先日11月6日、相模湾で開催された国際観艦式に出席した日本国の岸田首相が、その後、米原子力空母「ドナルド・レーガン」に乗艦し、「突っ込んだ質問」を浴びせたと報じられました。首相の質問内容とは、中国が建設している新型空母「福建」の能力に関するものなのですが、首相のこの言動には、どこか不可解な点があるように思えます。
そもそも、中国が国際法を誠実に遵守し、専守防衛に努めるのであれば、空母を保有する必要性はないはずです。遊牧系の異民族によって支配された時期が比較的長い中国は、伝統的には海洋に対する関心が薄く(鄭和の南海遠征は例外的であるからこそ、中国は、ことさらに強調したがるのでは・・・)、むしろ、東シナ海などでは倭寇の活動を恐れて守りに徹していた時期もありました。大航海時代にあっても、西欧諸国のように海に浮かぶ島々を自らの領地として獲得したわけではなく、中国は、伝統的には大陸国家であったのです。
ところが、1980年代以降になりますと、中国は、改革開放路線と並行するかのように本格的に海洋戦略を展開するようになります。日本国との間の尖閣諸島問題も先鋭化すると共に南シナ海における活動も活発化し、1992年には「領海法」を制定するに至るのです。中国は、同法をもって、自らの国際法上の違法行為のみならず、空母の保有をも正当化しようとしたとも言えましょう。そして、2012年には、ロシアから空母を買い取り、漢字で「遼寧」と命名することで、最初の空母を手にするのです。
以上の経緯からしますと、中国による空母保有という事実自体が同国の拡張主義の表れとなりますので、中国の空母保有を当然のことと見なす国際社会の風潮は、望ましいことではありません。そこで、今般の岸田首相の質問も、中国に対する日米共同の牽制として理解されているのですが、その真意はどこにあるのでしょうか。
第一に、軍事面における日米の協力強化のアピールが目的であったとすれば、首相の質問は、両国間における情報共有のレベルが極めて低い実態を晒してしまっています。上述したように、首相の問いは、中国の新式空母の性能に関するものであり、具体的には、アメリカの空母と同様に最先端の電磁式カタパルト射出機を搭載した「福建」の運用能力を問うものでした。同質問に対しては、アメリカ側は、あっさりと「乗組員のスキルがない」と回答しています。報道では、‘電磁式カタパルト射出機’という軍事用語に惑わされてか、「突っ込んだ質問」と表現されているものの、内容的にはそれほどには専門的ではなく、両国間では、基本的で初歩的な情報さえ共有されていない現状を露わにしているのです。
第二に、岸田首相に対するアメリカ側の回答も、中国にとりましては痛くも痒くもないかもしれません。同回答に岸田首相は「やっぱり機体だけでは駄目だ」として納得した様子であったと報じられていますが、運用能力の低さが乗組員のスキルによるのであれば、訓練次第では、米軍並みにスキルアップする可能性があります。軍事テクノロジーにおいて中国側が絶対的に劣位しているのであれば安心できるものの、人的スキルの問題であれば、これを克服すれば中国はアメリカに追いつきます。言い換えますと、両者による質問と回答は、中国脅威論を払拭するどころか、米中両軍事大国が肩を並べる将来を暗示しているのです。
第三に、岸田首相は、対中強攻策に転じた自らの姿を国民にアピールしようとして中国の空母について質問をしたのかもしれません。しかしながら、先にも述べたように、首相の中国空母に関する問いは、一般の人々からも質問されそうなものであり、法律上にあって首相が自衛隊の指揮権を有する立場にあることを考慮しますと、国民の多くは心許なく感じたことでしょう。同盟国に聞かなければ、日本国の首相は、中国空母の実力を知ることができないのですから。もっとも、中国空母に関する情報は機密情報なので、首相は知り得る立場にありながら表向きは知らないふりをしているとする擁護論もあるかもしれません。しかしながら、この場合でも、何故、首相が、敢えて米軍に尋ねたのか、という疑問が残ります。
そして、第四として指摘されるのは、これまで親中派とされてきた岸田首相による米軍への問いは、実は中国のためではなかったのか、という疑いです。この場合、岸田首相は、中国の新式空母に関する性能についてどれほど米軍が情報を収集しているのか、すなわち、その性能を正確に把握しているのか、探りを入れたことになります。仮に首相が中国の代わり米軍から情報収集の現状を聞き出そうとしたとすれば、アメリカ側は、乗組員のスキルという一般論で答えることで、上手に首相の質問をはぐらかしたことになりましょう。米軍が岸田首相の背後に中国の影を察知していたとすれば、たとえ「福建」に関する詳細な情報を既に入手していたとしても、日本国側には伝えない可能性もあります。米軍側が岸田首相に対して不信感を抱いているとしますと、国際社会にあっては、同報道は、むしろ日米の間に吹いている隙間風として理解されるかもしれません。
以上に述べてきましたように、岸田首相の空母質問には、つかみ所のない不可解さがあります。その一方で、国際社会全体の流れをみますと、ロシアのみならず、日米中共に戦争への道を歩みつつあるようにも見えます。もしかしますと、中国がトリガー役を担当しているのかもしれません。岸田首相の挙動不審な行動には要注意ではないかと思うのです。