スイスはベルンのパウル・クレー・センターを訪れた際に案内してくださったのが学芸員の奥田修さんであった。(訪問記はスイス美術館紀行1 パウル・クレー・センター http://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/2153641dd289d83dce671f4d8a6ef28a)その際クレーのすさまじい収集癖、記録癖を垣間見たものだが、今回の展覧会で知ったのはクレーが自分の作品をすべて、いつ、どのような技法で、どんな画材で制作したかすべて記録していたというから驚きだ。普通、天才肌たる芸術家は自分の作品を整理していないことが多く、後世の学者らがレゾネ(全作品目録)を作るのに苦労するものだが、クレーの場合、「センター」ができるほど、その足跡調査が可能であったわけである。奥田さんも今回の展覧会でクレーがベルンのアトリエで過ごした際の考察を寄せている。クレーに関する書簡研究の第一人者を自負する奥田さんであるからこそ、可能な今回の展覧会であり、またクレーに対する興味がより深くなる展示の仕方であった。
今回の展示の意図を主催者は「クレー作品が物理的にどのようにつくられたか」を観点とすると宣言する。制作プロセスでの分類、クレー自ら「特別クラス」と名付けた作品群を6つのセクションで構成し、それぞれ油彩転写、切断・再構成、切断・分離、両面などとクレーの使い分けた技法によって作品を分類、展示する試みはその足跡をたどるうえでとても有効だ。というのは、クレーの絵はぱっと見たところとても単純、明快に見える。線画も多く、幾何学的な模様に終始しているように見える作品も多いが、そこに至る過程が実はとても複雑かつ綿密に計算されていることがよく分かるからだ。クレーは通常、20世紀美術の中でシュルレアリズムに分類、紹介されることが多いが、中でもキュビズムとの近接も語られる。しかし、ピカソやブラックなどのキュビズムがどこか、3次元たる立体(キューブ)をなんとかして絵画世界である2次元で表わそうと苦労したのに比して、クレーの絵は、2次元であるのに3次元に見えることに成功しているように思えるからだ。
たとえば、クレー独特の曲線がいくつも描かれていて、その間をいろいろな色がさまよい、跳躍しているような作品。その躍動性が現代の3Dではないが、どこか立体を感じさせるのだ。そして近代以降の絵画は著名作品は油彩が圧倒的に多いが、クレーは水彩画を多く残し、あるいは糊絵具なども多用しているのも面白い。さきに掲げた熱転写は、スケッチを線画の部分だけ油彩で転写し、色彩は水彩で描くことにより、よりスケッチに忠実なカラー版が誕生できたのだ。コピー機のない時代、版画ではなく、彩色画にこだわったクレーが編み出した技法は、その制作過程を知る貴重な方法論となり、また、クレーの興味を跡付けることができる。
抽象画とまみえるクレーの諸作品も制作過程と技法を知れば知るほど、その具象性を感じ取ることができ、クレー作品独特の楽しさや、優しさと言ったらいいだろうか、その音楽性に触れることがますます可能になった。バイオリンの名手であったクレーの才能は、2次元に止まらず、空気をも超越、変えていたのだ。線や幾何学を多用するその作品群が妙に「人間的」に感じられた新しいクレーの発見である。
(花ひらいて)
今回の展示の意図を主催者は「クレー作品が物理的にどのようにつくられたか」を観点とすると宣言する。制作プロセスでの分類、クレー自ら「特別クラス」と名付けた作品群を6つのセクションで構成し、それぞれ油彩転写、切断・再構成、切断・分離、両面などとクレーの使い分けた技法によって作品を分類、展示する試みはその足跡をたどるうえでとても有効だ。というのは、クレーの絵はぱっと見たところとても単純、明快に見える。線画も多く、幾何学的な模様に終始しているように見える作品も多いが、そこに至る過程が実はとても複雑かつ綿密に計算されていることがよく分かるからだ。クレーは通常、20世紀美術の中でシュルレアリズムに分類、紹介されることが多いが、中でもキュビズムとの近接も語られる。しかし、ピカソやブラックなどのキュビズムがどこか、3次元たる立体(キューブ)をなんとかして絵画世界である2次元で表わそうと苦労したのに比して、クレーの絵は、2次元であるのに3次元に見えることに成功しているように思えるからだ。
たとえば、クレー独特の曲線がいくつも描かれていて、その間をいろいろな色がさまよい、跳躍しているような作品。その躍動性が現代の3Dではないが、どこか立体を感じさせるのだ。そして近代以降の絵画は著名作品は油彩が圧倒的に多いが、クレーは水彩画を多く残し、あるいは糊絵具なども多用しているのも面白い。さきに掲げた熱転写は、スケッチを線画の部分だけ油彩で転写し、色彩は水彩で描くことにより、よりスケッチに忠実なカラー版が誕生できたのだ。コピー機のない時代、版画ではなく、彩色画にこだわったクレーが編み出した技法は、その制作過程を知る貴重な方法論となり、また、クレーの興味を跡付けることができる。
抽象画とまみえるクレーの諸作品も制作過程と技法を知れば知るほど、その具象性を感じ取ることができ、クレー作品独特の楽しさや、優しさと言ったらいいだろうか、その音楽性に触れることがますます可能になった。バイオリンの名手であったクレーの才能は、2次元に止まらず、空気をも超越、変えていたのだ。線や幾何学を多用するその作品群が妙に「人間的」に感じられた新しいクレーの発見である。
(花ひらいて)