ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

植物が「アンチエイジング物質」を豊富に持つ理由

2022-07-31 10:27:03 | 化学
植物の中でヒトに対する生理活性物質(薬や毒など)を持つもの非常に多く存在します。

割と身近な植物でもキョウチクトウやスズラン、水仙といったものには、かなり強い毒性成分が入っています。私の勤務していた研究所もこういった自然の化合物のなかで、有用なものはないかを探索していました。

なぜ植物や微生物はこういった化合物を作り出しているのかは、多分これからも謎のまま残りそうです。最近話題になっている「アンチエイジング物質」もほとんどが植物由来ですが、なぜ植物はこのような物質を作るのか面白い説が出ていました。

化粧品やサプリメントに含まれるアンチエイジング物質というと、ポリフェノールのような抗酸化物質とビタミンなどが主流となっています。抗酸化物資にはビタミンCやEなど、ポリフェノールやアントシアニン、カロテノイドといった物質が思い浮かびますが、全て植物由来です。

これには植物の壮絶な戦いが関与しているとしています。植物に感染する病原体は非常に多いのですが、植物は動くことができませんので病原菌が多い環境でも逃げることはできません。

そこで植物病原菌の襲撃を察知すると、植物は活性酸素を大量に発生させます。活性酸素はあらゆるものを錆びつかせてしまう毒性物質で、植物は攻撃力の高い武器となります。活性酸素は攻撃するだけではなく、緊急事態を他の細胞にも伝えていく合図の役割も持っています。

病原菌に攻撃された植物は、活性酸素で防御するだけではなく、最後の手段として「自死」を選択します。病原菌の多くは生きた細胞の中でしか生存できず、細胞が死んでしまえば病原菌も死に絶えるわけです。

感染された細胞は自らの命と引き換えに植物体を守る、この現象をアポトーシスと呼んでいます。実際には病原菌の侵入を受けた細胞ばかりでなく、周辺の健全な細胞もアポトーシスを起こし、病原菌の広がりを食い止めているのです。

ところがこれで終わりではなく、植物が戦いに使用した大量の活性酸素が残されています。そこで登場するのがポリフェノールやビタミン類などの植物が持つ抗酸化物質となるわけです。

動物は過ごしやすい環境を選んで移動することができるため、植物程活性酸素の出現が少ないようです。このように植物が置かれた環境で身を守るために活性酸を発生させ、その後それを分解するために抗酸化剤を大量に生産しているというはなしは、何となく納得のいくものです。

これ以外にも植物は前述のように、非常に多岐にわたる化学物質を生産しています。こういった物質は動物にどんな作用があるかだけを調べていますが、植物にとってどんな役割があるのかを研究すれば、こういった物質生産の理由が分かるのかもしれません。

日本の高齢者医療が抱える不思議な問題

2022-07-30 10:35:09 | 健康・医療
私は一昨年「75歳、医療からの卒業」という本を出しましたが、この主旨は高齢者になり病気が見つかっても、治療する身体の負担など考えれば何もしなくても寿命はそれほど変わらないだろうというものです。

今回これに近いかさらに踏み出したような記事を見ました。これは高齢者医療の専門家の話ですが、高齢者は「病院に行かない方が死なない」とまで断言しています。

現在の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳と女性の方が6年長くなっています。何となくそんなもんだと思っていましたが、筆者はこの差と健康診断を絡めて議論しています。この差の原因のひとつに、日本人の「健康診断信仰」があるとしています。

定期の健康診断の多くは企業で実施されており、一昔前までは検診を受ける割合は男性が圧倒的に多いという状況でした。検診が長生きに寄与するなら、男女の寿命は逆転しているはずがむしろ差が広がっており、健診が意味をなしていなといえます。

検診で示される「正常値」が本当に正常なのかは疑ってみる必要があり、正常値は一人ひとり違うと考えるべきです。また多くの医師は検査の数字は見ますが、患者は見ていないとしています。目の前の患者の身体に起きていることよりも、定められた数字を重視しているわけです。

数値を正常にするために薬を服用し、身体の調子を落とす人や残っている能力を失ってしまう人、寿命を縮めてしまう人がいるのです。

ここでは病院に行かない方が死なないという例として、北海道夕張市を挙げています。夕張市は住民の約半数が高齢者で、全国の市区の中で「高齢化率日本一」といわれており、市民にとって病院は命を守る生命線だと思われていました。

ところが2007年に夕張市は財政破綻をし唯一の市立総合病院が閉院してしまったのです。総合病院は小さな診療所になり、171床あったベッド数は19床に減らされ専門医もいなくなりました。

その結果はガン、心臓病、肺炎で亡くなる人は減り、高齢者1人当たりの医療費も減ったそうです。ベッドは空きが出るほどになり、死亡する人の数も以前とほぼ変わりませんでした。

3大疾病が減り全体の死亡者数は変わらないということは、「老衰」で亡くなる人が増加したようです。老衰が「天寿を全うした」ことになるかはやや疑問もありますが、病院で亡くなる人より自宅で亡くなる人が増えました。

80歳を過ぎた人は、体の中に「複数の病気の種」をかかえており、明らかな症状はなくても何らかの不調はあるはずです。ここでは「闘病」ではなく「共病」という言葉を使い、病気と闘うのではなく共に生きることを薦めています。

このあたり私の感覚と非常に近い意見として紹介してみました。

脳内の酸化的DNA損傷とアルツハイマー病との関連

2022-07-29 10:27:28 | 健康・医療
アルツハイマー病の発症原因はアミロイドβなどのタンパク質の蓄積という説が主流になっており、これを超えるようなものは出てきていません。

私の母は亡くなる前軽度の認知症になり、義父母はかなり重度で特に義父は若年性ともいえる年齢で発症し亡くなっています。認知症に遺伝性のものがあるというはなしは出ていませんが、若干気になるところです。

ボストンとブリガムの病院と大学の研究者たちが、脳内の酸化的DNA損傷によってアルツハイマー病が引き起こされる可能性について報告しています。

300以上の脳細胞の全ゲノム配列解析の結果、アルツハイマー病が主に影響を及ぼす海馬と前頭前野の2つの領域で、酸化的なDNA損傷が顕著であると判明しました。

ゲノムの広範囲な変異は、アルツハイマー病におけるタウタンパク質とアミロイドβの蓄積に対応して生じる活性酸化種への暴露の増加に関係しているとしています。酸化的DNA損傷は、外部と内部の両方からさまざまな形で生じます。

通常の細胞の代謝過程でも、活性酸素種の前駆体として知られるスーパーオキシド副生成物が生成されることがあります。低レベルでは活性酸素は細胞のシグナル伝達や恒常性の維持に関与していることが知られています。

しかしこれらの分子が細胞内に蓄積されると、DNAを不安定にするのはもちろん、細胞機能を破壊する可能性があります。細胞は活性酸素の影響を最小限にする方法を発達させてきましたが、これらのメカニズムは完全ではありません。

アルツハイマー病は活性酸素の産生の増加や、DNAとRNAの両方に対する酸化的損傷によって示される広範な酸化ストレスと関連しています。

この研究はアルツハイマー病の患者と非患者の死後脳試料から前頭前野と海馬に存在する個々の神経細胞の全ゲノム配列の決定を試みています。この結果特にDNAの変異は、グアニンヌクレオチドに影響を及ぼしていました。

活性酸素にさらされるとグアニンヌクレオチドは、8-オキソグアニンに変異する可能性があります。アルツハイマー病患者の神経細胞のDNAに、有意に高いレベルの8-オキソグアニンが検出されています。

こういった細胞が酸化的なダメージを受ける要因は、アルツハイマー病の発症中に脳内の炎症が増加し、脳細胞が大量の酸素活性種にさらされるようになるというものです。またアミロイドβはサイトカインだけではなく、活性酸素の放出の引き金となるようです。

このように脳内のDNA損傷が核酸塩基(グアニン)が酸化されてしまうというのは、あまり聞いたことない説と思われます。

今回の結果が治療法に結びつくかは分かりませんが、アルツハイマー病発症の謎に一歩近づいたといえるのかもしれません。

慢性骨髄性白血病の治療薬が続々と登場

2022-07-28 10:33:52 | 
私は若いころ血液検査で白血球数が高く、再検査になることがかなりありました。

高いといっても正常値の1.5倍程度でしたが、白血病ではないかとやや心配したこともあります。その後正常値を若干上回る程度で落ち着いていますので、これが私に体質なのかもしれません。

慢性骨髄性白血病は、骨髄の中で血液を作る造血幹細胞の遺伝子異常により、ガン化した血液細胞が増え続ける病気です。

この治療には進行を抑える分子標的薬の開発が進み、今年になっても新たな薬も登場し、長期間の服用が基本ですが再発の恐れが無ければ薬の中止も可能であることを示す研究結果も報告されています。

慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞の中に異常なBCR-ABLというタンパク質ができ、ガン化した血液細胞を過剰に作り出す病気で、10万人に1〜2人の割合で発症するといわれています。

初期は目だった症状がなく、健康診断で白血球の数が多いことがきっかけで見つかるケースも少なくありません。進行すると正常な白血球や赤血球、血小板が作られなくなり、免疫の低下や貧血がひどくなるなどの症状が出てきます。

かつては有効な治療法に乏しく、3〜5年後に病状が急激に悪化して亡くなる人が大半でした。しかし2001年にBCR-ABLの働きを抑える分子標的薬の飲み薬が登場すると、病気の進行を長期間抑えられるようになりました。

BCR-ABLにエネルギー源になる物質であるATPが結合すると、ガン化した血液細胞が際限なく作りだされますが、この薬はATPの付着を防ぎます。同様の仕組みのクスリが次々と発売され、生存率は向上しました。

1982年以前に診断を受けた患者の推定8年生存率は15%以下でしたが、2001年以降は87%と大幅に改善したとする海外の報告もあります。ただしBCR-ABLが変形して薬が結合しづらくなるなど、治療効果が低下することもあるようです。

こうした場合、別な薬への切り替えや休薬も検討します。2022年5月に公的医療保険が認められたセムブリックスは、従来と異なるBCR-ABLの部位に付着し働きを抑え、2種類以上の薬を使っても効果が得られなくなった患者を対象に使われます。

治療が功を奏して、ガン化した血液細胞が一定期間ほぼ見つからなくなった患者には、薬の中止を試みることもあります。国内の臨床試験で、薬を1年以上中止しても半数以上が再発しなかったとする報告も複数あります。

この様に骨髄性白血病は治癒可能な疾患となりつつありますが、問題は薬剤費がやや高額で受診1回あたり支払う医療費は平均6万4000円となっています。このあたりも薬を中止する試みが研究されている背景にあるようです。

骨髄移植しか完治する方法の無かった病気が、飲み薬で治療できるようになったことは大きな進歩といえるでしょう。

ペットボトルを分解する触媒反応を開発

2022-07-27 10:29:05 | 化学
私の家ではプラスチックとペットボトルを分別してゴミに出しています。ところが先日ゴミ収集車が集めているところを見ていたのですが、なんとペットとプラを一緒に収集車に入れているのです。

多分私の住んでいる市では、プラやペットは単に燃焼して処理しているのかもしれません。市民には分別を呼び掛けておきながら、まぜて処理するというのはひどいものですが、実際の再利用などできずこんなものなのかもしれません。

東京農工大学などの研究グループが、ペットボトルや食器などに使われているポリエステルを単量体(モノマー)に戻すことができる触媒反応を開発したと発表しました。

今回開発した触媒反応を応用できれば二酸化炭素を出す焼却処理をせず、効率的なリサイクルが可能になると期待されています。日本のプラゴミ総量は年間800万トンを超え、1人当たりのプラ容器ゴミは米国に次いで多いとされています。

研究グループによると、プラスチックのリサイクル率は86%とされますが、溶解して再び素材として利用する「マテリアルリサイクル」は21%で、63%は焼却処理して排熱を利用する「サーマルリサイクル」となっています。

ペットボトル用のポリエチレンテレフタレート(PET)は強いアルカリ性のもとで分解できますが、分解後は大量の酸で中和する必要がありました。最近新しい触媒反応としてリチウムメトキシドを使った分解方法が報告されましたが、大量の添加剤が必要となっています。

研究グループはPETが「エステル構造」と呼ばれる構造を繰り返している点などに着目しました。エステル構造をメタノールなどの低分子量のアルコールに置き換えることができれば、最終的には原料であるカルボン酸のメチルエステルとジオールに分解できると考えました。

そこでポリブチレンスクシネート(PBS)を使って多くの触媒候補をさまざまな条件で検討した結果、原子番号57の希土類元素ランタンの錯体が触媒として有効であることを突き止めました。

この触媒反応では90℃の温度下でPBSを4時間で原料であるコハク酸ジメチルとブタンジオールに分解できました。

この反応をペットボトルのPETで試したところ、150℃でやはり4時間で原料のテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解でき、市販のペットボトルを使った実証実験でも同一条件で同じように分解できました。

研究グループは当面は縮合反応で合成されるプラスチックの分解の研究を進めるが、将来的には分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す「創造的分解」の開発にも挑戦するとしています。

安価な触媒と溶媒で反応は進むようですが、生成した原料エステルの用途があるのかは問題かもしれません。