めずらしく雨も雪も降らなかった休日、自転車に乗って図書館へ行きました。
ここ数年なかなか読書がすすまなくて、図書館へ行く頻度もめっきり減っています。
特にこの季節、外へ出るのも億劫で。
でも、年末年始よく働いたので(誰もほめてくれませんが・笑)、そのご褒美に
ちょっと本の世界に浸りたい・・・ならば、「あの本」を借りてきちゃおう、
と思って重い腰を上げたわけです。
最近は、図書館へ行くたび「あ~、久しぶりだなあ」と感じてしまう。
それだけ遠ざかってしまっているわけですね。
借りるつもりの本を手に取り、少しばかりうろうろすると・・・
こんなときにかぎって、読みたいと思いながらまだ読んでない本がずらり
『雪と珊瑚と』梨木果歩、『六条御息所源氏がたり 空の章』林真理子、
『一刀斎夢録』浅田次郎、そして『獣の奏者 外伝』上橋菜穂子。
しかも、手には今日借りるつもりの『氷と炎の歌4 乱鴉の饗宴』上下2冊。
(読み出すと止まらないから、ずっと我慢してた本なのです)
まるで、タイプの違う5人の男性から一度にプロポーズされたような・・・
いや、ちょっと違うか・・・
その中で、まずはずせなかったのがこの『獣の奏者 外伝 刹那』です。
この作品の本編はアニメにもなりました。
あまりに子どもっぽい絵柄にがっかりして私は観ていませんが。
作者ご自身が書かれているように、この作品は児童文学ではありません。
上橋作品は、守り人シリーズでもそうでしたが、過酷な人生を
背負わされた主人公が描かれ、ファンタジーといっても
その主人公の心情はリアルで、大人の私が読んでも心を揺さぶられ、
充分読み応えがあります。
この外伝は、久しぶりの読書ということもあり一気読みでした。
以前<闘蛇編・王獣編>を読んだ後、私は主人公エリンとイアルに対して
なんとなくもどかしい感じを抱いたのですね。
いくらストイックなふたりといっても・・・と。
それが<探求編・完結編>ではすでに夫婦になってるやん!
ファンならすっごく気にかかる、このふたりの恋のいきさつ。
それが、この外伝の中の「刹那」で書かれています。
これははっきりいって大人の恋愛小説です(笑)
本編では王国の運命に関わる者として、過酷で孤独な日々を送っていたふたり。
王国における自分の立場と、自分自身を生きようとする感情との葛藤に苦しみながら、
そのふたりが互いに魅かれあい、不器用ながらも少しずつ心を開いていく様子が
なんともせつなくて、読んでいて心に沁みてきます。
それが、エリンの命がけの出産を、ただ待つしかないイアルの語りとして
書かれているので、彼の苦悩やエリンの教導師エサルの苛立ちが手に取るように
わかり、臨場感もたっぷり。
本編では王獣の生殖に関わることが重要なテーマとして出てきますが、
そのつながりからいっても、エリンが人を愛し、さまざまな試練が待ちうけようとも
その人の子どもを生む決断をしたこの短編で、物語は完結したような気がします。
これ以外に、エリンのよき理解者である教導師エサルの若かりし日に
経験した苦い恋の話「秘め事」や、エリンの息子ジェシのエピソードを
書いた「初めての・・・」が収められています。
あとがきに書かれていますが、この作品は自分の人生も半ば過ぎたな、と感じる
世代に向けた物語になったとのこと。
私など、まさにそんな年代なのですが・・・
最近は、レンアイ小説を手に取ることもなく、どちらかというと侘び寂びの日々(笑)
でも、この作品を読みながら、ふと、もうすっかり忘れていた自分の若いころの感情を
思い出したり、そんな思いを懐かしむような気持ちになりました。
”人生というものがどれほど速く、あっけなく過ぎ去ってしまうものか・・・"
それがわかるから、過ぎ去った日々がこんなにもいとおしく、一瞬一瞬が
かけがえのないものに思えるのですよね・・・
本編については、こちらに書きました→<闘蛇編・王獣編><探求編・完結編>