万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政治家こそ‘チャットGPT失業’の問題を真剣に考えるべきでは

2023年04月28日 10時55分41秒 | その他
 オープンAIが開発したチャットGPTをはじめとした生成系AIは、高い文章作成能力や応答能力を備えるために、あらゆる分野に破壊的な影響を与えるとされています。日本国内でも、オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者や同社に巨額の出資をしているマイクロソフト社のフラッド・スミス副社長が来日し、政府に導入促進を働きかけています。

マイクロソフト社は、本年1月に、オープンAI社に対する凡そ1.3兆円の追加出資を公表し、同社の投資が回収されるまでの間、オープンAI社の利潤の75%を獲得する権利を得たとされています。チャットGPTにあっては、マイクロソフトの存在感が増しており、将来的には、オープンAI社の49%の株式を保有する予定なそうです。この背景には、検索エンジン分野でグーグル社の後塵を拝しているマイクロソフト社としては、オープンAI社との連携により、新たに登場した‘AI検索エンジン’ビジネスにおいて先んじる思惑も指摘されています。

そして、日本国政府とビル・ゲイツ氏との親密な関係を考慮しますと、マイクロソフト社がチャットGPTの普及促進のために、日本国政府に白羽の矢を立てた理由も自ずと理解されるのです。なお、今日のレベルでは、生成系AIは、政界における力関係まで分析できるとされていますので、首相や閣僚、あるいは、自民党幹部といった「面会者リスト」は、マイクロソフト社がチャットGPTに「自社のサービスを日本国内で拡大するためには、誰に会うべきか?」という質問に対する回答に基づいて作成されたのかもしれません。

 マイクロソフト社並びにオープンAI社側の積極的な‘政治家詣出’が功を奏したのか、日本国政府並びに政治家の多くは、公務員の行政事務のみならず、国会の答弁にまでチャットGPTを活用する方針を示すようになりました。しかしながら、政治の領域での生成型AIの導入が、政治家という職業の自己否定になる可能性について、政治家の方々は気がついているのでしょうか。

AIの普及につきましては、近い将来、ホワイトカラー職の大量失業を招きかねないとする指摘があります。実際に、マイクロソフト社を含む大手ITは、他の分野に先駆けて、積極的な人員削減に乗り出しています(先んじて金融工学並びにDXが発展した金融業などでも、同様の動きが広がっている・・・)。政治家という職業も、知的活動ですのでホワイトカラーの一種ともいえ、失業問題は他人事ではないはずです。しかも国会答弁とは、チャットGPTが最も得意とするところの対話形式の‘お仕事’なのです。

今日の日本国の国会の風景を見ますと、国会議員に国民からの負託を自負する高い職業意識があるとは思えません。閣僚席に座る大臣であっても居眠りをしている姿が多々目撃されており、活発な議論が行なわれている様子もありません。古色蒼然とした形式的な議事進行のあり方にも問題があるのでしょうが、この状態では、チャットGPTの答弁の方が優れている可能性は否定はできません。少なくとも、「記憶にありません・・・」とか、といった回答はしないはずです(もっとも、チャットGPTであれば、如何にでたらめであっても、それらしい回答を作成しますので、国会での活用とは、この意味かもしれない・・・)。個人の能力を遥かに超える大量の情報がインプットされていますので、生成型AIには、少なくとも情報量の面では人間の政治家は太刀打ちできないのです。政治家がチャットGPTに劣るのであれば、政治家(国会議員)不要論が持ち上がっても不思議ではありません。

しかも、国会答弁に活用するならば、回答の精度を高めるために、あらゆる情報を入力しなければならなくなります。入力すべき情報は、個々の政治家の人脈や個人情報のみならず、国家機密等にも及ぶことでしょう。そして、チャットGPTに活用した結果、国会では、自動的に作成された回答を読み上げるだけの役割に堕した政治家が、ぺらぺらと国家機密をしゃべり始めるかもしれません。あるいは、国民は、「この政策は、○○大臣の親族の×△が、△□国からビジネス利権を保障されているために決定されました」とか、「同システムの採用は、△○大臣が同システムを開発した海外の□○社から○○億円の裏献金を受けたことによります」といった、チャットGPTによる正直な回答を聞くことができるかもしれません。さらには、海外の某勢力や組織からの指令であったという回答もあり得ないわけではありません。後者のケースであれば、国民の多くは、チャットGPTのオープンな回答に惜しみない拍手を送ることでしょう(もっとも、悪しき政府や政治家、あるいは、世界権力等が入力データを恣意的に改竄したり、取捨選択すれば、表面的な回答しか期待できない・・・)。

以上に政治分野に生成系AIを導入した場合に予想される事態を予測してみましたが、同サービスの導入に諸手を挙げて推進を表明した政治家の方々は、一体、自らの職業あるいは存在意義をどのように考えているのでしょうか。生成系AIの採用に際してリスク面を一顧だにしないで導入を進めますと、政治家自らに失業リスクが跳ね返ってくるように思えます。否、今日の政界の腐敗と劣化が、政治家の代替としての生成系AIの導入を正当化しかねないのです。この側面からしますと、むしろ、政治家は、‘チャットGPT失業’の問題を、自ら自身が直面している問題として真剣に考えるべきかもしれません。政治家は、常に国民に対しては過酷な変化に耐え忍ぶように求めながら、自分自身は、既得権益にしがみついて決して変わろうとはしないのですから。なお、本記事は、チャットGPTによって作成されたものではありませんので、ご安心くださいませ。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« データ面から見たチャットGPT... | トップ | AIと民主主義-そのリスクと... »
最新の画像もっと見る

その他」カテゴリの最新記事