【中国の「唐ナデシコ」(石竹)に対し「大和ナデシコ」とも】
日当たりのいい山野や河原に自生する多年草。日本のほか朝鮮半島、中国に分布する。秋の七草のナデシコはこのカワラナデシコを指す。単にナデシコとも。平安時代に中国から渡来した「セキチク(石竹)」を「唐ナデシコ」と言うのに対して「大和(ヤマト)ナデシコ」とも呼ばれる。清少納言は「草の花は、なでしこ。唐のはさらなり。大和のもいとめでたし」(枕草子)と、ナデシコを一番に挙げた。
「撫子」の名は撫でてみたくなるほど愛らしいことによる。夏から秋にかけて細い茎の先に直径4~5cmほどの優しいピンクの花を付ける。花びらは5枚で縁が細く裂ける。その花姿から可憐な中に強さも秘めた日本女性を「大和撫子」と呼ぶようになった。サッカー日本女子代表チームの愛称「なでしこジャパン」も大和撫子に世界に羽ばたいてほしいとの願いを込めて付けられた。
万葉集にはナデシコを詠んだ歌が長歌も含め26首ある。万葉表記は「石竹」「瞿麦」「奈泥之故」「奈弖之故」など。全体のほぼ4割を占める11首を大伴家持が詠んだ。その多くで愛する女性をナデシコになぞらえている。「うるはしみ我(あ)が思(も)ふ君はなでしこが 花になそへて見れど飽かぬかも」。家持がいかにナデシコを好んでいたのか、その心情が伝わってくるようだ。
ナデシコ属の仲間は世界に300種ほどある。比較的容易に種間雑種が生まれることから園芸品種も多い。日本では江戸時代、盛んに様々な変わり花が栽培された。いわば古典園芸植物の1つで、今も残る「伊勢(松阪)ナデシコ」は三重県指定の天然記念物になっている。花びらの縁が長く垂れ下がるのが特徴。
ナデシコは京都府の花。このほか市や町の花に制定しているところも多い。神奈川県の平塚市や秦野市、山梨県甲府市、富山県射水市、名古屋市名東区、神戸市西区……。三重県の伊勢志摩地方には海岸にハマナデシコ(フジナデシコ)が多く自生しており、鳥羽市はこの花を市花にしている(上の写真㊨はハマナデシコの白花)。宮崎県高鍋町は撫子紋が高鍋藩主秋月家の家紋だったこともあってナデシコが町の花になっている。