万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカ政治は二党対決から二大政党制との対峙へ?

2022年11月10日 12時58分10秒 | 統治制度論
 11月8日に実施されたアメリカの中間選挙では、事前の予想よりも共和党が伸び悩み、同党の大勝とまでは至らなかったようです。バイデン大統領は、早々に「巨大な赤い波の現象は起きなかった」として安堵感を示しています。「民主主義を維持し、この国の選択の権利を守りたいというメッセージを送った結果だ」とも述べていますが、バイデン政権、リベラルに内在する反民主主義、反自由的傾向を考慮しますと、この言葉も虚しく響きます。否、過激なポリティカルコレクトネス、グローバリズムの推進による中間層の破壊、有無も言わさぬワクチン押し、狂信的とも言える脱炭素への傾斜、IT大手と結託したデジタル全体主義の推進、あるいは、メディアによる世論誘導や偏向報道など、反民主主義、反自由な政策や行いを挙げれば切がありません。このため、民主党が民主主義の真の擁護者であると信じる人は、減少の一途を辿っているのです。

共和党の伸び悩みの原因としては、期日前投票や郵便投票数が増えたことから、今回も不正選挙を疑う声がある一方で、中絶禁止問題が共和党離れの主因であるとする指摘もあり、今般の選挙結果をもたらした要因は、今後の詳細な分析に待たれることでしょう。今般の中間選挙もまた、アメリカ政治の混迷を内外に示すこととなったのですが、アメリカの二大政党制が曲がり角に至っていることだけは、確かなように思えます。共和党の議席が伸びなかったのは、民主党への積極的支持の結果ではなく、国民が選択し得る政党が二つしかなかったからに他ならないからです。

現代の政治とは、極めて広範な問題領域を含みますので、二つの政党を以て国民の多様な政治的信条、要求、政策選択などを表出できるはずもありません。○○分野ではA党の政策を支持するけれども、△□の問題では、B党を支持するというケースは無数にあります。たとえは、今般の米中間選挙でも、インフレ問題では現バイデン政権に対する批判から共和党を支持するけれども、中絶禁止問題では民主党に賛同するという有権者は少なくないはずです。こうした場合、政党そのものの選択ではなく、どちらの問題を有権者が優先するのかによって投票先の政党が決定されるのです。

何れにせよ、選挙の結果とは、国民が特定の政党を積極的に支持した結果ではなくなります。今日、社会が複雑化するにつれて政治的争点の数も増加していることに加え、グローバリズムがもたらす負の煽りを受けて、固定的な支持層であった労働者や農民層が民主党離れを起こしています。幾つかの要因が重なって、支持政党なしの有権者、即ち、浮動票のパーセンテージも上がっており、この傾向は、年々強まっているとも言えましょう。

 そして、二大政党制のもう一つの問題点は、二頭作戦を遂行する側に取りましては、これほど好都合な制度はない、ということです。二大政党制の場合、両政党をコントロール下に置くことができれば、その国の政治権力を凡そ掌握することができるからです。とりわけ、世界権力の力の源泉はマネーにありますので、この絶大なるパワーを用いれば、二つの政党を手中にすることも夢ではありません。米ソ冷戦が終焉を迎え、グローバリズムが本格化した80年代以降、左右のイデオロギー対立が和らぎ、共和、民主両党の政策的違いも薄らいだとする指摘がありますが、この現象も、本当のところは二頭作戦の結果であったのかもしれません。

 今日、中間選挙であれ、大統領選挙であれ、メディアは、‘共和党が勝った’あるいは‘民主党が負けた’というように、どちらの政党がより多くの議席もしくは選挙人を獲得したのか、という平面的な勝敗に焦点を当てて報じています。しかしながら、二頭作戦の存在を仮定しますと、両党間の勝敗に一喜一憂するのではなく、国民が真に対峙しなければならない相手とは、現代という複雑な時代に適応しておらず、かつ、国民の分断を招くと共に二頭作戦に悪用される余地のある二大政党制という政治の仕組みそのものであるのかもしれません。現状のままでは、アメリカは、国是とされてきた民主主義や自由という価値から離れてゆく一方となるのですから。

 本記事は、建国以来、アメリカに根付いてきた二大政党制という政治制度の問題点、並びに、その改善を問うていますので、いささか‘気が早い’と思われるかもしれません。しかしながら、より現代という時代あった政治制度とはどのようなものなのか、国民から民主主義を遠ざけている要因は何処にあるのか、自国の政治を動かしているのは誰なのか、思考停止から抜け出して真剣に考えてみる必要がありましょう。そして、この問題は、日本国をはじめ多党制の国でも形を変えてあり得るのですから、アメリカに限られたことではないように思えるのです。

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