チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

男のきものⅤ

2010年05月21日 13時25分09秒 | 日記
「ヒサコちゃんチョット来てえ」
「忙しいの」
「そんなこと言わないできもののことでーー」
「なに?すぐ行く」

ゲイのこけしに呼び出される
千駄ヶ谷まで行くと
「まあ聞いてよ」
こけしは青山の店を閉めるさい
水商売はやめて執筆に専念するつもりであった
そのため会津塗りの長持ちーー特注だったらしいーー
その中に入れていたたくさんのきものと帯

「ホラこの人に預かってもらったのよ」
と傍らの見るからに小賢しいおばあさんを指す
彼女のソバには大きな風呂敷包みが置いてある
「預かり賃として50万円をわたしたのよ」
(すごい金額!最も当時のこけしにしてみたらほんの小銭)

こけしがなかなか荷物を引き上げないので
その老婆はエッチラオッチラかつげる分量だけもって
質屋に運んでは流していたらしい
其れを今日は幸か不幸か道でパッタリこけしに会った

「中身見せて?」
夏物ばかりで30枚は或る
「こけしいいものばかり持っていたのね」
「そうよ金持ちばかりが相手だったでしょう?」
こけしは日本舞踊も名取なので着物が似合う
季節季節に色んな男に買ってもらったらしい

「もうお目にかかれないほど良い上布ばかりじゃあないの?」
これだけ上等なら質草としては最高
冬物もこの調子ならこのおばあさんかなりの現金を手にしている

「もう面倒だわどうせきもの着ないから現金にしたら半分頂戴!」
「こけしこのなかからコレッと云うのを選ぶからあなた着なさい」
「この上布こんなに黄色くなってるもん」
「バカね雪の上で晒せば真っ白になるのよ新品よ」

いいものばかり5枚引き抜き
「こけし後はおばさんに差し上げなさい」
長持ちだけは売らないでねと念を押して
質屋に行く老婆を見送った

銀座、六本木、青山と落ちてきて
こけしは今新宿で店を出している
「この夏はパリッと上布を着て店に立ちなさいよ」
「そうするわたしの舞台ですものね、店は」
「上等な客がわんさか入るわよ」
「ヒサコちゃんが云うとそんな気がしてきた」
「今購入すると500万円以上のものばかり抜いておいたから」
「ほんとう?あの婆目があるんだわね」
「それもあるけどこけしのものだからきっといいものと思ったんでしょう」
「そうだわね」

「あの長持ちだけは引き取りなさいよ」
「あれねAさんに買ってもらったんだわ」
「大事になさい」
「ハイ」

男が男に入れあげるものって半端じゃあない
コメント
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