ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
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アルツハイマー病のもとである「アミロイドβ」の除去

2023-12-31 10:32:28 | 健康・医療
このブログでもアルツハイマー病をよく取り上げますが、私が76歳と発症する可能性が出てきたからかもしれません。

2021年にアメリカで画期的な新薬が承認されましたが、非常に高価である点や飲むことが出来ないといった問題点があります。超高齢化社会を迎えて、認知症の予防や治療は存続可能な社会を維持するために重要な課題です。

今や高齢者の7人に1人は認知症であると推計されています(2018年厚生労働省)。認知症の多くは神経変性疾患と言って、神経細胞の中や外に老廃物が溜まって神経細胞が死んでいくために起こります。

アルツハイマー型認知症では、アミロイドβというタンパク質の一種が重合して蓄積します。これが原因であれば、アミロイドβを除いてやれば、認知症は改善するでしょう。

1999年、アメリカのグループが、アミロイドβが蓄積しやすいマウスモデルを用いて、アミロイドβをワクチンとして投与するという実験を行いました。その結果、マウスの体内でアミロイドβに対する抗体がつくられ、脳の中にたまったアミロイドβを取り除くことができたことを報告しました。

これのヒトでの臨床試験を行いましたが、ワクチン接種を受けた患者の数パーセントで、脳を覆っている髄膜に炎症が起こる重大な副作用が見られたため、臨床試験は中止になりました。そこでアミロイドβに対するモノクローナル抗体を体内に投与する方法が試されました。

かなり失敗が続きましたがようやく2021年に前述の新薬が開発されました。アミロイドβは、元になる大きなタンパク質が分解酵素によって切断されて生じます。この時アルツハイマー病の脳では、切断末端がピログルタミル化という修飾を受けます。

これが凝集の核となると考えられており、これに結合する抗体も開発されています。加齢とともにアミロイドβが沈着するのは、アミロイドβの発現が年齢とともに上がっていくこともありますが、アミロイドβを除去する機能が衰える可能性が指摘されています。

アミロイドβを除去するのはミクログリアです。ミクログリアが持つアミロイドβ受容体としてTREM2が知られています。TREM2に異常があると、アミロイドβを除去できずアルツハイマー病を発症しやすくなります。

このようにアミロイドβを除去するメカニズムはいろいろ分かっており、これを助ける薬剤の開発も進んでいるようです。しかしどうしても抗体医薬の方向に向いてしまい、高価で投与しにくいという問題は残ってしまうようです。

それでも高齢マウスで脳の若返りを起こすなど、進展していますので、認知症予防も夢ではなくなるのかもしれません。

2023年の科学界の重大ニュース

2023-12-30 10:34:35 | 時事
今年は新型コロナは5類となり落ち着いてきたものの、ロシアのウクライナ侵攻は続いており、新たにイスラエルでハマスとの戦争が勃発しました。

世界的にはこういった暗いニュースがありますが、新聞に出ていた2023年の科学の分野における重大ニュースを紹介します。

まず「〇生成AIが席巻」というニュースです。今年一番のトピックは、生成AIとして米企業が公開した「チャットGPT」でしょう。瞬く間に世界中で多くの利用者を獲得し、一大ブームを巻き起こしました。

私もさっそくこれを取り入れ、このブログにも「俳句」を読むことができないことを書いています。言語処理能力が格段に向上し、まるで人が話しているかのような流暢な言葉を操るようになったことで、ビジネスだけでなく教育や行政サービスなどにも活用が広がりました。

一方で懸念も高まり、世界の名だたるAI研究者や業界トップが連名で5月に出した声明では、AIには核戦争や感染症のパンデミックなどと同等の「人類の絶滅のリスク」があると警鐘を鳴らしました。

誤情報の生成・拡散など人々を間違った方向に導きかねないリスクをはらみながら、今後ますますAIが社会に浸透していくのは確かなような気がします。

次が「〇コンピューター国産機元年」の話題です。国内ではAIと並ぶ次世代技術として期待される量子コンピューターの国産機が相次いでお目見えしました。理化学研究所は3月に超電導方式の量子コンピューター初号機の利用を開始し、愛称は公募の結果「叡」に決まりました。

その後富士通が10月に2号機、大阪大学が12月に3号機の利用をはじめ、さながら「国産機元年」となりました。スーパーコンピューターをはるかにしのぐ計算能力が期待され、世界で開発競争が激化しています。しかし実用化にはまだまだ越えなければならない技術的な壁があるようです。

3番目が「〇ロケット開発の暗雲」です。宇宙関連では14年ぶりとなる宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新たな宇宙飛行士候補が誕生しました。過去最多の応募者4127人から2人が選出されました。

2人は米国が主導する国際月探査「アルテミス計画」で日本人初の月面活動を目指します。ロケット開発にとっては厳しい1年で、3月には新開発主力ロケット「H3」初号機が失敗しました。

2段目にエンジンに着火しないまま、発射から13分55秒後地上からしれ破壊の信号が送られました。基幹ロケットの失敗で、日本の技術開発への信頼が大きく揺らぎました。

この新聞ではその他、〇なるか月面着陸や〇科学を取り巻くお金問題があげられています。科学で「医療」関連が出てこないのは残念ですが、それなりの進展があった1年といえそうです。

タバコに「ハームリダクション」という解決法

2023-12-29 10:31:12 | 煙草
私は喫煙者ですが、数年前から加熱式タバコを吸っています。これは加熱式に代えたことによって、よく出ていた咳が完全に無くなったことに因ります。

このようなタバコの「ハームリダクション」(害や危害の低減)について、やっと取り上げる記事が出るようになりました。ハームリダクションという言葉はあまり一般的ではありませんが、例えば衝突時の外傷を軽減するシートベルトもそのひとつとされています。

タバコに関しては、禁煙信奉者の意見がほとんどでしたので、害を減らすのは禁煙から離れるということで取り上げられることはありませんでした。どんなタバコ製品も、排出物を吸い込んで体内に取り入れるため、ニコチンを含んだ排出物を摂取せざるを得ません。

フィルターを付けたり低タール低ニコチンにしても、また加熱式タバコや電子タバコにせよ、これらの排出物を吸い込みます。タバコ会社は、タバコ製品がいかに安全かということを喫煙者に訴求し、喫煙を続けていけるかに向けられてきました。

そんな戦略のひとつが、タバコの「ハームリダクション」です。この定義としては、ニコチンを含んだタバコを吸うことを完全になくすのではなく、その害を少なくしてタバコによる死亡や病気などの健康被害を減少させることとしています。

タバコ会社はフィルターを付けたり低タール低ニコチンタバコを出したりしてきましたが、科学的な研究でどれも健康被害の低減にはつながっていないことが分かっています。このハームリダクションには以下の条件を満足する必要があるようです。

1.代替タバコ製品そのものの健康リスクが、従来型タバコ製品(紙巻きタバコ)よりも低い事、2.代替タバコ製品の使用により、従来型を完全にやめることができること、3.代替タバコ製品によって新たな公衆衛生上の懸念が生じない、あるいはその懸念が小さい事、4.保健当局がたばこ産業から独立してタバコ規制ができること、としています。

ここでは加熱式タバコがこの条件を満足しているかを検討してみます。健康リスクの低減については、タバコ会社は加熱式タバコの有害性が低くなっていると宣伝していますが、これまでの研究では紙巻きタバコよりむしろ多く出ている有害成分があることが分かっているようです。

しかし私にとっては、前述のように咳が完全に止まりましたので、健康リスクは減っているといえそうです。次の項目も私は完全に切り替えていますが、禁煙補助手段とは考えられないとしています。

第3,4項目については、個人で評価できることではありませんので割愛しますが、加熱式タバコは、ハームリダクションに大いに貢献している気がします。

エクソシストの悪魔憑きと脳の自己免疫疾患

2023-12-28 10:36:37 | 健康・医療
私はホラー映画が好きでよく見ていましたが、あくまでテレビ放映であまり映画館まで行ったことはありません。

この代表作である「エクソシスト」の主人公のモデルが、脳の自己免疫疾患であったという説が出ていました。いわゆる「悪魔憑き」の行動が「抗NMDA受容体脳炎」という病気であったという仮説です。

NMDA受容体は、正確には「N-メチル‐D-アスパラギン酸(NMDA)型グルタミン酸受容体」となっています。脳の神経細胞に発現している受容体で、それに対する自己抗体ができることで引き起こされる病気です。

なぜこのような神経細胞の受容体に特異的な抗体ができるのかは、正確には分かっていません。この病気は若い女性に多く、また卵巣の奇形腫を伴う例が多いことが知られており、傍腫瘍性辺縁系脳炎とも呼ばれます。

奇形腫や腫瘍ができたときに抗体がつくられ、その中にNMDA受容体に対する抗体があった場合、その抗体が受容体の働きを抑制します。神経伝達が阻害されて脳が正常に機能しなくなり、統合失調症のような症状を示すと考えられています。

300万人に1人の難病ですが、日本でも年間1000人程度が発症しているのではないかと言われています。原因不明の神経疾患と思われていた難病が、実は免疫疾患であるのがナルコレプシーです。これは古くから知られていた奇病のひとつで、日中に突然強い眠気が出現して、眠り込んでしまう病気です。

試験中や仕事の打ち合わせ中にも眠り込んでしまうので、怠け者と捉えられることもありとても厄介な病気です。日本人のナルコレプシーの有病率は世界で最も高く、600人に1人とみられています。

ナルコレプシーは、脳で作用するオレキシンというペプチドを産生する神経細胞が働かなくなることによって起こります。発症年齢は10代から20代前半と、若い人たちに多いのが特徴です。

神経細胞を傷害する自己反応性T細胞の一部は、オレキシン以外にもインフルエンザウイルスに由来するタンパク質のペプチドも認識することが示されています。

つまりウイルス感染によって増殖したT細胞が、よく似ているオレキシンにも反応してオレキシンニューロンを傷害しているのではないかと考えられています。感染を発端とする自己免疫疾患は、他にも多発性硬化症などで指摘されています。

このように従来奇妙な行動などで、精神疾患と考えられていたものが、実は自己免疫疾患であるという例はこれからも出てくるのかもしれません。自己免疫疾患であれば対処の方法も色々あるようですので、これからは正確な診断が重要となるのかもしれません。

急増する働き盛りの帯状疱疹

2023-12-27 10:36:28 | 健康・医療
「帯状疱疹」はこのブログでも取り上げていますが、私は発症したことはないのですが何となく身近な病気のような気がしています。

亡くなった母はその数年前にかなり酷い症状になりましたが、全く痛みを訴えないというある意味楽な症状でした。その後かみさんが肩にポチポチでき、皮膚科で帯状疱疹と診断されましたが、それほど痛みも出ずすぐに治りましたので誤診のような気がしています。

帯状疱疹はストレスや免疫力の低下により50代以上で発症する人が多いのですが、ここ数年は20〜40代の患者が増えているようです。帯状疱疹の原因は、水ぼうそうを起こす水痘・帯状疱疹ウイルスで、水ぼうそうが治った後もウイルスは体内特に神経節に潜伏しています。

数十年後に免疫が衰えたりするとこのウイルスが活性化し、上半身や顔に帯状の赤い発疹や水ぶくれ、刺すような痛みが出ます。80代までに3人に1人が発症するといわれています。

国内では1997年から宮崎県内の患者を対象にした大規模疫学調査「宮崎スタディ」が行われています。担当する千里金蘭大学によると、調査開始以降すべての世代で発症する人が増えており、1997年から2020年の間に発症率は1.8倍に増えています。

最近では20〜40代での増加が目立っており、2013年までは1.2倍程度の増加で推移してきたのが、2014年には1.3倍、2020年は2.1倍と急激に増えています。背景には、こどもへの水痘ワクチンが2014年に定期接種となったことがあります。

このワクチンの効果で、水ぼうそうに感染する子供が激減しました。子育て世代である20〜40代が、こどものウイルスを介して免疫が活性化される「ブースター効果」が得られなくなったことが関係しているようです。

ただ子供が水ぼうそうに感染しなければ潜伏するウイルスもなくなるため、将来帯状疱疹を発症する人も激減する可能性があります。1995年に水痘ワクチンが定期接種になったアメリカでは、帯状疱疹が減ったという報告があります。

このように20〜40代で帯状疱疹患者が増加していますが、50代以上に比べれば、痛みが3か月以上続く合併症が残るのはまれなようです。

この帯状疱疹の場合は、単なる虫刺されと違って、患部の周りに違和感や痛みが出るようですので、違和感などを感じる場合はすぐに皮膚科に行った方が良いようです。

それでも免疫の低下によって起きるとされる帯状疱疹が働き盛りの世代に増加するというのは、若干気持ち悪い感じもあります。