万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

チャットGPTのジレンマ-回答の正確さと機密情報の提供

2023年04月26日 13時50分42秒 | その他
 2022年11月にオープンAI社が公開したチャットGPTは、瞬く間に全世界に広がることとなりました。知りたいことに即答してくれる便利さ故に、ユーザー数は、公開から僅か2ヶ月足らずで全世界で1億人を超えました。日本国内でも、先日の記事でも指摘したように、早、政治家を旗振り役として、国会答弁や行政レベルでの導入が進められています。普及スピードは破竹の勢いなのですが、チャットGPTには、克服しがたい問題も山積しているように思えます。

先ずもって指摘し得るのは、ユーザーとチャットGPTとの間の非対称性です。同AIの利用が広がった背景には、両者の間の圧倒的な情報量の差があります。一人のユーザーが収集し得る情報は限られていますが、チャットGPTには、人間の記憶量を遥かに上回る巨大なデーターベースが備わっております。この情報量の差があってこそ、ユーザーとチャットGPTとの間に質問者と回答者という関係が成り立つのです。両者に同じ課題のレポートを書かせたとしたら、情報量に優る後者の方が、より広範囲に亘って課題に即した対象を探し出し、詳細で緻密な内容の回答を作成することでしょう。大半のAIがそうあるように、チャットGPTは、情報量の優位性に立脚したサービス・ビジネスなのです。

ところが、チャットGPTの優位性は、情報の量ではなく質に注目しますと、必ずしも当てはまらなくなります。誤った情報のみならず、回答の正確性や妥当性に決定的な影響を与える内容の情報が一つでも欠けていれば、必然的に誤った文章を作成してしまうからです。最悪の場合には、真逆の回答ともなりかねません(‘陰謀論’が事実であるケースや偽旗作戦が頻発している現状では、チャットGPTは大手メディアや政府による模範解答的な回答しか作成しないのでは・・・)。如何に大量のデータをインプットしていたとしても、情報の重要性や正確性おいては、チャットGPTはその優越性を保障されていないのです。

それでは、どのようにすれば、この弱点を克服できるのでしょうか。質の面においても優位性を確立しようとすれば、正確性の獲得に要する‘重要情報’を収集する必要があります。チャットGPTの使用に際して、ユーザーが個人情報の提供を求められるのも、回答の正確性を期するという理由もあるかもしれません。同サービスでの両者間の質疑応答の内容は、全てチャットGPTのデータに追加されるそうです。個人的な事柄についてより有益な回答や助言を求めよとすれば、自らの個人情報を包み隠さず伝え、チャットGPTに‘学習’させ訓練データ化されなければならないのです(教会ネットワークによる情報収集の手段となったとされるカトリックの懺悔室のよう・・・)。

そして、この問題は、民間企業がチャットGPTに対して消極的とならざるを得ない理由をも説明しています。例えば、Amazon社では、社員が誤って社外秘をチャットGPTに入力した可能性があるとして、「現在開発中のコード含むAmazonの極秘情報をChatGPTと共有しないよう」社員に対して通達したとされます。言い換えますと、チャットGPTに対して正確性を求めれば求めるほど、企業は、自社の機密情報を提供しなければならなくなるというジレンマがあるのです。

果たして、チャットGPTは、こうしたジレンマを乗り越えることができるのでしょうか。全てのAIにまつわるこの難しい問題を、是非、チャットGPTに問うてみたいと思うのです(チャットGPTの回答は、‘機密を護るためにはチャットGPTを使わないことを、あなたにお薦めします’かもしれない・・・)。

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