ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

彼女について

2009-02-20 | 読むこと。

     彼女について
     よしもとばなな


新聞の書評を読んで、あっ、読みたいな、と思った作品です。

ただ、その書評の中にストーリーの結末が書いてあって、
その結末を知ったからこそ読みたい!と思ったものの、
結末を知ってしまったがゆえにそれを意識してしまい、
何も知らずに素直に読んでみたかったなあ、とも思いました。

いつ来るか、とどきどきしながら、読む進むにつれて、
あれ?そんなことあり得ないよね?と思い始め、
ああ、そういうことだったのか・・・と納得。
持って回った言い方ですみません(笑)

ただ、こういう読み方だったので少し重く感じられ、
長い話ではなかったのに時間がかかりました。
何も考えず、この不思議な世界を満喫したかっなあ。

ということで、あまり詳しくは書きませんが・・・

双子の母親を持つ、由美子といとこの昇一。
凄惨な事件で家族を失った由美子は、昇一とともに
失われた過去を取り戻す旅に出ます。

とてもシンプルに書くと、そういうストーリーです。

魔女、降霊会、殺人など、どろどろしたおぞましい出来事がでてきますが、
それらが沈殿したできた上澄液のような透明感と、
どこか死の影が漂う、ひんやりとした冷気を感じさせる独特な世界です。

登場する人たちがみんな優しくて、由美子でなくても
癒され、包み込まれるような感じがします。
ラストは衝撃的であるとともにせつなく、
じんわりと温かい気持ちになります。

日々、家族や友人と過ごす、何気ない日常の大切さ、
人々のぬくもり、ささやかな幸せを感じずにはいられません。
今、生きていることの素晴らしさ。
お風呂の温かさ、ごはんのおいしさ、空や風の具合・・・
人生って、そんな些細なものの積み重ねなんですね。

そして、いつか大切な人を失ったとき、
もう一度この本を手に取るかもしれません。
ひっそりと喪に服すために・・・。
コメント (6)
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『パワー 西のはて年代記Ⅲ』

2009-02-17 | 読むこと。

          『パワー』
          ル・グウィン


最近、すっかりご無沙汰になってしまった図書館。
先日久しぶりに行って、児童書のコーナーで
じっくり本の背表紙を眺めていたら見つけたんです。
ル・グウィンの「西のはて年代記」第3巻『パワー』。
昨年の夏に出版されてたのすら、知りませんでした

昨年末から軽いエッセイしか読んでなくて、ちょうど
ずっしりと重みのある物語を読みたいなあ、と思っていたところ。
ぱさぱさに乾いた心に、文章がじわ~と沁み込んでくるようでした。
これもル=グウィンが描く、文字の持つパワーですね~



Ⅰの『ギフト』では、高地に住み強すぎる<ギフト>を持つオレックが、
Ⅱの『ヴォイス』では、侵略された都市国家アンサルに住む
少女メマーが主人公でした。
この『パワー』は、幼い頃水郷地帯から姉とともにさらわれ、
都市国家エトラで奴隷として育った少年ガヴィアの物語です。

オレックやメマーと同様、ガヴィアも不思議な力を持っています。
それは幻<ヴィジョン>を見ること。
これから起こることが見えてしまう力です。
でも、姉の忠告からこのことは誰にも言わず、
ガヴィア自身これがどういうことなのかわかりません。

ガヴィアはエトラの館で姉とともに奴隷として育ちますが、
恵まれた環境で教育も受け、詩や歴史が大好きな少年になります。
奴隷という身分に疑問を抱くこともなく、主人を信頼しています。
しかし、姉のサロを悲惨な事件で失い、主人への信頼を裏切られ、
彼は悲しみから逃れるように逃亡し放浪します。

逃亡奴隷がつくった自由独立の国<森の心臓>で暮らしたり、
自分の故郷である水郷地帯で自分の持つ力の秘密を知ろうとしますが、
彼の求めるものはどこにもありません。

姉を失い、そこから逃げ出し放浪するガヴィアでしたが、
いろんな人と出会い、助けられ、だんだん事実を受け止めるようになり、
変わっていきます。
それは奴隷だった彼が自由というものを意識し、
手に入れていく旅でもありました。
そして、ひとりの女の子を救い、生きるか死ぬかの瀬戸際に立ちます。
これまで何度も見たヴィジョン。
重荷を背負って川を横切れば、死から逃れられる・・・。
追い詰められた彼は少女を肩車して流れの速い川へと入っていきます。
そして、<ヴィジョン>に導かれて彼がたどり着いたのは・・・。


三部作の中では一番分厚い作品ですが、
ガヴィアに次々と起こる試練にぐいぐい引き込まれ、
長さを感じさせず一気に読めます。
物語としては一番読みやすいかもしれません。

作者のル・グウィンは、この作品の中でもいろんな問題を提起し、
ふと考えこんでしまいます。
奴隷制度、ジェンダーの問題、社会・文化の多様性。
タイトルでもわかるように、そこには力を持つ者と持たない者の関係があり、
他者の自由を強制的に奪う力が存在します。

逃亡した奴隷たちが森の中につくった自由都市でさえ、
そこでは男たちが支配し、女は力を持ちません。
どこでも底辺にいる弱者は女や子どもたち。
連れ去られてきた若い女性は性の対象でしかないのです。
そんな中で、<森の心臓>に住む中年の女性ディアロの
威厳や静けさはとても印象的でした。

また、水郷に住むガヴィアの叔母のゲゲマーなど、
高圧的な力で支配しようとする男性に対して、
権力もなく不浄とすらされた女性の持つ力は
『ゲド戦記』のテハヌーに通じるものを感じました。

そして、この「西のはて年代記」全3巻で、一貫して
描かれてきたのは、やはり言葉の持つ力でしょう。
自分というものを知るのも、人の心を動かすのも、「言葉の力」です。
言葉によって人は考え、創造し、文化を継承していきます。
そして、癒され、励まされ、生きる力を得ます。
また言葉で伝えることによって、他者と理解しあえるのです。



話はそれますが、昨夜ニュース番組でエルサレム賞を受賞した
村上春樹氏のスピーチを聴きました。
この賞の候補にあがっていると知ったとき、
受賞しても行かないほうがいいんじゃないかな、と
なんとなく思ってたんです。
でも、彼の演説を聴いて、ああ、春樹氏らしいな、と感じ、感動すらしました(笑)

一作家として、武力ではなく言葉の力で人の心を動かす、
それをまさに実践されたのです。
イスラエルにいて批判を公の場でを口にするのは、
とても勇気のいることだと思います。
辞退して抗議の意を示すのもひとつの方法ですが、
その場へ行き話すことを選んだ彼を、同じ日本人として誇りに思いました。

それにしても、言葉の持つ力はある意味恐ろしいですね。
人を感動させる一方で、
一瞬にして世界の笑い者になってしまったりもするのですから

コメント (2)
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