万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ支援継続も天文学的な負担になるのでは?

2024年02月22日 13時54分57秒 | 日本経済
 一昨日の2月20日付けの日本経済新聞の一面には、「断念なら「天文学的な負担」」と題する記事が掲載されておりました。「平和のコスト」という欄においてウクライナに対する「支援疲れの代償」を論じたものです。同記事には、昨年12月に米戦争研究所が公表したロシア勝利のシナリオに関する予測が紹介されております。‘断念なら天文学的な負担’とは、ウクライナ支援を断念し、ロシアが勝利した場合におけるアメリカにのしかかる防衛費のコストを意味しているのです。しかしながら、ウクライナ支援を継続しても、やはり‘天文学的な負担’が生じるように思えます。

 米戦争研究所の予測は、ロシアの勝利⇒ロシアがEU各国国境の軍備増強⇒NATOも防衛費増額⇒天文学的なコスト・・・ということになります(因みに、既に決定されている600機のF35の配備にしても、一機およそ100億円・・・)。予測される巨額の防衛費を考えれば、ウクライナが敗北しないように支援を継続した方が望ましいという提言なのです。アメリカ国内では、一般世論を含めてウクライナ支援に対する逆風が吹いていますので、同研究所は、より‘悪い予測’を示すことで世論の流れを変えたかったのでしょう。

 しかしながら、同予測は、無限にあり得る将来の展開にあって、最もウクライナ支援の継続にとって説得材料となるシナリオを選んでいるに過ぎないのかも知れません。コスト面で説得しようとするならば、むしろ、即時停戦を提案した方が、より多くの人々が納得したことでしょう。これ以上、ウクライナに巨額の資金を投入する必要もなくなり、かつ、復興費用も抑えることができるのですから。戦闘が停止されれば、後に再建や修復が必要となる居住施設やインフラ等の公共施設の破壊も止まりますし、しかも、現在ロシアが一方的に併合し、主要な戦場となった地域の復興費用は全額ロシアの負担となります。

 ロシアにしてみても、自国が勝利すれば、‘戦後復興’のために多額の予算を費やす必要性も生じるのですから、NATO諸国を震撼させるほどの規模の軍を、ヨーロッパ諸国との国境線に配備する余力があるとも思えません(翌日の21日に同欄で掲載されたロシアに関する「原油収入で継戦能力向上」という記事は、あるいはロシア脅威論に説得力を与えるために配されたのかも知れない・・・)。また、ウクライナに対する‘特別軍事行動’に際して主張した口実、即ち、東西間の内戦も、ロシア系住民に対する虐殺や弾圧といった固有の事情も存在しないのですから、ロシアがヨーロッパ諸国に対して戦争を挑もうとする説は、相当に疑わしいのです。この論法は、ゼレンスキー大統領が事あるごとに支援を引き出すために訴えていたロシア脅威論ですので、一種の常套句なのでしょう。

 その一方で、停戦に持ち込めず、通常兵器による戦闘が続くとすれば、そのコストは莫大です。仮に通常兵器においてウクライナが勝利する状況に至っても、ロシアは躊躇なく核兵器を使うでしょうから、振り出しに戻されてしまうのです。あるいは、アメリカ並びにウクライナ側は、ロシアに核兵器を使わせないために、敢えて膠着状態のまま戦争を続けてゆくという、愚かしい選択を余儀なくされるかもしれません。このケースでも、停戦の見通しも決定的な勝利も見えぬままに、戦費だけは天文学的な額に積み上がってゆくことになりましょう。

 さらに同記事では、日本国の負担増についても語っています。ロシアが勝利した場合、アメリカは、ヨーロッパ諸国の防衛を優先させるため、アジアへの兵器等の配備が手薄になり、中国の脅威に晒されるという説です。しかしながら、この説も、説得力に欠けているように思えます。何故ならば、このまま長期に亘り、外部から言われるがままにウクライナに巨額の支援を続けるよりも、その予算は、対中国を想定した防衛力の強化に向けた方が余程、対中抑止力となるからです。さらに言えば、日本国も核の抑止力で中国を抑えた方が、遥かに低コストかつ高効果となりましょう。

 ウクライナ紛争自体がロシアをも‘駒’とした戦争ビジネスのための茶番である疑いが濃い点を考慮しましても、ウクライナ支援の継続は、日本国を含む全支援国の膨大なる国費の無駄遣い、あるいは、世界権力への‘貢納’になりかねません。日本国政府は、累積支援額が天文学的となる底なし沼に嵌まらぬように、イスラエル・ハマス戦争と同様に、ウクライナ紛争にあっても停戦の実現にこそ努めるべきではないかと思うのです(なお、停戦は、ロシアによるウクライナ領併合の容認を意味するわけではない・・・)。

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