あしたはきっといい日

楽しかったこと、気になったことをつれづれに書いていきます。

そこにいる

2021-11-23 10:43:25 | 本を読む

あの時テレビを付けなければきっと、彼女に出会うことはなかっただろう。番組は終盤に差し掛かっていたけど、派手な帽子を被りあかるく振舞う彼女、中島ナオさんの姿がとても強く印象に残った。

その後、日々の慌ただしさを言い訳に彼女のことを忘れていた。思い出したのは今年の4月、それは彼女の訃報によってだった。その時改めて、彼女が何を目指していたのかなどについて知った。そして同時に、彼女が準備していた本の出版を応援するクラウドファンディングを知り、細やかながらそこに加わらせていただいた。

10月に入り、その本が手元に届いた。少しずつ読み進め、ようやく読み終えた。

気持ちが落ち込んでいたからなのか、読み進めるうちにどこか、彼女に励まされているような感じがした。彼女自身と彼女の周囲にいる人たちへのインタビューを通じ、その時々に思い、考え、行動していく彼女の姿が浮かんできた。そしてそこには、あの一回だけテレビで視た輝く笑顔も。

夢や希望を抱いて社会に出るも、やがてその先にある壁を感じ、違う道を模索する。誰もが…とは言わないけど、多くの人が経験する道程を彼女もまた経験する。でも、そこからの行動力に、そしてその行動力が周りを動かし、多くの人を惹きつけていくところに、ありきたりな言葉になってしまうけど「スゴイ」って思った。

やり残したことはたくさんあって、悔しかっただろう。でも、彼女の思いは多くの人の心に種を蒔き、それはやがて様々な場所で花開いていく。すでに彼女が咲かせた花とともに、世の中をカラフルにしてくれるだろう。そしてその時また、あの素敵な笑顔と出会える気がする。

「悩んだことも、落ち込んだことも、きれいな模様になって出てくる」とは、僕の大好きなドラマ「ちりとてちん」の中のセリフだけど、中島ナオさんが生み出した、そしてこれから先も生み出されるものやことは、きれいな模様になって人々の心を豊かにしてくれるだろう。

この本が一般販売されるのは12月1日から。書店で見かけられたらぜひ手に取ってみてほしい。そして、何か感じるものがあったら手に入れて読んでほしい。何より、明日を今より少しいい日にしてほしい。


そして、バトンは渡された(映画)

2021-11-14 08:32:20 | 映画を観る

瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』が映画化されることを知り、まずは瀬尾さんの作品がまた映像化されることを嬉しく思った。そして、主人公の森宮優子を演じるのが永野芽郁さんだと知り、その嬉しさは僕のゲージ一杯(高いか低いかには触れないけど)に振り切れた。で、彼女の母親・梨花を演じるのが石原さとみさんで、僕の頭の中で梨花と石原さんがシンクロしたのを思い出す。

その情報に触れて以降、公開日がいつかと楽しみにしていた。けれども、他の多くの映画作品同様、この作品も流行り病の影響を避けられなかったのだろう。とはいえ、待ちに待った作品を観ることができた。

3年前に原作を読んで以降、あらすじは覚えていたものの、作品の詳細についての記憶が薄らいでいたことは、映画を観る上では逆に良かったのかもしれないと、観終えた後に思った。

さて、瀬尾さんの作品での愉しみは食事のシーンだと、多くの瀬尾まいこファンが思うところだけど、映画でもそれは伝わってきた。優子と田中圭さん演じる森宮が食事をとるシーンでは、単にその食事が美味しそうというだけでなく、その時のやり取りが父と娘の繋がりを緩やかだけど強いものにしているんだなと思える。そして、その時のやり取りの内容が、互いが今どんな状況なのかを掴む手段になっている。書いてしまうと当たり前のことなんだけど、自分の家庭(母とだけれど)を顧みるとそれとは程遠い。そして、こんな風に子どもと触れ合う機会がないのだと思うと、少し寂しく思う。もちろん、積極的ではないにせよそういう生き方を選んだのは自分自身だから覚悟はしているけど。

だからこそ、小説でも今回の映画でも、泉ヶ原も森宮も、梨花の思いもよらない行動とその行動力によって家族を作ることができたことを羨ましく感じた。今の僕にそんな状況が訪れたとしたらすぐに受け入れられる自信はないけど、でも、すぐに断りはしないし、実現する方法を探るだろう…な。

小説とはまた違うストーリーが用意されていたけど、どちらがいいか悪いかということではなく、それぞれが独立した作品で、それらを感じればいい。そう、映画のそれとそこに触れる台詞に、先日から読んでいるある本のことを重ねた。感想は読了したら書くけど、会えないことと別れとは違うんだろうということかな。

映画を観終えて街を歩くと、以前の賑わいがだいぶ戻ってきていた。そして、親子連れを見かけては温かな気持ちになれた。日差しの暖かさもあったけど、きっとそれだけではなかった、と思う。