『ゲド戦記外伝』
U.K.ル=グウィン
以前『ゲド戦記Ⅴ アースシーの風』を読んだあと、
この外伝が出版されることを知ってはいましたが、
内容的になんとなく難しそうと思い込み、
まだ読んでいませんでした。
先日たまたま図書館でこの本を見つけ、
久しぶりにゲドの世界に浸って見たいなあ、と
(いや、ホントはちょっと現実から逃避したいと・・・)
と手にとりました。
この本には五つの物語が収めてあります。
アーキペラゴの歴史、ロークの学院の成り立ち、
魔法使いのこと、人と竜のことなど、
本編を読んだあとにこれを読むと、
この、ちょっとわかりにくい世界のことがとてもよく理解でき、
非常に興味深く読むことができました。
『ゲド戦記』を読むにあたって、
あるいはどのファンタジーでもそうですが、
そこには独特の世界観があります。
この世界の成り立ち、まじない師と魔法使い、
生と死の石垣、ロークの学院のそれぞれの長、
何より理解しがたかった竜と人との関係などなど。
本編を読み進むにつれ、
少しずついろんなことがわかってはいくのですが、
この外伝を読んでより理解が深まったような気がします。
そしてなにより、作者がこの世界に対して、
深い洞察力と愛情を持っていることを強く感じました。
ル=グウィン女史の作品をいつも安心して読むことができるのは、
彼女の創り出す世界が上っ面だけのファンタジーの世界なのではなく、
根底に何か確かなものがある、と読者が感じるからなのでしょう。
実在の世界ではないのにも関わらず、
このア-スシーでも時は流れています。
この架空の世界でも、歴史は変わり、
人々の考えも生き方も変化していきます。
ロークの学院ができたころは、
男でも女でも一緒になって魔法を教えあってきたのに、
いつのまにか女性は穢れたものとして排除され、
魔法使いは自ら禁欲の呪文で女性を避けるようになったとのことです。
なるほど、ゲドとテナーが結ばれるのに、
あれだけ時間がかかったのも納得できますよね
そんなロークにひとりの女が訪れ、
その女を迎え入れるかどうか、
長の間たちでひと悶着あった、というのも頷けます。
そして、その女こそ『アースシーの風』で
登場するアイリアンなのです。
本編だけでは少し唐突な感じがしないでもありませんが、
これを読むと彼女の存在がより重く感じられます。
ゲド戦記の4巻、5巻ではフェミニズムの問題など
現代と通じるものがあり、
単なるファンタジーで終わっていません。
そこには1巻から外伝に至るまでの作者の時間の流れと、
アースシーの時間の流れと、
そして読者である私たちの時間の流れがあり、
読むごとに、つまり、読者の年齢や経験に応じて、
何か新しい見方や発見があるように思います。
あ~、おもしろかった~、だけでは終わらない、
ハイファンタジーならではの魅力でしょうね。