと考えるようになった」。

   

 地震と津波、火山噴火と降灰、山地崩落、台風、雪崩、冷害など自然災害別に12章で構成する。著者は東日本大震災の陸前高田の1本松の映像を見るたび、静岡県袋井市の「亀の松」のことを思ったという。600年くらい前に大地震が起き、母子が津波にさらわれるが、母が亀に化身して子を守ったという伝説がある。助けてくれた海亀の伝説からその肉を食べることを禁じる禁忌伝承は各地に残っているという。

 柳田國男の「遠野物語」99話では、津波に遭って死んだ妻が婚前の相思の男と夫婦となって夫の前に幻視として立つ。この伝説は何を意味するのか。著者は「未練を断ち切り、死者の冥福を祈り、生者が生きる決断を固める契機を示す語りが内在すると考えるべきだろう」と指摘する。

 「ナマズやキジが騒ぐと地震が起こる」といった伝承は各地に伝わる。「地震・津波の前には小動物が高い所に登る」「ヤギが積み上げた堆肥に登ると地震が起こる」「津波の前触れとして深海魚が浅い所で獲れる」といった言い伝えもあるそうだ。このほか伊豆半島に伝わるカニと地震の伝説や沖縄県石垣市のジュゴンと津波の伝説なども紹介している。

 地震とともに大災害をもたらすものに火山噴火がある。雲仙・普賢岳や三宅島・雄岳、霧島連山・新燃岳の噴火災害や降灰被害は記憶に新しい。「『雲仙大変肥後迷惑』という口誦句は、雲仙の噴火の甚大さを伝える」。鹿児島・桜島では噴火口の位置や風向と季節のかかわりを見定め体験と伝承から栽培作物を決めてきた。「カリフラワー・桜島大根・ビワ・椿など、いずれも風向と降灰時期を考慮した選択である」。

 2年前の紀伊半島大水害では崩落した土砂が峡谷を塞ぐ〝堰止め湖〟が難題として浮上した。山地崩落を紀伊山地では「クエ」や「グエ」と呼ぶ。筆者は漢字の「崩(く)え」「潰(く)え」から来ているのでは、と推測する。栃木・山梨・静岡・長野などでは「ナギ」という。北陸では焼き畑のことも「ナギ」と呼ぶそうだ。いずれも草や潅木を薙(な)ぎ切ることに由来するらしい。島根や愛媛・徳島では「ツエ(潰え)」や「ツエヌケ(潰え抜け)」。このほかに「山ズレ」や「タニゼメ」と呼ぶ地方もある。

 台風の予想伝承には「アカウミガメが浜の奥に卵を産む年は大きな台風が来る」といった言い伝えが古くから和歌山県新宮市や静岡県御前崎市に伝わる。「アシナガバチが石垣の中に巣を作る年は大きい台風が来る。木の高い所に作る年は来ない」という伝承も各地にある。「鳥の巣が低いと大きな台風が来る」「トウモロコシの根が高く張る年は強い台風が来る」といった言い伝えもあるそうだ。

 著者は終章「災害列島に生きる」で、自然の恩恵と災害という〝両義性〟に触れる。東日本大震災では多くの漁業関係者も被災した。「海から極めて理不尽な深傷を負わされたにもかかわらず、海の恵みといった側面を見つめる……この国土に生きる者は誰もが、自然の両義性を深く心に刻むことを求められている」。そして「巨大地震・巨大津波・大型集中豪雨・深層崩壊・浸透破堤といった未知の災害、複合災害に備えるためには土木的・科学的対応、民俗的伝承の活用とともに、地域共同体の基礎力を復活させなければならない」と結ぶ。

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