報道によりますと、昨年2024年6月に国会で可決成立した「食料供給困難事態対策法」が、今年の4月1日から施行されるそうです。同法の目的は、食料が不足する事態に備え、‘兆候の段階から、政府一体となって供給確保対策を講ずる’ことにあり、どこか、緊急事態宣言の食料版のような印象を受けます。「政府の意思決定や指揮命令を行う体制やその整備」するというのですから。有事を想定してか、食料をめぐる政府の動きが活発化している様子も窺えるのですが、同法は、今般の米価高騰の問題性をも明らかにしているように思えます。
4月1日からの施行に先立って、政府は基本的な運用方針を明らかにしています。お米を含む対象12品目については、国内供給量が2割以上減少し、価格高騰が発生した場合などを「食料供給困難事態」と規定しており、今般の米価高騰が同法の適用対象となるのかは、微妙なところです。
先ずもって、同法が想定している供給不足の原因を見てみましょう。‘供給を不安定化させている要因は多様化している’とした上で、「異常気象の頻発化、被害の激甚化」、「家畜伝染病や植物病害虫の侵入・まん延リスクの増大」、「地政学的リスクの高まり」、「新たな感染症の発生リスクの高まり」、「 穀物等の畜産需要や非食用需要の増加」並びに、「 輸入競争の激化」などを挙げています。今般の米価高騰の原因については猛暑説も唱えられていますので、仮に政府が‘異常気象’をもって供給不足が生じたと見なした場合、今般の米価高騰も、同法の適用対象となる可能性はあります。
もっとも、食糧供給困難兆候・事態の認定については、平時の調査によるものとしています。つまり、政府は、「食料の需給状況、価格動向、民間在庫などの情報収集・分析」した結果をもって、事態の深刻度を判断するとしているのです。となりますと、今般の米価高騰についても、政府は、同法に従って厳正なる調査を開始することとなるのですが、この結果、上記とは全く別の要因によって供給不足が起きているとする結論に達したとしますと、政府は、どのように対応するのでしょうか。例えば、本ブログが推理するように、投機マネーの先物・現物取引市場への流入などが、供給不足を引き起こしていることが判明した場合です。
投機が利ざやの獲得を目的とする限り、常々、値上がり効果を狙った‘買い占め’や‘買い惜しみ’が起きるものです。実際に、昨年の収穫量は6%アップでありながら、流通量事態は不足しているとする指摘があります。お米は、2年間程度は保存できますので、民間にあって大量に‘備蓄’され、倉庫に眠っている可能性も否定はできないのです。あるいは、先物取引であれば海外投資家も自由に参加できますので、何らかのルートで輸出されているのかもしれません(海外で日本米が安値で販売されているとする情報も・・・)。つまり、投機行為によって、小売り段階における供給不足もあり得ることとなります。
実のところ、同法では、上述した‘2割以上の供給減少’の他に、「 国民生活・国民経済への支障の発生(買占め、価格高騰など)」が併記されており、ここに初めて‘買い占め’という言葉が登場します。そして、大きな影響が出る場合を想定し、深刻度によっては1割程度でも異常事態として認定されるとしているのです。ここで、再び、今般の米価高騰が同法の適用対象となる可能性が高まるのです。
買い占めについては、戦後の昭和48年に政令として制定された「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律施行令(買占め等防止法)」が既に存在しているものの、米作は長期に亘り食糧管理法の下にあったこともあり、お米が同法の対象となるのかどうかは不明です。また、今般の対策法に関する説明として、既存の法律では「買占め又は売惜しみが行われるなど問題が明らかとなった場合しか対応を行うことができない」と記されていますので、目下のところ、政府は、米価高騰の原因を‘買い占め’にあるとは認めておらず、同法に基づく措置を取ってはいないのでしょう。しかしながら、仮に、食料供給困難兆候・事態に認定されますと、お米は、同法の対象となります。「事業者への要請など供給確保のための措置」にあって、「その他の食料供給困難事態対策(法第20条)」として買占め等防止法に基づく買い占めの防止を挙げているからです。
仮に諸要件が当て嵌まれば、食料供給困難兆候であれ、食料供給困難であれ、事態同法の適用第一号は、‘令和の米価高騰’となりましょう。結果として、買い占めや売り惜しみを根絶する効果は期待できます。しかしながら、同措置法の内容は政府による統制色が強いという問題があり、必ずしも食料供給困難兆候・事態の認定が望ましいわけではありません。この点を考慮すれば、むしろ、既存の買占め等防止法の対象品目として米穀を指定した方が、供給不足の原因に拘わらず、幅広い範囲でこれらの行為を規制することが出来ましょう。あるいは、政府は、本当のところは同法での取締ができるにも拘わらず、買い占めや売り惜しみは行なわれていないと見なしているのでしょうか。何れにしましても、米価高騰には、先物取引の規制や政府備蓄米の放出のみならず、買い占めや売り惜しみ対策も必要なのではないかと思うのです。