ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

冬眠中のハムスターの爪は伸びなくても綺麗

2024-07-03 10:37:55 | 自然
このブログでもギターの話は時々書いていますが、学生時代から始めたクラシックギターを今でもたまに弾いています。

このための爪の手入れをかなりやっていました。左手は弦を抑えるためギリギリまで短くし、右手は良い音を出すために少し長めになっています。これを長年続けていたため、現在でも右手と左手の爪の長さが少し異なっています。

さて爪の話ですが、北海道大学などの研究グループが、冬眠中のシリアンハムスターは爪の伸びが止まる一方、爪自体に異常は生じず綺麗に保たれていることを発見しました。哺乳類の爪は根元にある幹細胞が分裂と分化を繰り返すことで伸びていきます。

冬眠の極端な体温変化では細胞分裂が停止するにもかかわらず組織構造を維持する仕組みを調べることで、ヒトの爪の健康にもつながる知見が得られる可能性があるようです。哺乳類の爪は、病期や栄養不足といった過度のストレスがかかると変色や変形が起きることが多いようです。

冬眠をする小動物は、体温が外気温近くに下がります。研究グループは、この低体温というストレス下で、爪に何か変化が起こるかどうかを調べることにしました。

シリアンハムスターの飼育環境を気温23〜25度、光で昼の時間を長くして夏を模した条件から、気温5度、夜が長い冬のような条件に切り替え、冬眠を促しました。

実際に冬眠したハムスターと冬眠しなかったハムスター共に爪の根元に青い色で線を引き、一定時間後にまた線を引いてどれだけ爪が伸びたかを計測しました。その結果、冬眠していないシリアンハムスターの爪は1日当たり約70マイクロメートル伸びていたが、冬眠中だと10マイクロしか伸びませんでした。

爪の幹細胞集団の分裂能力を表わす指標を調べると、冬眠のハムスターでは細胞分裂する細胞数が減少していました。またシリアンハムスターでは、何日かおきに冬眠中に体温が上がって餌を食べるなどの活動をする中途覚醒が起きるが、中途覚醒時には爪が伸びることも分かりました。

冬眠中に爪の幹細胞の分裂が止まって爪が伸びなくなると、横縞が入ったり、爪の一部がへこんだりする異常が起きる可能性がありますが、ハムスターの爪に異常はなく、冬眠後も冬眠中と同様に伸びるようになっていました。

理由は不明ですが、中途覚醒の際の活動時に爪が正常に維持されているのは利点がありそうだとしています。

どうもこの研究の意義が分かりませんが、自然の動物にとっては爪はかなり重要な部位なのかもしれません。

競争に負けるミジンコは休眠卵で生き残る

2024-06-26 10:31:20 | 自然
動物性プランクトンであるミジンコは面白い生き残り戦略を持っているようです。

東北大学などの研究グループが、異なるミジンコが共存している場合、飼育下では負けて絶滅する側の集団が、休眠卵を早めに産むことで長期に生き残る戦略をとっていることを明らかにしました。

9年にわたる観測で休眠卵が不適な環境を乗り越えるだけでなく、競争による絶滅の回避や共存にも重要であることが分りました。ミジンコ類は湖沼に生息する代表的な動物プランクトンで、日本にいるミジンコは北米大陸からの侵入種です。

オスとメスが交尾して子供ができることはなく、単為生殖によってクローンを生産し続けます。水温20度下では約3日のペースで全く同じ遺伝子を持つ卵を育房に産み、脱皮時にクローンである子供が外に出ます。

子供は約1週間で成熟して卵を産むようになります。温度が低く餌となる植物プランクトンが取れない冬は、体外に産み出した乾燥にも耐えることができる休眠卵が湖沼の底に沈んだまま春を待ちます。

東北大学の研究グループは、山形県にある広さ約19ヘクタール、最深部約8メートルの畑谷大沼に、見た目や住む場所、食べる餌はほぼ同じだが遺伝子型は異なるミジンコ2集団(JPN1とJPN2)がいることに気づきました。

研究グループは2009年から2018年まで1カ月に1度調査に通い、2集団の個体数を記録しました。調査時にはミジンコを捕まえて1匹ごとにDNAを取り出して遺伝子配列を読み取り、JNP1かJNP2を特定しました。

それぞれの個体密度と割合を求めると、おおむねJNP1の方がJNP2より多くなっていました。室内で水層に同じ数のJNP1とJNP2を入れて育てる実験をすると、JNP1が競争に勝って数を増やし、JNP2は絶滅することから2集団ではJNP1が競争優位集団でJNP2は劣位集団となります。

室内飼育だとJNP2は絶滅しますが、野外では毎年生き残っています。これは休眠卵の数自体が多いためではないかと考え、湖底にある休眠卵を数えると差はありませんでした。

個体数はJNP2の方が少ないのにもかかわらず、休眠卵数に差がないのは、JNP2の個体あたりの休眠卵数が多いことを示しています。

JNP1とJNP2をべつべつの水槽に入れて高密度で飼育してから、この飼育水を用意して実験を行うと、JNP1を高密度で育てた飼育水に入れられたJNP2は即座に休眠卵を産み始めました。一方JNP1では同様の環境で休眠卵の増加はみられませんでした。

野外観察と室内実験の結果から、競争では劣位なJNP2集団が優位なJNP1集団と長期にわたって共存しているのは、JNP2が競争者の増加を察知し、排除される前に休眠卵を産むことで翌年以後の個体群を形成できるからだと分かりました。

この休眠卵を用いた自然の生き残り戦略は、なかなか優れたものと感じました。 

ヒトiPS細胞から卵子と精子のもとを作製

2024-06-16 10:32:12 | 自然
ヒトの命の誕生を巡る研究が、基礎研究から生殖医療研究に向けてさらに踏み出しました。

京都大学の研究グループが、ヒトのiPS細胞を利用して卵子と精子のもとになる生殖細胞を大量に作製することに成功したと発表しました。このニュースは色々なメディアで取り上げられていますが、iPS細胞の性質から見るとそれほど難しいことではないような気がします。

ただしヒトの卵子や精子を実際につくって生殖に使う段階までには、技術的、倫理的に重要な課題が多くあり、生殖医療応用までにはまだ距離があるようです。現在iPS細胞を使った受精卵操作は国の指針で禁止されています。

iPS細胞は皮膚や血液などの体細胞に人工的に遺伝子を導入するなどして、さまざまな細胞に変化できる能力を持たせた細胞です。iPS細胞はケガや病気などで失われるなどした組織や臓器を修復する、再生医療に応用されて注目されてきました。

研究グループによると、卵子や精子はできる前にまずそれらのもとになる「始原生殖細胞」が受精2週間ごろにでき、6〜10週後に胎児の中の精巣や卵巣で精子の手前の「前精原細胞」と卵子の手前の「卵原細胞」に分化します。

研究グループは、2012年にマウスのiPS細胞を利用して卵子を作り、通常の精子と体外受精させてマウスを誕生させることに成功しています。その後2015年にはヒトiPS細胞に薬剤などを加えて「初期中胚葉細胞」と呼ばれる細胞を作製しました。

さらにこの細胞にある種のタンパク質を作用させて始原生殖細胞を高い効率で作ることに成功し発表しました。卵原細胞もヒトのiPS細胞から作ることに成功しましたが、できた卵原細胞は少ないものでした。

研究グループは今回、ヒトiPS細胞から始原生殖細胞に似た細胞を独自の方法で作製しました。ヒトの体内にあって骨形成にも関わるとされるタンパク質の一種をこの人の細胞に投与して培養しました。その結果約2か月で卵原細胞と前精原細胞を作り出すことに成功しました。

さらに染色体数を安定させ続けるなどの条件下で約4か月培養を続けると細胞数は100億倍に増えたとしています。今回の研究成果で、大量に前精原細胞や卵原細胞を作製できる手法が確立しました。

大量にできることで実験が飛躍的にしやすくなり、生殖細胞研究が進展すると期待されています。研究グループは卵原細胞などの形成過程で、エピゲノムリプログラミングも再現できたとし、今回の一連の研究により「ヒト生殖細胞の発生機構を解明できた」としています。

脳は「老化」ではなくむしろ「成熟」している

2024-06-11 10:36:51 | 自然
最近はヒトの名前が本当に出なくなり、顔を思い出すのですが名前は出ないことが多くなりました。年齢を重ねるにつれて人間の脳は老いていくと考えて、脳の老化と向きあっています。

しかし年齢とともに脳は「成熟」していき、若いころよりも的確な判断が下せるだけでなく、人生をより充実したものとして楽しめるという説もあります。

また将来技術的には、脳と外付けのメモリをつないでおくことで、必要に応じて過去の記憶を引き出して読み込むことが可能になるでしょう。そうなればもうもの忘れで悩むことはなくなるはずです。

しかし技術の力を借りて脳の機能を維持することで失われるものもありそうで、自然に年齢を重ねて成熟していく脳にこそ魅力があると考えることもできそうです。たしかに高齢者は、レスポンスが遅くなることがあります。

たとえば様々な写真を見せて、写っているものが食べられるかどうか即座に判断する実験を行うと、子供は反応が速い一方で、年配の方は答えるのに時間がかかります。しかし判断を下すまでの時間は長くなっても、決して判断力そのものが衰えているわけではありません。

実験中に高齢者の脳を調べてみると、さまざまなことを考えていると分かったのです。長年にわたって取捨選択してきた有用な知識や経験に基づいて、より正確でニュアンスに富んだ判断を下そうとしているのでしょう。

また記憶力が衰えていくことも、人間らしい生活を支える重要な要素になっているのです。ゲノム編集をで脳の機能を強化して、一度覚えたことを忘れない「天才ネズミ」を作った研究があります。

記憶力が抜群だと、1年前の出来事も昨日のことと同じくらい鮮明に覚えてしまいます。そのためどちらが古い記憶なのか、さらにどれが進行中の現実なのかすら分からなくなるのです。実験中餌場の位置を変えてみると、天才ネズミはすぐに新しい場所を覚えます。

しかしかつての餌場の位置も忘れることができないため、脳内でのアップデートが起こらず、新旧2つの餌場に向かい続けてしまいました。この例はやや極端ではあるものの、忘れるという脳の特性には重要な意味があります。

過去の楽しい体験の記憶が薄れていくからこそ、今目の前にある現実を新鮮にクリアに鮮烈に楽しむことができ、今を存分に味わえるのです。少しずつ記憶が色あせていき、昔の出来事がきちんと過去になるからこそ、新しい楽しみを見つける意欲や活力が湧いてくるのでしょう。

今が楽しいのは忘れられるおかげとポジティブにとらえることが、成熟した脳と上手に付き合っていく秘訣といえそうです。


生命の初期段階の細胞分裂を動画で可視化

2024-06-06 10:37:54 | 自然
私は高校時代生物部に所属しており、近くの海辺まで採集に行きウニの卵などの分裂を顕微鏡でみたりしていた懐かしい思い出があります。

沖縄科学技術大学のグループは、脊椎動物の生命の初期段階である胚細胞で起こる細胞分裂を、メダカの受精卵を一定間隔で写真撮影しコマ送り動画にした「タイムラプス」で観察することに成功しました。

これまで難しかった生きたまま胚形成中の細胞を追跡できる手法を確立しました。細胞分化が比較的進んでから起こる体細胞分裂とは違う仕組みであることが分りました。細胞分裂は、皮膚細胞や筋肉細胞のような特殊な機能を持つ体細胞での研究が進んでいます。

細胞分裂装置となる紡錘体の中心的役割を担う細胞小器官で2個ある「中心体」それぞれからタンパク質線維が集まってできた紡錘糸が伸びて細胞の真ん中で染色体にくっつき、分裂の際に生じる娘細胞に染色体を均等に分配します。

その様子を描いたイラストは高校の教科書などに載っています。メスの生殖細胞に中心体はなく、これまでに「Ran-GTP」という分子が分裂に関わることが分っていました。

一方精子には中心体のもとが含まれており、受精した胚細胞は中心体とRan-GTPが存在する状態で細胞分裂を行うことになります。両分子がある状況で短期間に胚細胞が倍々に分裂していく仕組みは、体細胞とは異なるのではないかとグループは考えました。

胚細胞の分裂を観察する例としてはカエルの胚発生があるが、細胞に色が付いていて内部が見えず、分裂の段階ごとに薬品を加えて固定するため死滅した細胞を見ていくという難点があります。

そこでグループは細胞を生きたまま観察する方法を模索し、材料として透明な胚細胞を持つ魚類の中から、ミナミメダカに目を付けました。

ミナミメダカは染色体と分裂に関わるタンパク質線維を光らせる蛍光タンパク質を入れるゲノム編集を行うのにも適した比較的小さなゲノムサイズを持ちます。生存できる温度範囲も広く、室温で長時間生きたままの細胞を観察できます。

こうした点からゲノム編集技術を使って遺伝子組み換えメダカを作成し、その胚細胞の分裂の仕組みを観察しました。

タイムラプス撮影の動画を確認すると、体細胞分裂でみられるのと同様に中心体から糸のようにタンパク質線維が伸びるのに加え、細胞の中心に染色体が並んだ付近からも線維が伸びていました。

この現象には染色体の周囲で生成されているRan-GTPが関わっていることが分りました。この研究は専門的であり私もよく理解できない部分もありますが、やはり生命の初期段階はまだまだ分からないことが多いと言えそうです。