万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

変えるべきは戦争への対応-兵力や資金より知恵を

2024年02月23日 12時07分05秒 | 国際政治
 今日の国際社会では、戦争が起きる度に、紛争国との関係が希薄であったり、直接的な利害関係が殆どない中立的な国であったとしても、旗幟を鮮明にするよう促されているように思えます。どちら側に付くのかが問題となり、国内の世論が二分されることも珍しくはありません。そして、どちらか一方の○○陣営の一国に括られますと、兵力や資金の提供を迫られかねないのです。実際に、ウクライナ紛争では、日本国は、ウクライナ・アメリカ・EUの所謂‘西側’陣営のメンバー国と見なされ、ロシア=侵略国=悪の固定化された構図の元で多額のウクライナ支援を強いられてきました。しかしながら、冷静になって考えてみますと、この陣営対立を必然とするような二分法的な戦争への対応は、下記の理由から見直しを要するのではないかと思うのです。

 今日に至る国際法の発展は、戦争を違法行為とするに至っています。違法化されれば、戦争はこの世から消え去るように思えるのですが、戦争の違法化には、一つのパラドックスがあります。それは、双方とも自国の正当防衛を主張する、すなわち、相手国を侵略国家として認定すれば、正当防衛行為として戦争を合法的に行なうことができるという、違法化を逆手に取ったような戦争の誘発です。このため、挑発、内部工作、偽旗作戦、政治家の買収など、相手国、あるいは、両国に対して戦争誘導工作がしばしば仕掛けられるのです。

第二次世界大戦を機に制定された国連憲章でも、侵略国家の出現が想定されており、将来的な国連軍創設構想を含みつつ、各国に個別的並びに集団的自衛権を認めています。防衛権の容認とは、逆から見ますと、正当防衛の権利が悪用され、かつ、国際法秩序全体の問題とされた場合、全ての諸国が巻き込まれてしまうリスクを示しています。それが、正当防衛を訴える側の如何なる主観的な認識であったとしても・・・。そしてそれは、二分法的な対応からすれば、各国に対して、‘違法行為’と見なすか、否かが迫られることをも意味します。

 ウクライナ紛争、並びに、イスラエル・ハマス戦争を見ましても、アメリカは、それぞれロシアを侵略国、ハマスをテロリストとして認定し、ウクライナ並びにイスラエルの戦いを正義ための戦争と見なしています。同認定は、同盟国を自らの陣営に引き込み、自らの軍事行動を正当化するための絶対的な必須要件です。国際法秩序の維持を根拠としてウクライナ支援を実施している日本国政府も、ロシア=侵略国の立場を堅持する理由も、まさにこの点にあります(日米安保条約にあっては、日本国にはウクライナ支援の法的義務はない・・・)。自らの政策を正当化するためには、‘疑ってはならない’のです。

 しかしながら、ロシアによる軍事介入であれ、イスラエルのガザ攻撃であれ、その真相は明らかにされているわけではありません。ウクライナ側にもアゾフ連隊によるロシア系住民による非人道的行為が指摘されていますし、ハマスに至っては、音楽フェスティバルを舞台としたテロ事件に散見される不自然さもあって、イスラエルによる偽旗作戦さえ疑われています。あるいは、ロシアは、自らの軍事介入を正当化するために、協力者を介してウクライナを内部から誘導したのかもしれません。そして、最も疑わしいのは、両者を上部から操る世界権力なのですが、何れにしても、中立的、かつ、公平な司法機関によって十分な調査が行なわれ、証拠等が収集されたたわけではないのです。国連安保理における常任理事国の事実上の拒否権による決議不成立も、織り込み済みなのでしょう(この結果、主観的な侵略認定、あるいは、正当防衛認定がまかり通ってしまう・・・)。そして、ウクライナの要請を受けてICJ(国際司法裁判所)がロシアに対して下した暫定措置も、損害を最小限に留めるための推定に基づく仮の決定なのです。

 今日の国際社会における安全保障の多重構造(国連、地域的軍事同盟、国家レベルの防衛)は、国際法によって戦争の違法化が試みられつつも、司法制度の整備が追いつかないために、むしろ、戦争誘発並びに拡大要因となっているとしか言いようがありません。集団的自衛権にしても、発動要件は防衛戦争に限定されてはいても、攻撃を受けたという‘事実’だけで戦火が広がることとなります。言い換えますと、同攻撃の背後に工作活動や謀略等がたとえ存在していたとしても、その存在や事実関係を確かめることなく、戦争が激化してしまうのです。

 こうした問題は、既に多くの諸国にあって深く認識されてきているのかも知れません。実際に、アメリカがロシアを侵略国家として認定しても、同盟諸国以外の国々では、冷ややかな反応を示したり、中立的な立場を表明する国も少なくありません。イスラエルに至っては、その正当防衛の主張も、パレスチナ紛争の経緯やその非人道的な行為によってかき消されているのが現状と言えましょう。イスラエルは、ジェノサイドをはじめとした国際法上の罪が問われており、事態は逆転しているのです。

 こうした国際社会の変化を考慮すれば、今日の国際社会に必要としていることは、司法機能の強化に向けた制度面での改革ではないでしょうか。例えば、二国間での紛争が生じた場合、他の非当事国は、たとえ軍事同盟国関係にあったとしても、中立・公平な国際機関による背後関係を含めた十分な事実調査が済むまでは、紛争当事国を支援したり、集団的自衛権を発動を控えるとすべきかもしれません。また、証拠をもって違法行為が認定された場合でも、同盟国の軍事力は、兵力引き離しや住民保護と言った警察的な活動に限定するといった方法もありましょう。戦争が発生する度に、兵力や資金の提供が求められるのですが、真に提供すべきは、平和のための知恵ではないかと思うのです。

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