先日、高遠菜穂子さん(2004年にイラクでボランティア活動中に武装勢力に拉致され、猛烈な「自己責任」バッシングを受けた。同じく拉致された今井紀明さんとともに、その後を描いた作品「ファルージャ」については、http://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/e5e3dade79e798c4de5c1f08b57b0532参照)のお話を聞く機会があった。つい最近、高遠さんが現在もイラク市民支援の拠点としていてファルージャが、IS(イスラム国)からイラク政府軍が奪還したと報道があったばかりだが、この2年間ファルージャには入れていないという。高遠さんによれば、イラクのシーア派政権が「スンニ派狩り」として残虐非道の限りをつくしているという。政権は、IS討伐のためとファルージャの街を兵糧攻めにする、ISと関係のなかったスンニ派市民が、政権軍への対抗のためISに参加する。魔の連鎖である。
高遠さんは、スンニ派狩りのひどさや空爆の実態を映像など示して説明する。スンニ派の宗教指導者が突然連れ去られ、目玉をくりぬかれ、内臓を取り出された後胸や腹を縫い付けられた死体で発見される。病院が破壊され、医療スタッフも、器具も薬剤も圧倒的に足りないなか、瀕死の人たちが横たわる。
イラク戦争の時、米軍が劣化ウラン弾を使用したため市民に重篤な後遺症が出ているのは有名だが、同時に、「照明弾であって殺りく兵器ではない」と説明され大量に使用された白リン弾。その白リン弾によって黒焦げになった遺体や全身やけどを負った市民の姿も。
高遠さんが言いたかったのは、米軍(アメリカ)やそれに追随した日本の自衛隊、フセイン政権後のイラク政権やISを告発することではない。戦争の実相と、それを伝え、知ることの大切さだ。日本では高遠さんのときは自己責任バッシング、後藤健二さんと湯川遥菜さんが拉致・殺害されたときにも日本政府は有効な手立てを打てず、また、日本人が拉致されたときだけ中東情勢を大きく報じるだけ。普段、戦火に逃げ惑い、難渋の生活を強いられている人々を報道することない、日本の無関心、内向き志向こそ問題だとするのである。
「高校生の集まりに呼ばれた時には、英語が身につく方法知ってる? みんなが持ってるスマホのアプリに、世界のニュース報道を入れて、聞いていれば英語力が身につくし、世界に触れてるってかっこいいでしょ」「今日の集まりのような年配の人が多い会では、お孫さんにスマホで英語を聞いてるって教えてあげてください。孫に「えっ! おじいちゃん英語分かるの?」って言われたら「まあね」」と笑いを取りながら、世界に触れることの大事さを、今後自衛隊が海外に派兵され、殺し、殺される状況が来た時の覚悟と冷静な現状認識を持つためにも大事であると。「海外派兵後の覚悟」「現状認識」が今般の「安保法制議論に徹底的に欠けている」と、柳澤協二さんや伊勢崎賢治さんらも重ねて指摘しているところだ。
世界報道写真展では、世界で起こっていること、あることを写真という言わば「静止画像」で切り取って見せているが、そこには圧倒的な物語がある。その1枚によって、写っている人々、写っていない人々への想像力を掻き立て、暴力や民主主義、ときに小さな愛さえにも思いを馳せさせる。
今回、社会部門などで、シリア内戦とシリアやアフリカからのヨーロッパ難民を取り上げたものが多かった。それほど、世界をゆるがしている出来事に冷淡に無関心にさえ見えるこの国の報道。報道の自由度が世界で72位とされたこの国の中央誌を飾るのはアイドルグループの解散劇であるとか、不倫とか。恥ずかしい。(シリア内戦で傷つく子どもや、子の亡骸を抱き悲嘆にくれる父親(右上))
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