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化学構造分析を実現する質量分析装置を開発

2024-02-22 10:31:57 | 化学
有機化学者にとって、合成した化合物が正しいかどうかを調べる分析は重要な仕事となっています。

実際の化学反応よりも、この化学構造分析の方が時間がかかることさえあります。私は現場から離れて20年となりますが、その間も分析機器の進歩は目覚ましいものがありました。

研究室でもこの分析を中心に行う、分析研究室というグループがありました。この最新の機器分析の性能を見ていくと、昔は何日もかかっていた構造解析はAIでできるようになるのではないかと思っています。

有機化学の中に天然物有機化学という分野がありますが、これは植物や微生物から見つけた新規化合物の構造を決定するために、合成して同じものを作ってしまうという分野です。それだけ正しい構造を分析するという事は、難しい作業となっていました。

最近島津製作所は、脂質や天然化合物の詳細な構造分析を実現する、四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」の販売を開始しました。

同社の質量分析研究所で研究開発に10年かけ、従来の方法であるイオン解離法(CID)とは異なる、世界で初めて酸素付着解離(OAD)技術を使った製品化に成功したとしています。

同システムは独自のOADと呼ばれるイオン解離技術を搭載することで、脂質や天然物などあらゆる化合物の構造解明を可能にしました。私が現役のころに出た、この前のTOF-システム質量分析計でも非常に感激した記憶があります。

これは化合物の分子量を計算する機器ですが、TOFを入れることによって分子量だけでなく示性式(炭素や水素、酸素、窒素などの比率)まで出るようになったのです。

今回のOADの詳細はあまりに専門的になりますので省略しますが、分子中に含まれる部分構造まで出るようになりました。有機合成反応の場合、目的とする化合物ができたかどうかは、この質量分析計を測定するだけで十分となりそうな気がします。

従来は主に4種の機器分析結果を総合して判断していましたので、非常に楽に構造決定ができることになります。ただしこういった構造解析は職人的な技術が必要でしたが、そういった技術を学ぶ場がなくなってしまうのかもしれません。

前述のようにこの構造解析・分析がAIによってできるようになるならば、その技術自身不要なものになるのかもしれません。それはやや寂しい気がしますが、今回のODA-TOFシステムはそういった自動分析の先駆けとなるような気もしています。

これは私の専門に直結していますので紹介しましたが、有機化学が分からないと分かり難い文章になっているかもしれません。