先日5月20日、在日中国大使である呉江浩氏の発言が、メディア各紙でセンセーショナルに報じられることとなりました。日本国民の多くを震撼させた発言とは、「日本の民衆が火のなかに連れ込まれることになる」というものです。同発言の意図は、習近平国家主席が武力併合を示唆している台湾有事に備え、目下、準備が進められている日米同盟強化の動きを牽制することにあるとする見方が有力です。‘台湾の独立や中国分裂に加担すれば’という条件を前置きしているのですから。
もっとも、台湾侵攻については、第三次世界大戦の誘発を狙う世界権力による計画の一環である可能性は高く、純粋に‘中国の夢’の実現を目的としているとは限りません(世界験力の夢?)。昨今の台湾周辺海域における人民解放軍の活動の活発化も、ヘリコプター墜落事故を機としたイラン参戦のシナリオの雲行きが怪しくなってきたために、戦争拡大の第一連結点を台湾に変更したとも考えられます。仮にこの推測が正しければ、上述した呉駐日大使の発言は、アメリカ並びに日本国に対する威嚇というよりも、日本国民の対中感情をなお一層悪化させ、敵愾心を煽るための扇動、あるいは、挑発であったことになります。中国側による‘不都合な発言’については常々隠す傾向にあったマスメディアが喜々として報じたところからしますと、後者の可能性の方が高いと言えましょう。来るべき第三次世界大戦では、日中両国を、ミサイルを打ち合う‘相互破壊関係’に持ち込む予定なのでしょうから。
何れにしましても、呉大使の発言は、日本国民が戦争に巻き込まれる事態が絵空事ではないことを示したのですが、見方を変えますと、中国、あるいは、世界権力は、同発言によって墓穴を掘ってしまった可能性も否定はできないように思えます。何故ならば、同発言の内容を現実に実行しようとすれは、明らかに戦争法違反の行為となるからです。つまり、中国は、‘これから犯罪行為を行ないます’と宣言しているに等しいのです。
一方、今日の国際社会では、国際司法諸機関が、国際法上の違法行為に対して具体的な行動を起こしています。例えば、ICJ(国際司法裁判所)は、今年の1月26日に、イスラエルに対してパレスチナ自治区ガザ地区のパレスチナ人への集団殺害を防止するための暫定的な措置を、次いで今月5月24日には、ラファへの攻撃を即時停止するように命じています。その一方で、ICC(国際刑事裁判所)でも、ネタニヤフ首相を含むイスラエル並びにハマス両者の責任者に対して、主席検察官から逮捕状の発行が請求されています。イスラエルの後ろ盾であるアメリカ等の少数の国はこれらの動きに背を向けつつも、国際社会にあっては、圧倒的に多数の諸国が司法諸機関の措置を支持しているのです。法と理性に照らせば、司法機関の対応は当然のことと言えましょう。国連は安保理における常任理事国の拒否権の前に機能不全に陥るのを常としていますので、国際司法諸機関は、紛争の解決に対する重要性を、日々、増しているのです。
法の支配を確立すべく司法機関の活動が活発化している現状にあって、呉大使が自らの発言が‘犯罪予告’になっていることに気がついていないとすれば、これは、大問題です(もっとも、チベット人やウイグル人に対しては既にジェノサイドを実行しており、犯罪国家となっている・・・)。仮に、中国が同発言通りに日本国を攻撃し、一般の民間人を‘火の中に連れ込め’ば、習近平国家主席も、ICCにおいて訴追されることが当然に予測されます(台湾国民に対しても虐殺すれば戦争犯罪・・・)。ICJも、国際法上の違法行為として中国の台湾侵攻に対処することでしょう。ロシアの軍事介入やイスラエルによるガザ地区攻撃以上に、武力による現状の一方的な変更を実行した中国側に非がある、すなわち、犯罪を構成する違法行為があることは明白であるからです。
呉大使の発言を重く見た日本国政府は、林外相が外交ルートを通して中国に対して抗議したそうですが、遺憾の意の表明では手ぬるく、外交関係に関するウィーン条約の第9条に基づいて同大使を「好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)」として追放すべきとする意見もあります。しかしながら、ここは、在日中国大使個人や日中の二国間関係の問題に留めず、国際犯罪の問題として対応すべきように思えます。全世界の諸国が関わる国際法秩序全体の問題なのですから。そして、台湾の武力併合そのものが、平和的解決を求める国連憲章に明記された加盟国の義務に反するとしますと、国際社会は、台湾有事を未然に防ぐために、あらゆる手段を講じるべきではないかと思うのです(つづく)。