言葉による威嚇をもって阻止しようとするプーチン大統領のパフォーマンスは、ウクライナのみならず、日本国にも向けられています。ロイター通信社が、先日11月27日にロシア外務省のザハロワ報道官が、アメリカがミサイルを日本国内に配備した場合、‘モスクワは報復措置を取るだろう’と述べたと報じているからです。同記事によれば、日米両国による台湾有事に備えた南西諸島へのミサイル部隊配備計画を念頭に置いたものとされております。その一方で、ザハロワ報道官は、ロシアが策定した「核兵器使用に関するドクトリン」に言及していますので、ミサイルとは、核ミサイルを意味すると共に、ロシアがかねてより主張してきた‘核武装に対する核攻撃’の可能性をもって日本国を威嚇したことにもなりましょう。
このロシアからの威嚇、冷静になって検討してみますと、疑問に満ちています。そもそも、台湾有事が、何故、ロシアが核使用の要件としている国家存亡の危機を与えるのか、全く論理的な説明がありません。中国を対象とした日本国内のミサイル配備は、本来、ロシアとは直接には関係のないお話のはずなのです。ソ連邦時代から盟友関係にあり、2001年にテロ対策を目的に設立された上海協力機構のもとに協定国でありながらも、中ロ間に正式の二国間の軍事同盟が成立しているわけでもありません。仮に、近い将来において中国による台湾侵攻を機とした発生した米中戦争がロシアにも飛び火するとロシアが見なしているとしますと、それは、ロシアが、‘確定済み事項’として、ウクライナ戦争と台湾有事をリンケージし、第三次世界大戦に発展する事態を想定している証ともなりましょう。
この点、ロシアは、2024年6月19日に北朝鮮と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、積極的に極東への戦火の拡大ルートを敷くべく、積極的に動いています。今では、北朝鮮兵士が、ウクライナ軍の占領下にあるクルスク州で戦闘に参加しているのですが、それでは、ウクライナとの戦争に際して兵力が不足するならば、何故、プーチン大統領は、ベラルーシといった近隣に位置するCSTO(集団安全保障機構)の加盟国を頼らなかったのでしょうか。
因みに、他のCSTO加盟国は、アルメニア(ただし、現在、同機構からの脱退方針を表明・・・)、カザフスタン、キルギス、タジキスタンであり、上述した上海協力機構にも加盟しています(上海協力機構の他の加盟国は、ウズベキスタン、インド、パキスタン、イランであり、アルメニアは対話パートナー)。少なくともウクライナ軍がクルスク州の地域を占領した時点、即ち、2024年8月以降にあっては、ロシアは、‘侵略’に対する防衛戦争と見なしてCSTO諸国に対して集団安全保障条約の第4条に基づく集団的自衛権の発動を求めることもできたはずなのです(ロシアが、戦争ではなく、人道的介入を目的とした特別軍事作戦とする立場を貫くならば、ロシア領へのウクラナ軍の攻撃は‘侵略’となるはず・・・)。もっとも、他の加盟諸国も、その本心においてロシアのためにウクライナとは闘いたくはないのでしょう。
敢て極東の軍事独裁国家である北朝鮮を自国の戦場に呼び入れた背景として、第三次世界大戦シナリオの存在が想定されるのですが、中国を一心同体の同盟国のように見なす今般のロシアの発言も、第三次世界大戦を強く意識したものとして理解されましょう。今になって振り返ってみますと、1902年1月30日における日英同盟の締結も、グローバル戦略の視点からすれば、日露戦争のみならず‘世界大戦’への布石であったようにも思えてきます。二国間紛争や地域紛争を世界大の戦争へと拡大させるには、飛び火先となる遠方の諸国と軍事同盟条約を結ぶのが常套手段なのです。そして、‘鉄砲玉’として使える‘国家’を準備しておくことも、重要な作業工程なのかもしれません。
何れにしましても、ザハロワ報道官の対日、否、対米威嚇には、中ロ陣営という第三次世界大戦における明確な陣営がその輪郭を表していると言えましょう。そして、次なる疑問は、‘ロシアの安全のために非核保有国の核武装を阻止するために核攻撃を行なう’とするロシアの核ドクトリンです。論理的に考えますと、この理屈が通らないことは明白です。端的に言えば、ロシアには、この主張を正当化し得る法的根拠は何もないからです。NPT条約の成立の趣旨からすれば、矛盾に満ちた主張となりましょう。何故、ロシアは、かくも無理筋の主張を行なうのか、この点についても、第三次世界大戦シナリオが関連しているように思えるのです(つづく)。