【万葉集にも1首「屎葛(くそかずら)」として登場】
アカネ科のツル性多年草。他の木々やフェンスなどに絡まって伸びるため、厄介な雑草の1種とみられることが多い。葉や実をもむと独特な臭気を発することから「ヘクソカズラ(屁糞葛)」という気の毒な名前が付けられた。一方で、花の内側の紅色がお灸をすえた跡に似るため「ヤイトバナ(灸花)」や、筒状の小花を早乙女の花笠に見立てた「サオトメカズラ(早乙女葛)」「サオトメバナ(早乙女花)」とも呼ばれる。
万葉集にヘクソカズラの歌が1首あるが、ここでは単に「クソカズラ」と詠まれている。「さうけふに延(は)ひおほとれる屎葛(くそかずら)絶ゆることなく宮仕へせむ」(高宮王)。宮仕えを続けていく覚悟をしつこく木に絡みつくヘクソカズラにたとえて詠んだ。「さうけふ」の植物はカワラフジともサイカチともいわれる。高宮王(たかみやのおおきみ)は皇族出身の役人とみられ、万葉集にはこの歌も含め2首が掲載されている。
クソカズラの頭に「ヘ」が付いた時期ははっきりしない。ただ、貝原益軒の「大和本草」(1709年刊行)では「女青」として取り上げられ「女青ハ俗名ヘクソカツラト云」とあることから、江戸時代の前半には既にヘクソカズラと呼ばれていたようだ。花期は8~9月頃。1つ1つの小花は可憐で愛らしい。そこから「屁糞葛も花盛り」ということわざが生まれた。悪臭からふだん忌み嫌われているヘクソカズラもかわいい花を付ける時期がある――。つまり「鬼も十八番茶も出花」と同じ意味を持つ。
悪臭の原因はメルカブタンという揮発性のガスで、葉や茎が傷つけられると細胞内のペデロシドという硫黄化合物が分解して発生する。ペデロシドは昆虫が嫌う成分を含む。その独特な臭気も外敵から身を守るという目的があるわけだ。古くから民間療法に活用されてきた。葉や実をもんだりつぶしたりして虫刺されやあかぎれ、しもやけに塗る。光沢のある茶褐色の実が付いたつるは茶花やドライフラワーなどに用いられ、つるは紐の代用にもなった。「野の仏へくそかづらを着飾りて」(石田あき子)。