ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

源氏物語 <夕顔>

2008-09-21 | 源氏物語覚書




『源氏物語』は膨大な物語なので、
恋愛においては、不倫あり、少女趣味あり、失敗談ありだし、
政治的には権力闘争に巻き込まれ失脚もします。
また人生においては光と闇の部分が描かれているなど、
多彩な内容でこの一冊でいろんな話を楽しむことができます。

その中でもこの<夕顔>の巻は、なんとホラー仕立て。
この時代では定番の、物の怪が出てくるのですよ~
古典の教科書にも出てきた有名なエピソードですね。


時期的には<帚木><空蝉>の後になるのでしょうか。
源氏の君は17才。
このころ、六条に住む女性のところに通っていました。
この女性、先の皇太子の未亡人という高貴な方で、
7才年上ながらも、教養も深い美貌の才女です。
そう、この方が有名な六条御息所。
『源氏物語』はこの女性がいなければ、おもしろさが半減するのではないか、と
思われるほど重要なキャラクターです。

その六条御息所のところで一夜を明かし、源氏の君が帰るシーンがあるのですが、
ここの描写がすごくいいのです
まだ疲れが残ってて、物憂げに源氏の君を見送る六条御息所。
一方源氏の君は、見送りに来た侍女の中将の君にちょっかいを出すんですね。
といっても、手を出すわけではありませんよ(笑)
和歌のやり取りがあるのです。
でも、その侍女はさらりとかわすんですね~

愛人の侍女に歌を詠む源氏の君もたいしたものですが、
それをさらりとかわす侍女もたいしたものです。
美しい情景とともに、このさりげない戯れが風流だなあ、と思います。
このときの源氏の歌に「朝顔」が出てきます。
これって、「夕顔」との対比なのでしょうね。



ところで若い源氏の君、高貴な女性をようやく自分のものにしたにも関わらず、
他の身元もよくわからない妖しげな女性にメロメロになってしまいます。
ほんとに、これだから男の人って・・・
と思わずにはいられません。

この女性が住んでいるのは、小さな家の建て込んだ五条界隈。
源氏の君にすれば物珍しい所です。
垣根に咲く白い夕顔が縁になってその女性と知り合ったことから、
この女性を夕顔と呼びます。

この夕顔という女性、私はどうもピンときません。
頼りなくて、何考えているのかわからなくて。
でも、男性はこういうなよなよっとして、自分のいいなりになる
謎めいた女性がいいのでしょうね。
私はどちらかというと、六条御息所のようなはっきりとした女性が好きですが。


まあ、そんな夕顔の魅力に源氏の君もぞっこんで、のめりこんでしまうのです。
そしてよせばいいのに、彼女を廃院に連れ込み、ふたりだけの時間を楽しみます。
そして、そこで事件は起きたのでした。

ふたりでいちゃつきながら、一方で源氏の君は
宮中では自分を探しているだろうな~とか、
六条御息所のところへ行ってないけど、恨んでるだろうな~
でも、彼女といるとどうも窮屈で息苦しい。
こっちの方が気楽だし、などと不埒なことを考えています。

そんな後ろめたい気持ちでいるから出てくるのですよ~
そう、枕元にぞっとするほど美しい女が!
うなされて目覚めると、灯りも消え、侍女の右近もひどく脅えています。
暗闇の中人を呼び、ようやく紙燭がきてよく見ると、
なんと夕顔はすでに息絶えていたのでした・・・。

あまりにも急な出来事に動転する源氏の君。
初めて人の死に直面し、それがまた愛した女性なのですから。

やっとのことでお供の惟光を探し出し、
後の始末を惟光が一切引き受けます。
この惟光という人物は、源氏の君の乳母の子どもで、
特に彼のlove affairにはかかせない人物なんですね(笑)

はじめのうちこそ気丈にふるまっていた源氏の君も、
夕顔の死のショックから立ち直れず、彼自身病に臥します。
そのお見舞にやってきたのが友人の頭の中将。

実は夕顔は、雨夜の品定めのとき頭の中将が話した女性、
─おっとりした女性で、頭の中将との間に女の子までもうけたが、
妻の実家から脅かされたため姿を消した常夏─
と同一人物だったのです。
そして、その娘があとで玉鬘(たまかづら)という名で出てきます。
もちろん、このとき頭の中将はそんなことは知りません。

そのころ、空蝉も伊予の介について旅立ちます。
源氏の君は彼女の身代わりにずっと持っていた小袿を
和歌とともに彼女の元へ返します。
この巻で、源氏の君は空蝉と夕顔の二人の女性を失ったわけです。
まあ、何かと評判のよい源氏の君にも、
こういう秘密にしていた恋愛もありましたとさ、というお話。


それにしても、枕元にいた美しい物の怪とは
一体誰だったのでしょうね・・・。

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源氏物語 <空蝉>

2008-09-04 | 源氏物語覚書
『源氏物語』を読んでて思うのは、
各巻の題名が趣深くていいなあ、ということです。
この「空蝉」という言葉もそう。
蝉のぬけがらという意味がありますが、
季節感があるし、いかにもはかなげで、
日本語の美しさというものを感じさせますね



話としては前の<帚木>の続きです。

伊予の介の後妻のつれない態度に、ひどい女だと恨むもののあきらめきれず、
源氏の君は小君にもう一度機会をつくってくれるよう頼みます。

その女の方はというと、源氏の君からの便りが途絶え、
怒ってあきらめてしまわれたのなら悲しいけれど、
こんな密か事は終わりにしなければ、と思っています。
しかし本心は、自分の仕向けたこととはいえ、
このまま忘れられてしまうなんて辛く悲しい・・・。
揺れ動く女心ですね。

ある夜、とうとう源氏の君は小君の手引きで再び女の下へ訪れます。
その夜は伊予の介の娘(つまり女にとって継娘)が来ていました。
なんと、源氏の君はふたりが碁を打っているところをこっそり覗くんです。
暑い夏の夜、着物もはだけてくつろいでいるところをですよ!


今のご時世だったら犯罪になりかねないこの覗き見も、
この時代はけっこう多かったようなんですね。
高貴な女性は顔を見られるのも恥かしかった時代。
見てはいけない、と思うと余計に男心をそそるのでしょう。
『源氏物語』の中では覗き見のシーンがたくさん出てきます。
(顔も性格もわからないのに、噂だけを信じてその女性の下へ通う、
 というのも今では考えられない話ですが)

この時代、建物の構造から考えても、女性の姿が全く見れない
なんてことはないと思うのです。
あちこち開けっ放しで、風で御簾が揺れたら中が丸見えだし。
これって、女性のほうもわかってて、
ひょっとしたら見られることも意識してたのではないか、とすら思います。
(そしてチラ見した人が、誰それの姫は美しいと言いふらすとか)


覗き見のあと、夜も更けみんなが寝静まったころ、
源氏の君は女の閨に忍び込みます。
ところが女の方は気配に気づき、かけていた薄衣だけを残して
逃げ出してしまいます。
実はこのとき、例の継娘が一緒に寝てたんですね。
とばっちりを受けたのはこの継娘。
源氏の君はてっきりあのときの女だとカン違いして(!?)
あれ、この前とはなんか違うなあ~と思いつつ、
その娘と夜を過ごしてしまうんですよね。

あとで気がつき、まっ、しゃーないかってことで、
その継娘には適当にうまいこと言って取り繕うんです。
当時真っ暗闇とはいえ、なんといいかげんな!
覗き見したとき、ふたりの体格が違うことはわかっていたでしょうに。

それでも、またあの女に逃げられた、と未練たっぷり。
残されていた女の薄衣を持ち帰り、空蝉の歌を詠みます。
それでこの女のことを「空蝉」と呼ぶようになったわけですね。

もしもこの夜、源氏の君の想いに応えていたら、
身分も低い平凡な彼女が、彼にとってこれほど
忘れがたい女性とはなっていなかったことでしょう。
拒み続けたからこそ、思い出に残る女性となったわけですね。


『源氏物語』に出てくる女性の中で、
どの女性が好きか、自分はどのタイプだと思うか、
ということがよく話題になりますが、
私が一番親近感を抱いたのがこの空蝉です。

平凡な人妻が、雲の上の存在のような源氏の君と
一夜を過ごしたんですよ~
忘れられないけど、このままだと辛く惨めな思いをするのは
目に見えてる。
それではプライドが許さない。
辛いけどもうこんなことはすまい、と頑なに拒む空蝉。
そう決心しながらも、やはり心は思い乱れるわけです。

空蝉視点で見ると、この巻は揺れる女心を描いた
せつない物語となっています。
しかし、一方で源氏の君にしてみれば、
せっかく忍んで逢い行ったのに思い人には逃げられ、
カン違いして他の女性と一晩過ごしてしまったという
なんともさまにならない失敗談。
この巻は、意外にそういうドタバタの喜劇的要素もあるんですね。

ふたりのとばっちりを受けてかわいそうなのが空蝉の弟の小君。
姉の空蝉からは源氏の君の手引きなんかして、と叱られ、
源氏の君からは、これだから子どもは役に立たない、と八つ当たりされ、
良かれと思ってしたことなのにね

そうそう、もうひとりかわいそうな子(?)がいました。
カン違いで源氏の君と一晩過ごした継娘、軒端の荻。
後朝の文ももらえず、それっきり。
空蝉と対照的に軽そうな女性として描かれてはいましたが、
文も出さないとは、女性にまめな源氏の君の意外な一面でした。


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源氏物語 <帚木2>

2008-08-28 | 源氏物語覚書
雨夜の品定めのあと、雨もやみ、源氏の君は久しぶりに左大臣邸
(つまり葵の上のところ)へ行かれるのですが、
その夜は方角が悪いとのことで、
どこかへ方違え(かたたがえ)しなければいけません。
*方違えとは、陰陽道に基づく風習のひとつです。
 外出のとき天一神のいるという方角をさけ、いったん違う方角へ出かけて一夜を過ごし
 わざわざ違う方角から目的地に向かったそうです。めんどくさ~

それで紀伊の守の邸へ行きます。
そこにいたのが紀伊の守の父、伊予の介の若い後妻。
その前の話の中で、中流の女性がいいなどという話を
聞いていた源氏の君は興味津々。
とうとう、その若い後妻の寝ている場所を探しあてます。
驚いたのはその後妻。
しかし、相手が源氏の君とわかり、抗うこともできませんでした。

しかし、これってひどい話ですよね
当時はこんなこと、当たり前だったのでしょうか。
方違えで泊めてもらったお宅の、若い奥さんを寝取っちゃうなんて!

かわいそうなのはこの女性。
年の離れた伊予の介の妻であることに不満は持っていたかもしれません。
でも、半ばあきらめながらも妻として平穏な日々を送っていたであろうに、
突然、若く美しい源氏の君を知ってしまったわけです。
う~ん、残酷・・・。

身分も違い、年上で、器量もそれほどよくない自分なのに、
源氏の君とこんなことになってしまって、と思い乱れます。
せめてまだ結婚する前であったならと悔やみ、
こんなことが人に知れたらどうしようと心配します。
そして、源氏の君が恋しいがゆえに、
二度とこんなことにはなるまい、と決心し、
この後も頑なに源氏の君を拒み続けるのですね。
あっぱれです(笑)

この女性、身分は低いとはいえ、
かなりプライドの高い人だったのでしょうか。
何もかも捨てて恋(源氏の君)に溺れる、
ということができなっかたようです。

よからぬ噂がたったり、そのせいで夫から見捨てられたり、
そういう惨めな自分になることが許せなかったのでしょう。
でも、そのくせ心身ともに若い源氏の君が忘れられず悶々としています。
このあたり、とてもリアルに女性の心情が描かれていて、
紫式部の鋭い洞察力に驚きます。
彼女にもこういう経験があったのかなあ、と思ってしまうほど。

そんな女性の気持ちも知らず、
ここまで拒絶された経験のない源氏の君は、
かえって忘れられなくなってしまうんですよね。

おまけに、この女性の弟を小君と呼んで側におき面倒をみます。
もちろん下心あってのこと(笑)
この小君に手引きしてもらい、再び伊予の介の邸へ忍んで行きますが、
やはり拒まれ、あきらめざるをえませんでした。

ちょっとショックだったのは、拒まれたあと、
源氏の君はその小君といっしょに寝ちゃうんですよ。
えっ、これって・・・17歳の源氏の君に、そういう趣味があったの!?
それとも、武家社会においての殿様と小姓のように、
貴族社会でもこういうことは一般的だったのでしょうか?
今回読んで初めて気づき、とても驚いてしまいました。


巻名にもなっている帚木(ははきぎ)というのは、
源氏の君が詠んだ和歌に出てきます。
一体何の木なのだろう、と広辞苑で調べてみると、
<信濃の薗原にあって、遠くから見るとあるように見え、
 近く寄ってみると形が見えないという伝説の木>
ということでした。

せっかくそばに寄っても見えない(会えない)女性を
この帚木にかけた、うまいタイトルのつけかたです。


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源氏物語 <帚木1>

2008-08-26 | 源氏物語覚書

        『源氏物語 巻一』
         瀬戸内 寂聴 訳


『源氏物語』のレビューを書こうと思い立ってから、
早速壁にぶち当たっています(泣)

読みながらメモはとっていたものの、いざ書き始めると・・・、
もう一度読み直さないと、とてもじゃないけど書けない。
とにかく長~い物語なので、細かいところはわすれちゃうわけですよ。
(細かいところだけじゃないけど・・・爆)

で、もう一度読み直すのなら、と、図書館で
瀬戸内寂聴さんの訳を借りてきました。
以前手にとったことはあったのですが、
今回読んでみると、なんと読みやすい!
訳というより、現代作家が書いた平安時代の物語、という感じです。
それでいて、文章に流れるような美しさがありました。
やはりブームになっただけのことはありますね。



    *    *    *



「雨夜の品定め」で有名なこの巻では、源氏は17歳になっています。

五月雨の降る夜、源氏の君は宮中で
物忌み(ものいみ)のため宿直(とのい)しています。
*物忌み・・・凶事を避けるため、家にこもって慎むこと
*宿直・・・宮中などで、宿泊して勤務すること

そこへやって来たのが友人の頭の中将(とうのちゅうじょう)。
この頭の中将というのは、左大臣の嫡男で(つまり葵の上の兄弟)、
源氏とは友人であり、よきライバル。
退屈しのぎに、源氏の恋文をあれこれ見たがります。
それから話が恋愛談義になってきたところへ、
左馬の頭(さまのかみ)と藤式部丞もやってきます。
いずれも好色者で、男同士の遠慮のない女性論が弾むわけですね。

青二才たちが、あんな女性がいいとか、
こんな女性には困ったとか、
まあ、いろいろ好き勝手言ってくれてます(笑)
女性である紫式部が、こういうことを書けるというのも驚きです。

そして、それらの話の中に、ちゃんと次の伏線がはってあるわけですね。
頭の中将の、姿をくらました女性の話は「夕顔」へ、
中流の女性がいいという話は「空蝉」へ。
紫式部という人は、けっして行き当たりばったりで
この小説を書いていたのではなく、
きちんと構想を練って書いていたということがよくわかります。
まだ小説の手本もそれほどなかったであろう時代に、
すごいことだなあ、と思います。

彼らがいろいろ話している中、当の源氏は話を聞きながら
物思いにふけったりしています。
実はここが怪しいのですね。

「桐壺」の最後に、義母である藤壺への憧れが書いてありましたが、
なんと源氏の君は帝の妃であるこの藤壺のところへ忍んで行き、
一夜を過ごしてしまうのです。
ところが『源氏物語』の作品の中には、その部分の描写がありません。
「若紫」の巻で二度目の逢瀬が描かれているだけです。

だから読者は想像するのみなのですが、この巻の冒頭に、
源氏の君は苦しい恋から抜け出せない困った癖があり、
怪しからぬ振舞いに及ぶことがある、という描写があったり、
頭の中将が恋文をあさっているところで、
高貴な方からの文は深くしまってあるに違いない、という描写で、
このときすでに藤壺と関係があったあとなんだなあ、
と思うわけです。

また一説には、「かがやく日の宮」という巻が
この「帚木」(ははきぎ)の前にあって、
そこに描かれていたのではないか、
その巻は(意図的に?)失われたのではないか、
とも言われているそうです。

確かに、藤壺との関係もですが、
重要人物である六条御息所との出会いは書いてないし、
朝顔の姫君の名前なども突然出てくるし、
そういう巻があったと思われるのもうなづけます。

でもないからこそ、かえって読者の想像力(妄想?)を
かきたてているのかもしれませんね。


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源氏物語 <桐壺>

2008-08-16 | 源氏物語覚書
いづれの御時にか女御更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、
いとやむごとなき際にはあらぬがすぐれて時めき給ふありけり。

この文章、高校の古典の時間に、舌をかみそうになりながら
声に出して暗記された方もあるのではないでしょうか。
これが膨大な長編小説『源氏物語』の冒頭です。
ここから物語が始まるわけですね。

「いずれの御時にか」(=いつの御代のことであったか)
でわかるように、この物語は全くのフィクションです。
だから、登場するのは架空の人物。
「源氏物語」というタイトルだからといって、
「平家」に対する「源氏」の物語ではありません(笑)
まあ、こんなカン違いをするのはウチの主人ぐらいでしょうが

ある帝の時代に、高貴な生まれではないけれど、
非常に帝の寵愛を受けた女性がいました。
その女性の御所での住まいが桐壺であったことから、
この女性は桐壺の更衣と呼ばれています。

ここで補足しておくと、女御というのは天皇の後宮に使えた女官の
身分のひとつで、更衣というのはその下になります。
だから、桐壺の更衣は身分としては低かったわけですね。
なのに帝から目に余るほどの寵愛を受け、
他の女房・更衣から嫉妬され、意地悪されます。
その挙句、心身ともに疲れ果てたのか、
美しい男君を生んで亡くなってしまいます。
いつの世も、女はこわい・・・。

この女性の産んだ男君というのが、主人公となる光源氏の君。
とにかく生まれたときから美しい。
愛する桐壺を失くした帝も、そばにおいてかわいがるわけです。

この桐壺の更衣という女性、父親が亡くなっているため、
しっかりした後見人というものがいませんでした。
当時の女性にとって、この後ろ盾がいない、ということは、
非常に心細いことなのですね。
どれほど帝から愛されようが、結局、右大臣の娘である
弘徽殿の女御(こきでんのにょうご)の勢力にはかないません。
東宮(皇太子のことです)には、この弘徽殿の女御の御子がたちます。

光源氏は美しいだけでなく、漢学から音楽にいたるまで
素晴らしい才能の持ち主でした。
帝はあるとき、高麗の人相見に源氏の君を見せたところ、
帝王の位につく人相だけれど、そうなると国が乱れ、民が憂える。
天下の政治を補佐するという相でもない。
と言うのです。

この占いは、物語の展開のひとつの布石となります。
『源氏物語』というのは、光源氏の恋愛遍歴を書いた物語のように思われますが
(もちろん、それも重要なテーマですが)
いわば光源氏のサクセスストーリーでもあるわけですね。
この、始まりの部分で、彼の今後の人生を予言しているわけです。

そして、帝はあれこれ悩んだ挙句、源氏の君を皇族ではなく
臣下にして「源」の姓を与えることにします。


ここまで長々と説明が多くなりましたが、
この巻で重要な部分がもうひとつあります。
それは、藤壺の登場です。

桐壺を失い、悲嘆にくれていた帝に、桐壺によく似た
藤壺の女御が入内するのです。
自分の母親によく似た美しい女性。
まだ幼い源氏の君が、この女性を慕うようになるのも頷けます。
そして、ここから源氏の君の色恋沙汰が始まるんですねー(笑)

12歳で元服し、左大臣の娘、葵の上と結婚しますが、
葵の上は源氏の君より年上。
そのせいか、どうも打ち解けません。
一方源氏の君は、藤壺の女御を恋い慕いつづけます。
この物語の展開で、藤壺という女性はキーパーソンです。

とまあ、この桐壺の巻は、今後の展開に向けて、
あれこれ伏線がはってあるとでも言ったらいいでしょうか。
読んでいて、それほどおもしろい巻ではありませんが、
重要な人物が出てくるので登場人物の名前は要チェックです。





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