ごっとさんのブログ

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全国でPFASの検出相次ぎ政府が対応策

2024-10-15 10:37:08 | 化学
最近日本でも各地でPFASが検出されたという報道が出ています。PFASはフッ素化された炭化水素(アルキル)化合物という意味ですが、フッ素が入ると非常に面白い性質が出てきます。

私も医薬品合成にフッ素化合物を導入しようとしましたが、非常に難しく特定の部位にフッ素を入れるのはほぼ不可能でした。そこでPFASも色々なフッ素化合物の混合物となっています。

フッ素化合物の特徴として、非常に安定な化合物になるのですが、逆に自然環境でもほとんど分解されないという点が問題となっています。

PFASは体内に入っても反応することはありませんので、そのまま異物として排出されると思っていますが、非常に小さいため血管などに入り込むと傷つけたりする可能性はありそうです。政府は事態を重視し、環境省を中心に対応策を進めています。

同省では現在、PFASに特化した水道水の汚染状況調査を実施中で、専門家会議では水道水の暫定基準の見直しに向けた議論を始めています。環境省によるとPFASは有機フッ素化合物の総称で、4730種類以上で定義によっては1万種以上あるとされています。

耐熱、水や油をはじくなどの性質があり、2000年ごろまではフライパンなどのコーティングや食品包装、衣類の防水加工などの身近な製品の他、半導体や自動車の製造過程にも使われてきました。

PFASの中でも特に使用されてきたのがPFOSとPFOAの2物質で、PFOSはメッキ処理剤や泡消火剤などに、PFOAは撥水剤や界面活性剤などが主な用途でした。この2物質は難分解性、高蓄積性の他長距離移動性も高く、北極圏を含めて世界各国で広く残留しているとされます。

こうした性質から米国などでは「永遠の化学物質」とも呼ばれています。これら代表的なPFASについて2009年以降、動物実験で肝臓機能や体重減少などの影響の他、人体に対してもコレステロール値の上昇、発ガン性や免疫機構への影響を示す報告が出されています。

このためストックホルム条約による国際的な規制が進み、PFOSは2009年に、PFOAは2019年に廃絶される対象物質になりました。これを受けて日本では2021年までにこれら2物質の輸入や製造が原則禁止されました。

環境省は、2022年度の調査でPFOSとPFOAが全国16都府県の河川や地下水など111地点で暫定目標を超えていたと発表しました。この中には私の住んでいる神奈川県も入っており、最高だった大阪府では目標値の420倍という高濃度でした。

こうした結果を受けて世界保健機構は、2022年9月に暫定的な基準値として従来の値の10倍にすることを提案しました。

こういったことは何の対策にもなっていませんが、早急に人体にとって危険な濃度を定めるところから始めるべきではないでしょうか。実際は手の打ちようがないというのが本音なのかもしれません。

人類によって生み出された「人工元素」は何種類

2024-09-23 10:35:42 | 化学
私は有機化学者として元素(実際はそれからできた分子ですが)と元素を反応させ、新しい分子を作りだすという仕事をしていました。

従って多くの元素といわばなじみ深いのですが、元素自体はなかなか難しいものです。原子は現在までに118種類知られており、そのうち天然に存在するのは94種類です。どんな神秘な宇宙に行ってもこれ以外は存在しないという点が、私が宇宙に興味がなくなった理由のひとつです。

あらゆる物質は原子でできていますが、原子は陽子や中性子で作られた原子核と、周囲を取り巻く電子から成り立っています。陽子の電荷はプラス1なので、電荷がマイナス1である電子の数は足し合わせて電荷がゼロとなるように決まります。

すなわち陽子の数=取り巻く電子の数となっています。原子の持つ陽子の総数のことを「原子番号」と呼んでいます。原子の化学的性質を表わすために、異なる原子番号ごとに「元素」という言葉があてはめられました。

中性子は、元素の化学的性質には関わりありません。水素や鉄、鉛など、天然には94種類の元素があります。地上には150万種もの動植物が暮らしていますが、生物に限らずすべての物質がこれらの元素の組み合わせでできていることになります。

原子についての理解が進んでいなかった古代エジプト時代から20世紀初頭までの長い間、変色せずに加工性に富んだ金を他の物質から作る錬金術という試みが盛んに行われましたが、企てはことごとく失敗しました。

元素の変換に初めて成功したのは1919年です。アルファ粒子(ヘリウム原子核)を窒素に照射すると、陽子が飛び出してくることを発見したのです。このとき窒素が酸素に変換されました。

元素の変換とは、原子核が異なる原子核へと変化したことを指しており、この反応を「原子核反応」と呼んでいます。原子核を高速で他の原子核にぶつければ、原子核反応を起こせることが分りました。

そこで効率的に反応を起こして原子核を研究するために、原子核を高速に加速する加速器の開発が始まりました。そして1936年、発明されたばかりのサイクロトロンという加速器をを使って重水素を加速し、原子番号42のモリブデンに照射するという実験を行いました。

その結果地上では当時見つけられていなかった43番目の元素テクネチウムを発見しました。このようにしてこれまでに61番のプロメチウムと85番目のアスタチン、および93番元素のネツプニウムから118番元素のオガネソンまで29種類の元素が、人類によって生み出されました。

ただこの中の5種類は後の研究で、微量ながらも地上に存在していることが明らかになりました。

このように人類は新しい元素を作り出してきましたが、そろそろ限界のような気がしています。多分研究が進むにつれて人工元素も天然に存在することが分ってくるような気もします。

糸状コラーゲンを高速で作る技術を開発

2024-08-14 10:38:12 | 化学
コラーゲンというとぷりぷりしたタンパク質のイメージがありますが、実際は非常に強いもので腱や靱帯も糸状コラーゲンでできているようです。

北海道大学などが、腱や靱帯を形作るコラーゲンマイクロファイバーを高速で作る紡糸技術を開発しました。糸状コラーゲンを束にすると、健常な人の靱帯の2分の1から3分の1程度の硬さや丈夫さとなり、臨床応用できる十分な強度が得られました。

スポーツ選手など多くの人が患い、体内の別部分の腱を自家移植するのが一般的だった膝前十字靱帯損傷の治療に人工腱として使える可能性が高いとしています。筋肉と骨をつなぐ腱や骨と骨をつなぐ靱帯はコラーゲンからできています。

人体と同様に線維が一方向に整列した似た構造を持つ糸状コラーゲンを増産できれば、人工腱の材料となり得ます。これまでの技術では、1時間で数十メートル程度作るのにとどまり、実用化に結びついていませんでした。

北海道大学の研究チームは、長年研究されてきたノズルを通して紡糸用コラーゲン水溶液を凝固液とエタノール液を通してから線維として巻き取る「湿式紡糸」を基に、水溶液を凝固液に通さなくてもエタノール液中で凝固するものに改良しました。

これにより紡糸の行程を短縮し、凝固液内に含まれる薬剤を除去する手間も省けます。これまでの紡糸技術ではエタノール液中で凝固過程のコラーゲンを引っ張って伸ばす「延伸」を行う際に切れてしまう課題がありました。

延伸しやすいよう成分を工夫したコラーゲン水溶液を独自開発し、エタノール液中に押し出すことで形成される糸状コラーゲンゲルを乾燥してマクロファイバー化する過程で巻き取る速さを押し出す速さより高速にすることで、延伸を実現しました。

延伸の工程があることでコラーゲン繊維が一方向に整列した内部構造を得ました。具体的には、紡糸用コラーゲン水溶液を47マイクロメートルでエタノール浴に押しだし、押しだすよりも4.4倍の速さで巻き取ることで延伸しました。

紡糸速度は1時間に200メートルまで上がり、直径が10〜20マイクロメートルの生体内コラーゲン繊維に近い22マイクロメートルの糸状コラーゲンが得られ、糸状コラーゲンの連続生産が可能になりました。

ただ実際の靱帯や腱のコラーゲン繊維の断面が真円であるのとは違い、得られた糸状コラーゲンの断面は楕円形となり、延伸時にローラーから圧力を受けた影響とみられています。

断面が楕円形の糸状コラーゲンが、医療現場で人工腱として使うことができるかを調べた結果、天然の腱よりやや弱いものの臨床応用にとっては十分な強度が得られました。

この人工腱は10年後に治験を行うことを目指しています。

圧倒的な酸度を誇る酢、衝撃の化学的効果

2024-07-07 10:33:28 | 化学
私が属していた農芸化学科は、微生物を使った発酵がかなり重要位置を占めていました。しかし私はこの微生物の取り扱いがどうも苦手で、やや分野の違う有機化学を専攻しました。

日本は遥か昔から発酵文化を築いてきており、ここではそのうちのひとつ「酢」を取りあげます。人類は有史以前から酒を造ってきました。

ブドウや穀物から酒を醸して楽しむとともに、よりおいしい酒を造るために膨大な時間と労力を費やしてきましたが、せっかく作った酒がいつの間にか酸っぱくなって飲めなくなることも珍しくなかったはずです。

やがて酸っぱくなった酒には食物が腐るのを防ぐ効果があり、調味料としても使えることに気が付きました。食酢は英語でビネガーというが、語源は「酸っぱいワイン」であり、食酢が古くなったワインから生まれたことを示しています。

これは酒に含まれるアルコールが、酢酸菌の働きによって酢酸に変化したためです。食酢は酢酸を主成分とした酸性の調味料であり、市販の食酢には酢酸が4〜5%含まれています。日本には4世紀ごろに酒の醸造法とともに食酢の醸造法が伝来しています。

当時は辛酒と呼ばれ、酒の一種として宮廷料理などに用いられていたが、量産されて庶民の間で食酢が使われるようになったのは江戸時代のようです。食酢の最大の料理効果は、当然のことながら酸味の付与です。

食酢は塩とともに最も古くから人類に利用されてきた調味料です。酸味には唾液の分泌を促進し、食品に清涼感を与えるとともに、甘味や塩味を引き立てる効果があります。寿司には酢飯が欠かせません。食酢に殺菌効果があることは、古来より知られています。

冷蔵設備が無かった江戸時代に寿司が庶民の楽しみになったのも、酢飯を抜きにしては語れません。食酢の腐敗防止作用としては、現実的には殺菌より静菌効果が重要です。「殺菌」とは細菌を死滅させる効果であり、細菌を殺さずとも増殖を抑える効果を「静菌」といいます。

雑菌が許容できないレベルに増殖することが腐敗なので、食品の腐敗防止には静菌できれば十分といえます。ほとんどの食中毒病原菌は、一度に100万個以上の細菌を摂取しない限り発症することはないので、静菌作用により微生物の増殖を抑えることには非常に大きな意味があります。

食酢の40分の1の濃度で静菌できることから、夏場の弁当やおむすびには気付かれない程度の食酢が添加され、食中毒の防止に役立当てられています。

その他食酢にはカルシウムの補給や減塩効果もあるとされ、重要な食材といえるようです。

人類によって生み出された「人工元素」は何種類

2024-05-23 10:32:31 | 化学
少し前に原子を取りあげましたが、実はこの原子が私が宇宙に興味がなくなった原因のひとつです。

宇宙に進出すれば地球にない新しいものが見つかるだろうと考えていました。ところが原子は既に知られている118種類以外は、たとえどんな宇宙であっても存在しないことが分かりました。

つまり膨大な金をかけて宇宙に進出しても、想定内の物しか発見されないことが分かり興味がなくなってしまいました。

原子の基本を確認しますが、原子は陽子や中性子で作られた原子核と、周囲を取り巻く電子から成り立っています。陽子の電荷はプラス1なので、電荷がマイナス1である電子の数は、足し合わせた電荷がゼロとなるように決まります。

この原子の持つ陽子の総数、陽子数のことを原子番号と呼びます。原子番号が変われば電子数も変わるので、それに応じて原子同士のつながり方が変わり、様々な分子が形成されます。このような原子の科学的性質を表わすために、異なる原子番号ごとに「元素」という言葉があてはめられました。

水素や鉄、鉛など天然には94種類の元素があります。地上には150万種もの動植物が暮らしていますが、生物に限らずすべての物質がこれらの元素の組み合わせでできていることになります。

古代エジプト時代から20世紀初頭までの長い間、変色せず加工性に富んだ金を他の物質からつくる錬金術という試みが盛んに行われましたが、企てはことごとく失敗しました。1919年に、アルファ粒子を窒素に照射すると、陽子が飛び出してくることを発見しました。

このとき窒素が酸素に変換されました。この反応を「原子核反応」と呼んでいます。原子核を高速で他の原子核にぶつければ、原子核反応を起こせることが分かりました。そこで効率的に反応を起こして原子核を研究するために、原子核を高速に加速する加速器の開発が始まりました。

1963年発明されたばかりのサイクロトロンという加速器を使って重水素を加速し、原子番号42のモリブデンに照射するという実験を行いました。その結果、地上では当時見つけられなかった43番元素のテクネチウムを発見しました。

これが人工的に生成された初めての元素でした。テクネチウムに加えてこれまでに61番元素のプロメチウムと85番元素のアスタチン、118番元素のオガネソンなどの29種類の元素が、人類によって生み出されました。

ただしテクネチウム、プロメチウムなど5種類は、後の研究で微量ながら地上に存在していることが明らかになりました。理化学研究所の研究グループが生み出した113番元素は、2016年にニホニウムと名付けられました。