ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

iPS細胞が皮膚組織の老化をリセット

2017-10-31 10:47:18 | その他
化粧品会社のコーセーは、ヒトの皮膚の細胞から作製したiPS細胞で、老化の痕跡である「テロメア」と呼ばれる染色体部分の長さが回復していることを確認したと発表しました。

これによりiPS細胞が老化による皮膚ダメージをリセットすることが分かったとして、老化メカニズムの解明や、次世代化粧品への応用研究を進めるとしています。こういった分野にまでiPS細胞研究が広がっているというのは、やや驚いていますが、それだけiPS細胞研究が広がっていることの表れかもしれません。

iPS細胞は、様々な細胞に分化し増殖する万能性を持つ幹細胞で、ヒトの皮膚などの細胞に特別な遺伝子を導入して培養することで、未分化の多能性幹細胞に「初期化」できます。
研究では、すでに老化した細胞を初期化した場合にどの程度回復され得るのかという点に着目しました。

テロメアについてはこのブログでも何度か取り上げましたが、細胞が分裂を繰り返すと徐々に短くなり、ある程度の長さになると分裂が停止することが分かっています。ただ本当に老化の指標になるのかはやや疑問もあると思っています。

研究で使用したiPS細胞は、同一の提供者の36歳から67歳の異なる時点で得た皮膚繊維芽細胞から、京都大学iPS細胞研究所と共同で作成しました。これだけで30年以上かかることになり、あまり効率の良い研究とは思えませんが、確実性を出すためには必要なことかもしれません。

元となる皮膚繊維芽細胞とiPS細胞のテロメアを比較すると、元の細胞は加齢により徐々に短くなっていましたが、iPS細胞はどの年齢の時点でも長さが回復していることが分かりました。

このテロメア長の回復がなぜ起こるかのメカニズムには触れていませんが、非常に面白い現象という気もします。本来iPS細胞は、すべての遺伝子が発現可能になるという初期化が起こるわけですが、遺伝子が新たに作り出されるわけではありません。細胞分裂の遺伝子の複製時にテロメアが長くなるというのもあまり説明できない様な気もします。

しかしこれは新たな発見であり、iPS細胞の可能性を広げるもののような気もします。この研究ではどのiPS細胞も、表皮を形成するケラチノサイトに分化させることに成功したようです。

このケラチノサイトというのは化粧品用語のようですが、表皮角化細胞全体を表しているようです。このように細胞の老化の痕跡が初期化の過程で取り除かれ、iPS細胞の機能にも影響を及ぼさない可能性が示唆されたとしています。

この結果をどう化粧品に応用するかは難しそうですが、色々な方面に展開できそうな気もします。


ミューズ細胞により腎臓病改善

2017-10-30 10:25:23 | 健康・医療
東北大大学院医学系研究科の研究チームは、ヒト由来の「Muse(ミューズ)細胞」を慢性腎臓病のマウスに注射すると、腎組織が修復されて機能が回復するという研究成果を発表しました。

慢性腎臓病は重症化すると人工透析や移植以外に有効な治療法は今のところありません。研究成果によって、患者の負担が大幅に軽減される点滴治療の開発が期待できるとしています。

ミューズ細胞というのは、東北大学の研究チームが2010年に発見したもので、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)に続く第三の多能性幹細胞とされています。骨髄や末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在し、さまざまな組織や臓器に成長する能力があるようです。

傷付いた組織からのシグナルを受けてその部位に集積し、組織に応じた細胞に自発的に分化し、修復する機能を持つと報告されています。ES細胞が胚という特異な部位からしか得られないのに対し、ミューズ細胞は脊髄細胞や、脂肪吸引により得られる組織からも分離可能とされており、大量取得もある程度できるようです。

またミューズ細胞はゼラチンコーティングした培養皿上で培養すると、自発的に分化し、そのなかに神経系マーカーを発現する細胞になることが確認されています。

また動物を使った実験でも、ラットの大脳動脈閉塞モデルに、ヒト皮膚繊維芽細胞由来のミューズ細胞を投与すると、脳内に生着後神経細胞に自発的に分化し、行動改善が認められるといった実験も行われています。

今回の研究では、体内の老廃物をろ過する腎臓の組織「糸球体」は、糖尿病や高血圧などによっていったん損傷すると治らず、腎臓病の原因となります。

研究チームは、糸球体が硬化して慢性腎臓病を発症したマウスの静脈に、ヒトの骨髄から採取したミューズ細胞をごく少量注射すると、細胞は損傷部位を狙って集まり、糸球体の細胞に分化しました。

ろ過機能を調べる検査でも、数値が改善して正常範囲となりました。対照実験で食塩水だけを注射したマウスは、数値が大幅に悪化していました。7週目以降は免疫拒絶によりミューズ細胞がなくなりましたが、5週目までは回復が確認できたようです。

免疫拒絶を起こさない免疫不全のマウスでは、7週目以降も多くの細胞が腎臓内に生存していました。研究チームは、ヒトの体内であれば、さらに長期間ミューズ細胞の生存が可能であり、慢性腎臓病を治療できるようにするためのステップであるとしています。

このように非常に多くの利点を持つミューズ細胞は期待されているのですが、その割には関連研究が少ないような気もします。


日本の医療費を半減するには

2017-10-29 10:46:57 | その他
社会の高齢化が進むと共に日本の昨年度の医療費は41兆円を超え、今後さらに増加していきます。この医療費を半減させる提言が出ていました。

2025年には人口の最大部分を占める団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療費は60兆円近くまで増えると推計されています。これをいかに減らしていくかは大きな課題ですが、医療機関のちょっとした改革で半減できるとしています。

日本には約8,500の病院がありますが、一般の病床を減らしてリハビリ病院や介護施設に転換していけばよいという主張です。

平均的な入院日数は、欧米諸国では1週間に対して、日本では1か月以上に及ぶようです。日本の病院は治療を行うだけでなく、高齢者の収容施設となっているところが少なからずあります。

確かに10年以上前ですが、母が多臓器不全風になり市内の大手病院に入院したのですが、たまたま呼吸器科に入りました。そこはかなりの病床数があったのですが、ほとんどすべてが高齢者ばかりでした。結局母はそこに8か月も入院し亡くなりましたが、家族としては非常に助かったのですが、高度治療を謳う総合病院でもそんな有様でした。

さて欧米では病院というのは治療やリハビリを提供して、自宅や施設に返す所なので入院日数は少なくなります。病院の機能を欧米型に近づけていけば、現在のような病床数は必要なくなるわけです。日本型の病院のあり方は二つの問題があるとしています。

ひとつは社会保障費が高コストになることで、入院医療費は1人1日2万~4万円以上かかるようです。介護施設なら1万円以下で済むので、病院での長期入院は負担を増加させます。

さらに重要なのは、入院中ベッドに寝たままの状態(寝かせきり)になっている高齢者が多く、その結果病院が寝たきり高齢者を作っていることになります。病気やけがの治療のため入院中に体力や生活能力を低下させてしまう高齢者が多いようです。

そこでリハビリ病院を増やし、口から食べられ、自分で排泄できるようにして、積極的なリハビリを提供することで、高齢者が自立できるように医療上の工夫をすべきとしています。病院で寝かせきりにせず、治療と徹底したリハビリで自立を促すことで入院日数を減らし、その結果元気な高齢者が増えれば、医療費を半減できるわけです。

確かに病院が寝たきり老人を増やしているのは確かそうですが、現在での看護師やスタッフの状況から考えると、どこから手を付けるべきか非常に難しいような気がします。

思い込みから副作用が生まれる?

2017-10-28 10:50:32 | 
思い込みによって症状が軽くなったりするプラセボ効果については、このブログでも何回か書いてきました。

この薬効とは逆に何の薬効もない偽薬でも、思い込みにより副作用が生じるノセボ効果というものもあるようです。

現在薬剤の効果を確かめる最も信頼できる方法が、無作為化の二重盲検試験で、この場合対象者は本当の薬か偽薬のどちらかを投与されますが、投与する方もどちらの薬かわからないようになっています。

これにより新薬を投与されるので効果が出るだろうという精神的な要素が結果を左右するのを防いでいます。人間は精神的な生き物であり、自分の思い込みによって症状を軽くしてしまうという機能があり、これがこのブログの副題にもなっています。

逆に投薬を受けたと思うだけで副作用が出ることがあるようで、これをノセボ効果と呼んでいるようです。これは私も聞いたことがなかったのですが、よくなることは確かにあるのですから、逆に副作用が出てもおかしくないような気もします。

実際にノセボ効果は個人差が激しく、薬剤の副作用を強調する情報はあふれており、こういった情報の影響が大きいようです。

この問題を取り上げ、思い込みがいかに体の反応に影響があるかを調べた研究がドイツ・ハンブルグ大学から発表されました。この研究では、アトピーに対する2種類のクリームの安全性(副作用の有無)を調べる試験を健康な人を対象に行うという設定にしています。

使うクリームはすべて偽薬で、効果も副作用もでないクリームを選んでいます。しかし実験の参加者にはアトピーの薬の試験であることを告げておき、クリームの中身は同じですが、パッケージだけを変えて一目で値段が安い、あるいは高いと思わせるように仕向けています。

このように思い込みを発生させたのち、被験者にコントロール(同じ物)と試験薬の両方を腕に塗ってもらい、知覚過敏がないかどうか試験薬と比較させるのですが、最初に試験薬の温度を上げて試験薬の方が知覚過敏を誘導しているという先入観を植え付けます。

この評価は被験者がどう感じるかではなく、脳と脊髄の機能的MRIを測定し、皮膚からの痛みを感じる感覚神経の活動と、脳の活動を測定して痛みの感覚に、クリームの値段に関する思い込みがどのように作用するかを調べています。

結果としてはちょっと温度を変えて知覚過敏と思い込ませるだけで、ノセボ効果を誘導できるようです。さらにこのノセボ効果は、値段が高いクリームという思い込みによってより強まり、感覚過敏も長く続くという結果でした。

このように、ちょっとしたきっかけで薬に対する思い込みができると、副作用の訴えにつながることがはっきりしました。面白いことに値段が高いとおそらく副作用も強いと考えてしまうことも確認されました。やはり薬の評価は難しいものです。

ガン光治療 アメリカで効果確認

2017-10-27 10:41:50 | 健康・医療
アメリカラッシュ大学が実施した、光を当ててガンを破壊する新たなガン治療法の臨床試験の結果が発表されました。

この結果では頭頸部ガンの患者8人中7人でガンが縮小したようです。この結果を踏まえて日本でも今年中の治験開始を目指すとしています。これはガン光免疫治療とよばれ、米国国立衛生研究所(NIH)の日本人研究者が開発したものです。

ガン細胞だけがもつ細胞表面のタンパク質に結びつく性質がある「抗体」に、近赤外線を当てると化学反応を起こす化合物を付けた薬剤を患者に投与します。その後体外からや、内視鏡を使って近赤外線を患部に当てると、薬剤が結びついたガン細胞の細胞膜が破壊されます。

いわゆる抗体医薬は、ガン特異的な治療に使えるものとして、色々な抗ガン剤を結合させたりする試みが行われてきましたが、あまり有効という結果は出ていませんでした。

今回は抗体として上皮細胞増殖因子受容体という、いわばガン増殖のアクセル役になっているタンパク質に結合する抗体を作成し、これにフタロシアニンという化合物を結合させました。

まずシャーレ内でヒトのガン細胞で上記受容体を発現しているA431細胞にこの薬剤を加え、それに近赤外線を照射すると速やかにガン細胞が死滅することを確認しました。さらに動物実験としてA431細胞をマウスに移植し、同様にこの薬剤を注射し、近赤外線を照射してガンを縮小させる実験に成功しました。

近赤外線は比較的波長の短い赤外線で、ある程度ヒトなどの組織を通過し、体内に届く性質を持っています。またフタロシアニンは、この近赤外線が当たると化学反応を起こし発熱することが知られています。

またガン細胞の細胞膜が破壊されると、細胞の内容物が出てきますが、これは免疫細胞が外敵とみなして攻撃し、この内容物が付着したガン細胞も攻撃の対象となるようです。

今回の治験の目的は安全性確認が主で、手術や放射線治療、抗ガン剤などで治らなかった舌ガン、咽頭ガンなどの頭頚部ガン患者を対象としました。

薬剤量を絞り、光も1回だけ充てる治療を実施しました。9人の患者が参加し、途中で止めた1人を除く8人について1か月間経過を観察しました。その結果3人はガンが消滅し、治療後1年以上たった現在も生存しています。残りの4人はガンが小さくなり、1人はガンの大きさに変化がなく半年後に亡くなりました。

この治療自体による重い副作用は出なかったようです。研究グループは、今回は最低限の治療だったが、他に治療法がなかった3人の患者が完治したことは大きな成果であり、繰り返し光を当てたり薬剤を再度投与することで治療効果は改善できるとしています。

日本でも頭頸部ガン患者の治験を予定いるほか、他の部位のガンについても実施に向けた検討をしているようです。