通勤電車が駅に着く度に冷たい空気が入ってくる。それは体の中の「冷たい」という感覚を刺激するが、その冷たさが、暖房で澱んだ空気を入れ換えてくれるのもあって、心地いい。
このくらいの寒さは、外出を億劫がる理由にはならない。それでも外に行きたがらないのは気持ちの問題で、その気持ちは気温と関係なく凍てついたままだ。
ただ、今その心を溶かしてしまったら…という怖さがある。だから、まだしばらくはこの心を凍らせておこう。
日がな一日読書を…と考えていたが、朝から寒さが厳しく散歩も行けず、ならば部屋の掃除をと張り切りだした。
昼を過ぎ、15時頃になりこれ以上は進まないと判断して、出かけることにした。
車を出してしばらくして、豊海埠頭に行きたくなった。以前はよく海を見に車を走らせていたのだが、そういえば最近行っていない。一昨年に車を乗り換えてからは一度も行っていないように思う。
埠頭の先に着くと、太陽が西の空に沈みかけていた。車を降りると寒さを実感する。海の際なので余計に寒い。だが、その空を見ていたら寒さは気にならないわけではないが、心が温かくなるというか、そんな気持ちになった。
雨雲と言うか雪雲と言うか、灰色の雲が垂れこめていた。だが、その先は途切れていて、青空があった。水上を遊覧船がゆっくりと進んでいく。
境界線のあたりの雲がだんだんと夕日に染まっていった。何だろう、神々しいと言ったら言い過ぎかもしれないが、その空の移り変わりをずっと見ていた。
一隻の屋形船が提灯を灯して海から上がってきた。冬空の下の舟遊びがうらやましい。
あの屋形船は浅草に向かったのだろうか、昨年の今頃は何度も足を運んだが、今年はまだ行っていない。再来週、行ってみようかどうしようか、まだ迷っている。
横浜そごう内のそごう美術館で開催されている『三代徳田八十吉展』を観に行った。一瞬テレビに映った作品を観て、「これは」と思ったのだが、ついつい行きそびれていた。
会場に着いたのは14時を少し回った頃だったのだが、ちょうど学芸員の方による解説が行われていた。ただ「行って観てみたい」という気持ちだけで、ネットで少し確認したくらいでは、その作品や人となりを理解するには足りなすぎる。だから、こうした企画はありがたい。
ガラス質に包み込まれた作品は、彩色前にグラインダーや紙やすりを用いて丹念に面を整えられる。ほんの小さな穴すらも、溶けた釉薬がその穴に溜まり、その流れを乱してしまうからという理由で埋められ、なめらかな面が作られていく。そして、その面に下書きをし、グラデーションを出すために釉薬をのせていく。そんな説明を聞かなければ、ただ美しいというだけの感想しか残らなかったかもしれない。それにしても、ガラス質が冷えるときに描く細かなヒビまでも美しい。これらの作品を生み出した三代目は一昨年亡くなられたとのことで、それは残念ではあるが、彼の娘さんが四代目となり、新たな九谷焼をつくっていくのだろう。
次に、すぐ隣の日産ギャラリーに向かった。今話題の電気自動車『リーフ』を見てみたかった。展示車両に乗っただけでは、力強い加速などの特徴がわかるはずもなく、ただ、新しい車だということを感じただけだった。
ドラマ『Q10』を観ていた時、「電気自動車ってロボットのようなものなのかな?」と思ったが、それを確かめるにはまだ時間がかかりそうだ。そして、我が家の車が電気自動車になるには、さらに時間がかかるだろう。
もう一か所、寄ってみたいところがあった。新しくなったNHK横浜放送局で『ハート展』が開催されていることを知ったのは昨日の夜だった。以前一回観に行ったときに感じた思いを、もう一度味わいたいと思った。ホームページには「障害のある方が綴った一編の詩に対して、各界で活躍する著名人やアーティストが「ハート」をモチーフにした様々なアートを添えた、50組の詩とアートによる展覧会」と書いてあるが、その詩がいい。飾りがない。そして、そこに添えられたアートがその詩と合わさり、世界を広げる。素敵な言葉を忘れないように、ここでも図録を買い求めた。
この建物は神奈川芸術劇場も入っていて、多くのお客さんで賑わっていた。
すぐ近くには山下公園。黄昏時の氷川丸やマリンタワーを横目に見ながら、休む場所を見つけられず、結局駅から電車に乗り帰途に着いた。
充実した休日であっただろうか。でも、さまざまなものと出会ったのだから、それだけでも充実している。