kenroのミニコミ

kenroが見た、読んだ、聞いた、感じた美術、映画、書籍、舞台、旅行先のことなどもろもろを書きなぐり。

共生、共同プロジェクトの成功  ベルリン・フィルと子どもたち

2005-04-03 | 映画
バブルの頃、日本では企業が芸術振興に力を入れるメセナが流行ったものだが、景気が悪くなり、すぐには企業利益に結びつかない芸術に金をかける余裕はなくなってしまった。公もまた然り。ゼネコンの出番とばかりに立派な文化施設をあちこちに造ったのはいいが、どれも閑古鳥が鳴き、今や国立美術館さえ独立行政法人化、地方の美術館などにいたっては閉館止むなしのものさえある。
東西ドイツ融和の桎梏の象徴ベルリンは、壁崩壊後建設ラッシュに湧いたが、同時に貧富の格差が拡大し、高失業率、移民のスラム化などの問題も抱える。そのような貧困層、移民層の子どもたちは自信を持てず、新たな貧困層を再生産しかねない。自信を持てない彼らが友だちとのぺちゃくちゃ話、薄ら笑いで「真剣さ」から逃れようとする姿は仕方ない。しかしこれまで「年齢や能力、文化的背景が異なる人々が一緒に踊る」というダンス・プロジェクトを数々成功させてきた振付師のロイストン・マルドゥームは容赦なく子どもたちに「真剣になれ、君たちにはパワーがある」と叱咤する。自信のなかった青少年らは次第に真摯に向き合い、本番になる頃の彼らの動きは本当に美しい。世界でも最高峰の技術を誇るベルリン・フィルとこの250人もの素人のコラボレーションを企画したのは芸術監督兼首席指揮者のサー・サイモン・ラトル。彼は地面から湧き起こって来る力を表現(春の祭典)しようと細部まで完成度の高いものを求め、それに応える楽団員の姿は凛々しくさえある。ラトルは言う。「芸術はぜいたく品ではなく、必需品だ。空気や水と同じように生きるために必要だ」と。
廃墟となったサラエボの街でヨーヨー・マが渾身のセロを奏でたように、生きるために必要な芸術に気楽に出会えるベルリン市民は幸せだ。
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