『ルリユールおじさん』
いせひでこ
私は本が好きです。
まだ若かったころ、悩んだり落ち込んだとき、
どうしても身動きがとれなくなったとき、
救いを求めたのは人ではなく、本でした。
今思うと、それはちょっと淋しいことだなとも思いますが、
不確かな人の思いと違って、
本はとても確かなものに思えたのです。
時代を超えて受け継がれていく本。
そんな本に特別な愛情を注いでいる職人さんがいます。
RELIEUL<ルリユール>
フランスで製本・装幀を手仕事でする職人さんのことです。
この絵本では、そのルリユールの手仕事が、
実に丁寧に、愛情深く描かれています。
ある日、少女が大切にしていた植物図鑑が、
こわれてばらばらになってしまいます。
この本をなおしたい。
少女ソフィーはそんな思いであちこち訪ね歩きます。
そんなにだいじな本なら、ルリユールのところに入ってごらん
ルリユールって、本のおいしゃさんみたいな人のこと?
ようやく見つけたルリユールおじさん。
その工房はソフィーにとって、めずらしいものだらけ。
おじさんは、ソフィーの大切な本を
ひとつひとつ丁寧になおしてくれます。
裁断し、糸でかがり、表紙をつくり・・・。
そして次の朝。
ソフィーがおじさんのところへ行くと、
大好きなアカシアの絵が表紙に生まれ変わり、
本の題もあたらしくなっていました。
『ARBRES de SOPHIE』<ソフィーの木たち>
世界で一冊の本です。
本には大事な知識や物語や人生や歴史がいっぱいつまっている。
それらをわすれないように、
未来にむかって伝えていくのがルリユールの仕事なんだ。
その思いは確かにソフィーに伝わったのでした。
ルリユールの仕事はすべて手仕事。
60以上ある工程を、ひとつひとつこなしていくそうです。
おじさんの回想シーンで、
ルリユールだった父親の言葉が印象的でした。
名をのこさなくてもいい
「ぼうず いい手をもて」
職人といわれる人たちの思いを、
なんと端的に表した言葉でしょう。
まだ学生だったころ、ある人に言われたことがあります。
芸術家といわれる人たちは、
気分がのらないと描かない(創らない)、
ということもあるのかもしれない。
けれど、職人さんたちは、
自分の気分に関係なく手を動かすものだ、と。
淡い水彩で描かれたパリの街は、
抑えられた色調がかえってお洒落な感じを出しています。
ルリユールの仕草ひとつひとつが丁寧に描かれいて、
パリにアパートを借りてまで、工房に通いスケッチした
作者の思いが伝わってくるようでした。
*** *** ***
9/30(土)のNHK朝のニュースで、この絵本がとりあげられていました。
ルリユールのおじいさんも、工房の佇まいも、
ほんとに絵本そのままでちょっと感動しました。
今パリでこの絵本の原画展をしているそうです。