第215話. 自然と人工の境目 クリストのマスタバ

2018-12-02 23:57:38 | 気になった物・形・色・店舗
湖畔人です。

少し前、海外に行っていた際、BBCを観ていると、CMで芸術家・クリストの番組の番宣をしていました。クリストは、島や建造物をビニールシートで包んだり、自然の中に大きくカラフルな傘を多数配置するインスタレーションをしたり、渓谷をビニールカーテンで遮ったり、かなりスケールの大きな広い空間を使った期間限定の芸術作品を作られる方なのですが、多分、この時期にBBCがクリストの番組を組んでいた理由は、実は今年ロンドンのハイドパークの池に大きくカラフルな構造物、古代メソポタミアの古墳マスタバを真似た構造物、ロンドンマスタバをクリストが作り上げて池に浮かべているのですが、BBCは、多分きっと、この巨大で期間限定の貴重な芸術作品を出来るだけ多くの英国民に知って頂きたかったのでしょうし、クリストと言う生ける伝説とも言えるような偉大な現代美術家の芸術作品が初めて英国で見れると言うその貴重さと栄誉を出来るだけ多くの英国民に知って頂きたかったのでしょうし、且つまた単純に、この稀有なる機会を出来るだけ多くの英国民に来て見て楽しんで頂きたかったのではないかと推察しております。(その番組を観ていないので詳しくは判りませんが・・・)このマスタバは赤、ピンク、ライトブルーの綺麗な色のドラム缶を台形状に重ねた構造物でして、そのカラフルで巨大でシンプルな形状の構造物が、青空の下、緑に囲まれ、池に浮んでいるその様は、何とも言えない不思議な光景なのです。その不思議で巨大な構造物の周りを白鳥たちが悠然と泳いでいる光景は、もう最高の非日常的情景なのです。
クリストは元々、奥様のジャンヌ=クロードと一緒に、二人三脚でクリスト&ジャンヌ=クロードとして活動してきました。今は奥様に先立たれ、1人で活動されています。過去手掛けた作品は、セーヌ川にかかるパリ最古の橋をシートで梱包したり、マイアミの複数の島の周りをピンクのシートで覆ったり、ヴァレー・カーテンと言ってコロラドの渓谷をシートで塞いでみたり、ベルリンの帝国議会議事堂をシートで包んだりと、どれもこれもスケールが大きく、どのプロジェクトもその実現の為に、大変なお金が掛かっているであろう事が容易に推定されるのです。一説には、材料費だけで数億円掛かっていると聞きますし、携わる作業者の数も多く工賃だけでも相当なものだと推定されます。更に、土地や建物の権利者への説得も要る為、かなり手間と時間の掛かる、相当苦労の多いブロセスを経るようなのですが、その割には、手掛けた作品は数週間から数ヶ月の短期間で撤去されてしまうので、彼の成している事は、まるでセミの一生の如くであって、長く辛い準備期間の後、一緒の輝きを放って消えてしまうような、そんな切なく儚い仕事なのです。大変な苦労の末に一瞬の幻を見せる事を仕事としている、まるで花火師のようです。でも、ただ美しいと言うだけではなく、観る人に何かを感じさせ何かを考えさせる仕事をしていますので、哲学的花火師と言った所でしょうか?彼らは資金集めも外部に頼らず基本自分達だけで活動資金を稼ぎ出します。ドローイングやオブジェを作っては売って資金集めをするのです。そして、根気強く関係者達を説得して回り、相当苦労した末に、プロジェクトを実現させているのです。頓挫するプロジェクトも少なくないようで、かなり根気の要る泥臭い仕事のようです。でも、どうもクリスト自身は、その泥臭いプロセスをとっても楽しんでいるようで、彼は、もしかすると、彼のアートを実現するその過程をも、見せ物として、アートとして捉えているのかもしれません。彼の仕事のプロセスを我々に見せる事で“事を成す”と言うことはどういう事なのかを我々に示しているのかもしれませんね。芸術の役割は様々ですから、美とは何かを教える役目もあれば、クリストのように作品を作るプロセスを我々に見せて、事を成すとは何かを考えさせる、なんて言う芸術の役割があっても良いと思うのです。彼自身は作品に具体的なメッセージは持たせない、と言い、見る側の感じるままを尊重したい、と言うのですが、我々観る側としては、彼の作品自体も、彼の仕事ぶりも、両方、立派な彼の芸術作品として楽しませて頂いておりますけどね。
このクリストは、嘗て日本でもインスタレーションを行っております。アンブレラ・プロジェクトと言って、カリフォルニアの砂漠地帯と茨城の田園地帯の二か所で同時に巨大な傘をそれぞれ千本以上配置すると言う巨大プロジェクトを実施しています。乾燥したカリフォルニアの方には黄色い傘を、湿気の多い日本側には青い傘を使って自然の中にカラフルな傘の花を咲かせました。一本の傘の大きさは高さ6メートル、直径約8.7メートルというかなり巨大な傘だったようで、その大きくてカラフルな傘が平凡な日常の風景の中に非日常の空間を作り出していたようです。1ヶ月弱の会期中に日本では50万人、アメリカでも200万人を動員したそうです。先日、水戸の芸術館に行く用事があり、その際立ち寄った売店でクリストのアンブレラプロジャクトのポストカードを購入しました。正直、とってもカッコウが良いです。部屋に飾っております。とても気に入っております。
私は個人的に、安藤忠雄さんの幾つかの建築作品もそうなのですが、自然の中に直線的で単純なフォルムを持つ人工的な構造物が忽然と出現して、自然とのコントラストを作り出す光景にとてもシビレてしまうタイプの人間でして、ですから、例えば、広い芝生の公園の中にあるステンレスの手すりの付いたコンクリートの階段を見ただけでも嬉しくなってしまうようなタイプの人間なのです。そんな私のようなタイプの人間にとって、このクリストの作り出す自然空間の中に対比となる単純で直線的なフォルムを持つ人工的構造物を当てがって作り出す非日常的なその空間は、私にとって、いわばドストライクの芸術作品と言えるのです。本音を言えば、短期間で消えてしまう作品だけでなく、出来れば永く恒久的に残るような作品も残して欲しい所なのですが、でもまぁあの時間限定の刹那が、この世の諸行無常を表し、何か哲学的な意味を作品に持たせているのかもしれません。(考え過ぎか・・・) でも一説によれば、次にアラブ首長国連邦のアブダビに建設予定のマスタバは恒久的な建造物となるらしく、大きさもロンドンのマスタバの10倍に成るそうで、本当に楽しみです。実現すれば世界最大の彫刻となる見込みで、完成した暁には、必ず一度は訪問して、直接この目で見てみたいと思っています。

しかし、クリストの描くドローイングは最高に格好がイイですね。このロンドンのマスタバのドローイングも超絶カッコイイです。ポストカードでもいいので手に入れて是非部屋に飾りたい所です。
そして、何より、ウチの近所の湖にもマスタバが欲しいですね。自宅の家の窓からマスタバを毎朝見れたならもう最高なんですけどね。何とか実現しないかな・・・。

湖畔人

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