万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

NATOによるウクライナ加盟拒否の思惑

2024年12月05日 12時16分45秒 | 国際政治
 ウクライナのゼレンスキーが提案したNATO加盟とロシア占領地域の現状維持をセットとした停戦案は、早くもNATO側の加盟拒否という壁にぶつかってしまったようです。冷静に未来を予測すれば、何れか一方によって停戦が破られた時点で第三次世界大戦に発展しかねないのですから、NATO側もおいそれとは加盟を認めるはずもありません。

 盧溝橋事件をはじめ、戦争の発端が何者か、あるいは、第三者による工作であった疑いのある場合も多く、当事者双方が遵守しようとしても、外部者の思惑によって停戦の合意が破られるリスクもあります。つい数年前の2022年9月に起きた「ノルドストリーム」爆破事件でさえ、真相が全て明らかになっているわけではありません。この事件では、デンマーク沖のバルト海に敷設されていた天然ガスの海底パイプラインが、何者かの手によって爆破されています。ロシア犯行説をはじめとして様々な説が飛び交ったのですが、仮に、アメリカのウォールストリート・ジャーナル紙が報じたように、訓練を受けたウクライナ兵が同事件の実行犯であり、ゼレンスキー大統領の反対を押し切ってこの工作を命じたのがヴァレリー・サルジニー総司令官であったとすれば、停戦後も同様の事態が起きることは予測の範囲内です。因みに、サルジニー氏は、2024年3月にゼレンスキー大統領によって駐英ウクライナ大使に任命されており、この人事が同氏を‘危険人物’とみた左遷であったのか、爆破の功績を認めての栄転であったのか、あるいは、イギリス絡みの何らかのネットワークに関連してのことなのか、同情報だけでは判然とはしません。

 何れにしましても、ゼレンスキー大統領並びにその背後に控える世界権力にとりましては、同停戦案に基づくウクライナのNATO加盟が最も望ましい未来であったのでしょう。自らの望むときに、何時でも第三次世界大戦を引き起こせるのですから。しかしながら、この案は、既に多くの人々によってリスクが認識されていますので、同案の実現は望み薄です。そこで、同勢力にとりましての次善の策となるのが、ウクライナがNATO非加盟の状態で通常兵器による戦争を続けつつ、チャンスを狙って第三次世界大戦に持ち込むという作戦なのかもしれません。

 同作戦では、NATOはウクライナ加盟による第三次世界大戦リスクを回避し得る一方で、自らを戦場となすこともなく、また、軍人を含めて自国民を犠牲にすることなくして戦争を継続することができます。戦争が継続している間は、兵器は消耗品ですので軍需産業には常に利益が転がり込んできます。兵器の製造や販売等によって利益を得る戦争ビジネスにとりましては、戦争の早期終結こそが‘悪夢’なのです。戦争に対する認識が一般の人々とは真逆と言えましょう。

 アメリカを筆頭に、フランスやイギリス等の諸国も自国内に軍事産業を抱えており、それらが金融・産業財閥である世界権力の傘下にある現状からしますと、ウクライナ加盟案が第一候補ではなく、むしろ、第二候補となる同案へと引き込むための‘囮’のようにも思えてきます。

 この路線については、フィナンシャル・タイムズとのインタヴューにおいてNATOのルッテ事務総長は、ウクライナのNATO加盟には難色を示しながらも、同国への支援継続については前向きな姿勢を示しています。また、欧州諸国が資金のみを提供し、兵器等の製造はウクライナ国内で行なうとするデンマーク方式も、欧米系の兵器製造メーカーによる製造拠点の移転として理解することもできましょう。あるいは、巨額の債務を抱え、かつ、腐敗大国のウクライナのことですから、支援金は債務返済に充てられるか、あるいは、闇に消えてしまうかも知れません。アメリカにあってトランプ次期大統領の当選が決まった直後に岩屋外務大臣がウクライナに飛び、支援継続を約束するぐらいですから、日本国政府も同路線に同調しているのでしょう。

 かくして、第二案は、戦争利権に与る勢力にとりましては望ましいのですが、何れの国でも、その負担は国民に重くのしかかります。戦争当事国のみならず、支援国の国民もまた間接的ながらも‘犠牲者’であるとも言えましょう。日本国民を含む関係諸国の国民負担に鑑みますと、戦争の早期終結は急がれるのですが、NATO加盟と停戦とをセットとしたゼレンスキー大統領の非現実的な提案はむしろ障害となり、停戦を遠のけてしまいかねません。そして、他の諸国の国民の立場も考慮すれば、現時点における同問題に対する最善ではないにしても最も犠牲の少ない方策とは、ウクライナの単独核武装ではないかと思うのです(つづく)。

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