万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イスラエルによる国際法上の重大犯罪という問題

2023年10月16日 12時38分03秒 | 国際政治
 パレスチナのガザ地区を実効支配してきたハマスがイスラエルに対して行なわれた奇襲攻撃は、イスラエルに対ハマス戦争の口実を与えることとなりました。イスラエルは、ハマスに対する報復としてガザ地区全域に対して地上戦、即ち、軍事占領作戦を遂行する準備を整えつつあるそうです。仮にこの作戦が実行に移された場合、ガザ地区にあって、ハマス兵であれ民間人であれ、無差別にパレスチナ人が殺戮される事態は目に見えています。

 報道に依りますと、国連人権委員会にあってパレスチナの人権問題を専門とするフランチェスカ・アルバネーゼ氏は、「自衛の名のもとに、民族浄化に相当する行為を正当化しようとしている」と述べたそうです。民族浄化に該当するとすれば、イスラエルは、国際法上の重大な罪を犯したことになります。また、WHOも、パレスチナにて民間負傷者の治療に当たってきた病院に対してイスラエルが退避命令を繰り返している点を指摘し、人道的な見地からこの行為を非難しています。

 こうした人道上の批判を受けて、イスラエルはガザ地区からエジプトへの避難路を確保するなど‘人道回廊’を設けようとしています。しかしながら、この‘人道回廊’の設置も、パレスチナ人に対して‘出て行くか、殺されるか’の二者択一を迫っているに等しく、何れにしても‘パレスチナ人の消滅’が狙いであることは疑いようもありません。

 人の道を踏み外すようなイスラエルの過激な攻撃姿勢に怯んだのか、アメリカのバイデン大統領もパレスチナ人の保護に言及するに至ったのですが、ここで先ずもって問われるべきは、先制攻撃は、相手国国民の虐殺を正当化するのか、という問題です。この問題に対して国際法に照らして回答すれば、当然に、‘正当化されない’ということになりましょう。国際法とは、全ての諸国に対して等しく公平に適用されますので、開戦の事由を問わず、全ての当事国あるいは当事団体に遵守する義務があるからです(イルラエルは、ジェノサイド条約の締約国でもあり・・・)。

 もっとも、戦争法の一般的な適用性については、第二次世界大戦時の苦い経験があります。何故ならば、日本国を含め、敗戦国となった枢軸国側諸国の戦争犯罪については厳しく追求され、国際軍事裁判において厳しい判決を受けたものの、戦勝国となる連合国側諸国の戦争犯罪については、一切、罪を問われなかったからです。前者であり、かつ、真珠湾攻撃を奇襲と見なされた日本国の場合、大戦末期には首都東京を始め全国の都市が焼夷弾による空爆を受けたのみならず、最終局面に至っては、二発の原子爆弾が広島並びに長崎に投下されました。人道に反する民間人に対する大量殺戮でありながら、国際法が公平に適用されることはなく、戦勝国の罪は不問に付されたのです。

 かくして78年前の国際社会では、戦勝国に対する一種の‘適用除外’がまかり通ったのですが、今般のイスラエルの国際法上の犯罪につきましては、第二次世界大戦時の‘勝者不適用’の主張が通用するとは思えません。実際に、イスラエル批判は世界各地から湧き上がっており、仮に、イスラエルが地上戦を敢行した場合、ネタニヤフ首相が、国際刑事裁判所に提訴され、逮捕・訴追される可能性も生じてきましょう。ウクライナ紛争に際してロシア軍の行為が国際法上の侵略犯罪や人道に対する犯罪として批判され、プーチン大統領に対して逮捕状が出されたように・・・。今日という時代にあって、過去の世界大戦の如くにダブルスタンダードが許されるとも思えないのです。

 ダブルスタンダードが許されないとしますと、国際社会では、イスラエルの国際法上の犯罪行為を理由として同国に対して制裁を科すべきとする主張も現れることでしょう。因みに、国際刑事裁判所に関するローマ規定では、集団殺害犯罪(ジェノサイド)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪を重大な犯罪と定めていますが、イスラエルのパレスチナに対する行為は、これら全てに該当する可能性があります。軍事占領のみならず、ガザ地区全域を武力併合するともなれば、誰の目にも明らかな侵略犯罪ともなりましょう。

 ただし、ここで十分に注意すべき点があります。それは、国際法秩序の維持を根拠としたイスラエルに対する制裁が、新たな戦争拡大の要因ともなりかねない点です。アメリカや他の自由主義諸国は、国際犯罪や国際法違反を根拠としたイスラエルに対する制裁に対して消極的な姿勢を示すのでしょうが、他の諸国は、武力制裁の正当な根拠を得たことになります。

 ここで反イスラエルの諸国が対イスラエル戦争に訴えるというシナリオも見えてくるのですが、先に注意を要すると申しましたのは、これこそ、イスラエルの謀略である可能性があるからです。イスラエルが真に戦争を欲しているならば、敢えて自らが犯罪行為を行い、制裁戦争を引き起こそうとするかもしれないからです。世界大戦を起こすという目的を達成しさえすれは、自らが犯罪国家になろうが、悪役になろうが、イスラエル並びに背後に潜む世界権力は、全く構わないのでしょうから(つづく)。

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